コラム

 公開日: 2016-05-18 

運命と闘う芸術、おりあいをつけたい私たち ─ある茶話会にて─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。

 ある茶話会の途中でAさんが言われました。
「しばらく前、ご高齢になられた医師と芸術家の対談をテレビで観ました。
 医師の言うことは割合わかりやすく、自分で考えてきた自分の生き方や死に方と共通するものを感じて、とても納得できましたが、芸術家の話は理解に苦しむ部分が多々、ありました。
 長く生きてきた専門家の方でもいろいろおられるのですね。」
 それ以上、Aさんは詳しく話されませんでしたが、その違和感は何となく想像できました。
 医師と芸術家では役割が違うのでしょう。

 美術史家ケネス・クラークの著書『名画とは何か』にはこんなことが書いてあります。

「人生や芸術における英雄性は、人生が闘いであるという意識に基づいているのだとわたしは思う。
 そしてこの闘いにおいて決定的なのは、知性でも感性でもなく、勇気であり、意思の力であり、決断力であるのだ。
 英雄性は便宜性をさげすみ、いわゆる文明生活に寄与するすべての快楽を犠牲にすることを要求する。
 それは幸福の敵である。
 しかし、わたしたちは、それが人間の最高の達成であると認める。
 英雄性は単に物質的障害との闘いではないからだ。
 それは『運命』との闘いにほかならない。」

 Aさんのみならず、私たち、特に東北地方の人々は5年前の大震災に遭い、今また九州の大震災を前にして、自然に抗し得ない運命の過酷さを骨身に沁みて知らされ、それとの〈折り合い〉を模索している状況にあります。
〝運命は闘う相手なのか?〟
 きっと、そこのところでAさんは違和感を感じられたのでしょう。

 同書はさらにこう書いています。

「英雄性は人間主義(ヒューマニズム)に縁どられながらも、その彼方を見つめている。
 というのも、『運命』と闘うためには、人間は人間以上のものにならねばならないからだ。
 人間は神になりたいと願わねばならない。」

 私たちはそれぞれの分野で精進します。
 ただ生きる糧を得るためにはたらくだけでなく、向上心によって精神を高め、深め、人間として成長しつつ生きます。
 一方では、おりおりに、私たちがいかに〈限定された存在〉であるかを思い知らされます。
 まず、生まれた時点からままなりません。
 因果応報による輪廻転生には自分自身が責任を負っていますが、何ら自分で意図することなく、ある時代に、ある場所で、両親の子供として特定の性を持って生まれています。
 生まれ落ちた瞬間から老いと病気へ向かい、性も生も渇望しているのに、必ず心身が衰え、死ぬ確率は100パーセントです。
 そして、大自然の気まぐれな暴力により、あるいは人間の愚行により、モノもいのちもあっけなく失う可能性すら常にあります。
 運命は、はたして誰の手に握られているのでしょうか……。

 こうした人間が自分自身を眺めた時、運命と闘うために神になろうとはなかなか思えません。
 神を目ざす闘いの中で死んでいった人々の生き方が凡人の生き方の参考になりにくいのは当然です。
 私たちは、私たちが到達し得ない地点への到達を夢見る一握りの人々が表現した作品が示す異次元性の前で立ちすくむのみです。
 そこでは、知らぬ間に何かが解かされたり、インスピレーションやエネルギーを得たりというような、想像もしなかった現象が起こったりします。
 もちろん、違和感や不快感を催すこともあるでしょう。

 いずれにしても、いつもの自分がいつもの空間で感じていた範囲の世界を向こうから突き破られる体験には、その瞬間にしか得られない何かがあるはずです。
 Aさんはきっと、あの日から「あれは何だったのか?」という思いを抱き続けておられることでしょう。
 話を耳にした小生や信徒さんたちもまた、「それって何だろう?」と思いました。
 そのことは少なくとも、生命を活性化する方向で意味と意義を持っていると思います。
 貴重な対話でした。

「おん ばざら たらま きりく」
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0

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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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