コラム

 公開日: 2016-07-18 

欺瞞の時代 ─シラノ・ヒロシマの影─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈枯葉と見まがう広島平和記念公園のハト〉



〈石段に残る人影〉

 言葉について考えさせられた。

1 シラノ・ド・ベルジュラック

 今から100年以上も前のパリにおいて、戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』は500日間で400回上映された。
 哲学者、剣客にして詩人という類い希な才能の持ち主シラノは、ロクサーヌに思いを寄せているが、彼女にはクリスチャンという相思相愛の相手がいる。
 言葉が貧しいクリスチャンはロクサーヌへうまく気持を伝えられず、シラノは恋文を代筆し、愛の言葉を代わりに囁く。
 戦争でクリスチャンが死に、修道女となったロクサーヌは、シラノが死ぬ間際になってすべてを知る。

 ままならぬ恋、惹かれる真情と危うさ、まことと裏切り、真剣な嘘、死という宿命、舞台は私たちの持っているありとあらゆる喜怒哀楽を引き出す。
 言えるのは、表現法がなければ思いは伝わらないということ、また、人間関係においては、相手の表現によって情緒が動くということではなかろうか。

 泣き顔であれ、笑い顔であれ、身ぶり手ぶりであれ、あるいは黙したまま座している様子であれ、私たちは必ず、そこに何かを〈読み取ろう〉とする。
 表現者が意図しようとしまいと、受け手は感性がはたらく限り、読み取り作用をはたらかせる。
 もしも読み取り作用が鈍っていれば、熱意を込めた相手の表現が空回りするかも知れない。
 通じ合いは双方の共同作業と言える。

2 代筆業

 さて、今ほど代筆業が流行った時代はなかったと思われる。
 切実な恋文の話ではない。
 出版社が社長に成り代わって本を書き、会社を隆盛に導くという。
 コンサルティング会社が店主に成り代わってブログを書き、売り上げを増やすという。
 成功のマニュアルもいろいろと検討されているらしい。
 
 そこにシラノがいないのはもちろん、真のドラマはなく、真の歓喜も苦悩もなかろう。
 そして、取引先や客に対して〈巧みに表現できない社長や店主〉の存在が隠され、仮面を被った社長や店主が実在する者として取り引きや購入をうながすという欺瞞が、何らの後ろめたさも伴わぬままに、意識の背景へ押しやられるという社会と文化の姿は、あまりにも深い問題を孕(ハラ)んではいないか。

 確かに言葉巧みな者は目先の人間関係で得をする機会が多いかも知れない。
 しかし、ある程度、人間をやっていれば、『論語』の「巧言令色(コウゲンレイショク)鮮(スクナ)し仁(ジン)」が真実であることを知るはずだ。
 上目遣いに相手の心を観察しながらうまいことを言おうとする者は、相手へ対する真の思いやりに欠け、自分自身では真の向上心がない。
 高校で『論語』を習ってから半世紀、これほど情報が氾濫し濁流になるとは予想もできなかった。

3 壁職人

 忘れられないシーンがある。
 講堂建立の時期、白壁を塗る若い職人がやたらと早く現場に現れ、じっと佇んでいた。
 感じるところがあり、ずいぶん早いんですねと声をかけたら、想を練っているのだと言う。
 壁は数人で塗る。
 出来上がってしまえば、彼が練った想など、どこにも感じられないだろう。

 あの時、彼はすでに表現者として佇んでいた。
 佇む姿もまた、意図せぬ表現だったのだ。
 賢(サカ)しらな計算など微塵もなく、ただ、愚直に分を尽くそうとしていた。
 彼がこの先、現場で静かに過ごすであろう膨大な時間は、壁の色や形にはほとんど表れないだろうに……。
 本ものとは彼のような人物ではなかろうか。

4 言葉

 もちろん、絵画や音楽や映像など、表現の手段は多々あり、言葉もその一つであるという考え方もあるだろう。
 しかし、言葉には言霊(コトダマ)が宿っている。
 人間を人間たらしめる霊性が言葉を生む。
 言葉の欺瞞は霊性の曇りではないか。
 
 嵯峨伸之に「ヒロシマ神話」(作:昭和32年)という詩がある。

「失われた時の頂きにかけのぼって
 何を見ようというのか
 一瞬に透明な気体になって消えた数百人の人間が空中を歩いている

 (死はぼくたちに来なかった)
 (一気に死を飛び越えて魂になった)
 (われわれにもういちど人間のほんとうの死を与えよ)

 そのひとりの影が石段に焼きつけられている

 (わたしは何のために石に縛られているのか)
 (影をひき放されたわたしの肉体はどこへ消えたのか)
 (私は何を待たねばならぬのか)

 それは火で刻印された二十世紀の神話だ
 いつになったら誰が来てその影を石から解き放つのだ」

 広島の平和記念館でこの〈影〉を見た。
 そこには確かに、まだ解き放たれない誰かがいた。
 遺構と言霊が小生と〈彼〉をつないだ。
 ──現代の欺瞞と言霊の真実。
 引き裂かれつつある私たちは、私たちの文明は、大丈夫だろうか?

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
「のうぼう あきゃしゃきゃらばや おん ありきゃまりぼり そわか」
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8

 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。

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