コラム

 公開日: 2016-06-29 

広島の被曝人形と原爆供養塔を訪ねて

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。


〈原爆供養塔〉


〈被曝人形〉


〈この人形が私たちの目に触れてはならない理由などあろうか?〉


〈いったい、誰が、なぜ、この人形を撤去したいと望んでいるのだろう?〉

 広島の平和記念公園を訪ねた。
 目的は二つ、被曝者を立体的に描いた被曝人形を観ることと、原爆供養塔で供養すること。
 6月27日、東京での講習を終え、4時間後の午後9時前に広島市文化交流会館へ入った。
 小雨の中を飛ばすタクシーの運転手は「明日は大雨」と言う。

 覚悟して目覚めた翌朝の6時過ぎ、NHK『おはよう日本』は、写真家山口友香氏が妊婦のお腹を撮っていると報じた。
 お宮参りなどの家族写真を撮っていた氏は5年前、胎盤早期剝離で初産の子供を亡くし、一旦、カメラを置いた。
 しかし、その後、長男の出産に伴い、「命がけで産むことの尊さを伝えたい」と思うようになった。
 101人の妊婦のお腹を撮り、写真集を出版するのが目標だ。

 氏は被写体となる女性に対して毎回、決まった所作を行う。
 自分の体験を話す。
 死産という最悪の事態もあり得る過程をたどって生まれ、育つ生命の尊さを想って欲しい。
 出産、成長は決して、誰にでも与えられたあたりまえの幸せではないのだ。

 この番組は、小生の広島行きを象徴していた。
 被曝人形の世界をリアルに想像できてこそ、戦争や原爆が何であるかが理解でき、それらのない世界のありがたさもまた、実感できるはずだ。
 子供が唄い、ハトが飛び、善意の人々が祈る〈平和な光景〉だけでは、平和への強い希求は起こらないだろう。
 戦争と原爆への強い忌避もまた、望めないのではないか。

 カーテンを開けると曇り空だった。
 テレビは雨を告げている。
 7時の朝食もそこそこに、公園へ向かった。
 幸い、まだ、降ってはいない。

 平和記念資料館の開館は午前8時30分、まず、原爆ドームへ向かう。
 天気予報のせいか、早いせいか、通勤、通学、散歩、掃除などの人々ばかりだ。
 ドームは川の向こうにあった。
 若い白人の数人が眺め、写真を撮っている。

 周囲はビル、整備された道路、行き交う車、歩く人々、そして、ポツンと取り残された時代の残骸。
 ヘルメット姿の人が一人、屋根の近くで作業をしている。
 補修工事なのだろうか。
 ドームはまるで、ベッドに横たわり、介護を受けるお年寄りのようだ。

 不意に空が明るくなったような気がした途端、川面が輝いた。
 しかし、あの時、人々はそこで水を求め、そこで溺れ、力尽き、そこに折り重なって死んだのではなかったか。
 絶えずに行く川の水が、お骨の一片をも流し去ってしまえば、もう、そこは〈死の場所〉ではなくなるのか。
 光明真言を唱え終わってふと、身近に気配を感じて左を向くと、青いポロシャツに半ズボン姿の白人青年がカメラを手に立っていた。

 互いに存在を意識しつつも、視線を合わせず、言葉も交わさず、軽い会釈ですれ違った。
 曇ってきた。
 被曝供養塔はどこだろう。
 見回すと樹木の間から角塔婆の一部が見えた。

 小さな五輪の塔が載った遭難横死者慰霊供養塔だった。
 導かれるように足を運ぶと、その南側に原爆供養塔は、まるで太古の時代から在ったかのように在った。
 納骨堂の入り口には白いペンキが塗られている。
 南側へ回って拝した納骨塚は当山の「自然墓」のイメージそのもので、深く納得できた。

 供養していると、修学旅行の中学生らしい子供たちが数人、やってきた。
 塚の右手、離れたところに、さして大きくもない説明書きがあるにはあるが、子供たちは「昔のお墓かしら」などと言い合っている。
「そうだよ。この塚の下にはお骨がたくさん納めされているんだよ」と教えたら、熱心に聞いていた女の子が2人、合掌した。
 他の女の子3人もならって合掌したが、数人の男の子たちは、さしたる関心も示さず、ブラブラと去った。

 原爆死没者慰霊碑のあたりには男性1人、女性3人、献花の後始末などを行っている。
 小さな慰霊碑の碑文「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」を眼にした心は「無念!」と叫んでいた。
 文章は知っていたが、いくら歯を食いしばっても涙を抑えられない。
 インド人法学者パール博士の言葉「原爆を落としたのは日本人ではない。落としたアメリカ人の手は、まだ清められていない」と言った意味が痛感された。
 
 広島市の公式見解は「碑文はすべての人びとが、原爆犠牲者の冥福を祈り、戦争という過ちを再び繰り返さないことを誓う言葉である」となっている。
 文章がそう読めることも、歴史的経緯があるこの碑文を生かすためにはそう読むしかないこともわかる。
 それでもなお、小生の魂は何かと強く共鳴し「無念」が渦巻いている。
 御霊の方々へ深く詫びた。

 さっきのグループに似た子供たちがやってきて、またもや女の子が2人、「わあ、読めない」と言い合っている。
 読んでやったが、説明はしない。
 顔を見合わせて深刻そうな表情になり、小さく合掌した。
 丹念に掃除をしている人々へ小さな声で「ご苦労様です」と声をかけたら、男性だけが「はい」と応えた。

 厚い雲の下でいろいろ観め、拝し、資料館へ向かった。
 身なりを整えた年配の衛視が中へ案内してくれた。
 東館は改装中とて、目的の展示物は二階建ての西館入り口にあるという。
 廊下正面にあるキノコ雲を見ながら右へ曲がると、視界が赤くなった。

 劫火にあぶり出された人は、立っているものの、皮膚は溶けかけている。
 開いた眼は何を見ているのか。
 どこへ歩もうとしているのか。
 生きつつ死んでいる生き地獄だ。

 この被曝人形を撤去する広島市の公式見解である。
「凄惨な被爆の惨状を伝える資料については基本的にありのままで見ていただくべきという方針の下、この度被爆再現人形を撤去することとしたものであり、見た目が恐ろしい、怖いなどの残虐な印象を与えることなどを懸念して撤去するものではありません。」
「被爆再現人形は、非常に印象に残り、当時の情景を伝えているという展示だというご意見があります。
 しかし、一方で被爆者の方は、無残な遺体がたくさんあり、男女の区別さえつかず、親子でさえ見分けることができない情景を体験されています。
 そうした状況からは、被爆再現人形に対して『原爆被害の凄惨な情景はこんなものではなかった。もっと悲惨だった』といったご意見もあります。
 展示をご覧になられる方の見方によっては、原爆被害の実態を実際よりも軽く受け止められかねません。
 来館された全ての方々に悲惨な被爆の実相を現実に起こった事実として受け止めていただき、こうした惨劇を今後二度と繰り返してはならないという思いを心に刻んでいただきたいと考えており、そのためにも誰が観覧しても個々人の主観や価値観に左右されない実物資料の展示が重要と考えております。」

 30分程、3体の被曝者を眺め、それから館内すべての展示物を見た。
 確かに、破れた衣服や止まった時計の現物、あるいはケロイドの皮膚や焦げた爪など、そして破壊された光景の写真。
 それらの〈資料〉のどれよりも、〈現場〉を如実に物語っているのが立体の人形であると断言できる。
 駅へ向かうタクシーの運転手は白髪で穏やかなもの言いをする方だったので、訊ねてみた。

「人形が撤去されるそうですが、被曝者の方で、あれは惨たらしいから見たくない、あるいは、撤去して欲しい、などのご意見はあるのですか?」
 彼は口調を変えて断言した。
「そんな人は1人もいないはずです。私たちも撤去理由は理解できません」
 各種のアンケート調査では、撤去反対が圧倒的であるという。

 原爆供養塔と被曝人形は、老行者の最後の仕事に大きな力を与えてくれた。合掌

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8

 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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遠藤龍地

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