コラム

 公開日: 2016-03-31 

天災と人災 ─戦争と震災の話─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 引導を渡した方の言葉に中村哲医師の言葉が重なり、書き置かずにはいられなくなった。

1 敗戦を生き延びたAさん

 ある時、枕経で祈ったAさんはあまりに昂然としておられ、驚いた。
 ご遺族からの身の上話では、少女時代を満州で送ったという。
 勃発した戦争と敗戦は、それまでの〈人生〉を奪い去った。
 家運隆盛の生活は夢のまた夢。
 みずぼらしい引揚者となって親族の家で暮らし、若い女性ながら列車に乗って闇米の買い出しなどを行い、家族、親族のために身を粉にしてはたらいた。

 それから半世紀以上が過ぎ、今度は東日本大震災に遭った。
 生活の崩壊と、周囲にあふれる膨大な死と悲しみは徐々にAさんの心身を蝕んだが、常にこう言っていた。

「これは天災でしょ。
 戦争に比べたら、まだまだ……。」

 そして、手元にある食材を用い、できるかぎりの料理を作っては家族や客人に精いっぱい振る舞い続けた。
 人間がもたらす巨大な愚行に対して〈挫けざる者〉の矜恃は、天災に遭ってなお厳然と揺るがなかったのだろう。

2 アフガニスタンの医師中村哲氏

 30年以上、アフガニスタンで人々を救い続ける医師中村哲氏は言った。

「天、共に在り」

「私たちが己の分限を知り、誠実である限り、天の恵みと人のまごころは信頼に足る。」

 穏やかな人々の暮らしが戦争によって脅かされるという巨大な不条理の中にあってなお、誠実に生きる時、人間は真の勇者であり、真人間であり続けられる。
 氏の人生は戦時中の空襲に始まり、「常に米軍が影のように」つきまとい、破壊者の影は「アフガニスタンまで」追いかけてきた。
 以下は著書『天、共に在り』による氏の述懐である。

「いま、きな臭い世界情勢、一見勇ましい論調が横行し、軍事力行使をも容認しかねない風潮を眺めるにつけ、言葉を失う。
 平和を願う声もかすれがちである。

 しかし、アフガニスタンの実体験において、確信できることがある。
 武力によってこの身が守られたことはなかった。
 防備は必ずしも武器によらない。

 一九九二年、ダラエヌール診療所が襲撃されたとき、『死んでも撃ち返すな』と、報復の応戦を引き止めたことで信頼の絆を得、後々まで私たちと事業を守った。
 戦場に身をさらした兵士なら、発砲しない方が勇気の要ることを知っている。

 現在力を注ぐ農村部の建設現場は、常に『危険地帯』に指定されてきた場所である。
 しかし、路上を除けば、これほど安全な場所はない。
 私たちPMSの安全保障は、地域住民との信頼関係である。
 こちらが本当の友人だと認識されれば、地元住民が保護を惜しまない。

 そして『信頼』は一朝にして築かれるものではない。
 利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。
 それは、武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる。
 私たちにとって、平和とは理念ではなく現実の力なのだ。
 私たちは、いとも簡単に戦争と平和を語りすぎる。
 武力行使によって守られるものとは何か、そして本当に守るべきものは何か、静かに思いをいたすべきかと思われる。」

「いたずらに時流に流されて大切なものを見失い、進歩という名の呪文に束縛され、生命を粗末にしてはならない。
 今大人たちが唱える『改革』や『進歩』の実態は、宙に縄をかけてそれをよじ登ろうとする魔術師に似ている。
 だまされてはいけない。
『王様は裸だ』と叫んだ者は、見栄や先入観、利害関係から自由な子供であった。
 それを次世代に期待する。」

「科学や経済、医学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人との和解を探る以外、我々が生き延びる道はないであろう。
 それがまっとうな文明だと信じている。
 その声は今小さくとも、やがて現在が裁かれ、大きな潮流とならざるを得ないだろう。」

3 人災に抗するもの

 私たちは天災を畏れ、防備に精を出す。
 しかし、天災は人智を超えているから天災であり、完全防備は不可能なので常に逃げる方法を考えておく必要がある。
 大自然がもたらす天災は、大自然の一部である人間にとって、いわば存在者の宿命である。
 だから、浜の人々は、海による犠牲者を供養すると共に、時として災厄をもたらす海をも供養する。(山内明美准教授)
 いのちを奪うこともある海は、決して〈敵〉ではあり得ない。

 一方、戦争は思い上がった人間による人災である。
 そして、人災は人間の行為であるがゆえに、それも丸ごと〈大肯定〉されはしない。
 ここが天災とは決定的に異なっている。
 愚かさに気づいた人間は、それを克服しない限り納得できない。
 霊性に発する良心があるからだ。
 冒頭に書いたAさんの言葉どおり、人災をもたらすものは、その根源を断たない限り悪魔として存在し続け、人間を脅かし、消えない傷を与え続ける。
 良心は、悪魔との永遠の戦いを命ずるからこそ良心である。
 
 中村哲氏は、砂漠に水を引くという自然との戦いに勝利したが、それは畢竟、「自然と人」との「和解」の範疇である。
 しかし、戦争との「和解」はない。
 終熄させる、つまり、存在させなくするしか、悪魔への対処法はない。
 氏は、悪魔をもって悪魔へ対峙する愚かさを説いている。
 具体的対処法は「人と人との和解」のみであろう。
 氏は実践者として、そこに目覚めよと言う。
 今、世の中を動かしている〈去り行く世代〉の義務が何であるか、よくよく考えたい。
 Aさんのように、現に去りつつある人々の冥福を祈るためにも。

「おん ばざら たらま きりく」
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0

 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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