コラム

 公開日: 2016-06-26 

ある心中事件・不透明な未来 ─さいたまの家族と、つげ義春著「無能の人」─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈「おらも連れてってくれえ」という叫びは、紙面から聞こえてきたような気がした〉

 6月23日、さいたま地裁は、昨年11月に両親を溺死させた罪で、波方敦子被告(47才)へ懲役4年の実刑判決をくだした。
 以下、「」内は産経新聞の報道である。

「母は認知症、一家を養ってきた父も病気に倒れ、生活保護を申請しながら一家心中の道を選んだ3人家族。」

「波方被告は姉2人が家を出た後、父母と3人で暮らしていた。

 高校中退後にいくつかの仕事をしたが、『仕事中に人の目が気になった』と退職した。
 事件当時は無職。
 退職後は両親のもとで暮らしたが、母は平成15年ごろから認知症とパーキンソン病を患うようになった。
 波方被告は母の介護を献身的に行っていたという。
 母の介護について波方被告は『母のことは大好きだったし、大変だとは思わなかった』と振り返っている。

 父は波方被告が幼いころに一度蒸発したが、約20年前から再び3人で暮らすようになった。
 それからは、真面目に新聞配達の仕事をこなし、月収は約18万円と決して多くはなかったが、時にはドライブに行ったりと3人での生活を楽しんでいたという。」

 しかし、はたらいていた父親が、頸椎圧迫による手足のしびれなどによってバイクに乗れなくなったばかりでなく、ついには歩くことすらできなくなり、11月末には手術が予定されていた。
 被告は言う。

「かわいそうだなと思ったし、父本人も『惨めだ』と感じていると思っていた。」

 11月17日、被告は生活保護を受けようと深谷市役所へ足を運んだが、その翌日、父親は心中を切り出した。

「あっちゃん、一緒に死んでくれるか」

 やがて、受給審査のために訪れた職員へ自分の人生を語った被告は、惨めさに、心中の実行を急いだ。

「仕事を転々として、高校も中退で惨めだと思ったけど、父も同じような感じで。
 親子で似たような人生だと、また惨めに思った」

 2日後の21日、車で突っこんだ利根川は浅く、水没しなかった。

「車は押しても進まず、波方被告は車内で水に浮かんだ状態の父母を車の窓から出した。

 右手に父、左手に母の服をつかむと、水深が深い方へと進んでいった。
『死んじゃうよ、死んじゃうよ』と言いながら手足をばたつかせる母に『ごめんね、ごめんね』と繰り返し謝った。
 いつのまにか父の服から手が離れ、母も動かなくなった。

『死んじゃったかな。私もこのまま流れにそって浮いていれば死ぬかな』と流れに身を任せた。
 川の水を飲んでははき出し、浮き沈みを繰り返していると、浅瀬にたどり着いていた。
 それからは、一緒に流れ着いた母の遺体が離れていかないように見守りながら、空を眺めたり、歌を歌ったり、うたた寝をして夜を明かしたという。」

 唄ったことに不謹慎と思う方もおられるはずだが、きっと、もう、何かが〈抜けた〉状態だったのだろう。
 
「法廷では、波方被告は被告人質問で『本当は3人で死にたかった』と繰り返し、『でも父を証言台に立たせることにならずに良かった。そんな残酷なことはない』と嗚咽をもらす場面があった。」

 父親は、貧しくとも気位を失わない人だったのではないか。
 死の選択はきっと、辛さからではないだろう。
 憂き世の辛さなどはもう、とっくに味わい尽くしていたはずだ。
 はたらけなくなり、もうこれまで、と覚悟したに違いない。

「6月21日の論告求刑公判では、最後に涙を流しながら『母と私はうり二つの親子。そこに父も入れて三位一体だと思っていた』『お父さん、お母さん。こんな私ですが、これからもどうか見守っていてください』と絞り出すように話した波方被告。」

 今どき、母娘が「うり二つ」あるいは、親子三人が「三位一体」と言い切れる家族など、どこにいようか?
 探してもなかなか見つけられない花が、人知れず咲いていた。
 生を諦めねばならない家族が咲かせた希有な花は、あまりに脆かった。
 しかし、心中を決意し、実行したことは、家族として生きた三人の揺るがぬ強さを示しているのかも知れない。
 この先の日本では、こうした〈家族〉が増えることだろう。
 人は満たされればバラバラになり、追いつめられれば結束する存在なのだろうか?

 約30年前、マンガ家つげ義春氏は、『無能の人』シリーズを書いた。
 登場人物は当時の社会からずれていたものの、真実を生きていた。
 そうした人々を遥か遠い時代と感じながら、なぜか、未来の登場人物でもあるような感覚を訝(イブカ)しがりながら読んだ記憶がある。
 決して輝きはしないが壊されもしない哀しい真実は、明らかに自分が失いつつあるという事実を突きつけられ、うろたえもした。

 子や孫の未来は茫漠(ボウバク)として霧の中にある。

「おん あらはしゃのう」
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM

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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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