コラム

 公開日: 2016-07-29 

半世紀前の焼身自殺 ─死に行く目がとらえた戦争の実態─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 かつて、100万人以上のいのちが奪われたベトナム戦争というものがあったことは、もはや、忘れ去られようとしているのではないでだろうか。
 作家の開高健は、現場で自由に取材し、200人からなる部隊のうち17人しか生還できなかったという戦闘も、自分の目で確かめた。
 日本では数多くの学生が戦争反対を叫んで立ち上がり、各大学周辺などでデモが相次いだ。
 そんな中、昭和42年5月16日、女学生ニャト・チ(23才)がサイゴンの尼寺で抗議の焼身自殺を遂げた。
 アメリカのジョンソン大統領宛のものをはじめ遺書は10通を越えたが、当時のサイゴン政権は情報を完全に抹殺した。

 しかし、コピーした仏教徒たちが声を上げ、5月21日付の朝日新聞はトップで報じた。
 その一部を再掲しておきたい。
 約半世紀経った今なお、世界中で戦争が続き、彼女同様のまっとうな願いを持った人々が殺され続けている事実を忘れないためである。

「わたしは、才能も力ももち合わせていないただの女にすぎません。
 しかし、私の生まれた国の状態を考えますと、こうするよりほかなかったのです。
『ベトナムの自由と幸福を守る』というあなたのいい分は、すでに古くさく、そらぞらしいものとなっています。
 あなたがた紳士は、多くの爆弾を落とし、ベトナム人の命と勇気をうちくだいたことでしょう。
 それでも、あなたは幸福と自由を口にします。
 心の中では、ほとんどのベトナム人は、アメリカがベトナム戦争に持ち込んだことに愛想をつかしていることを、あなたはご存じないのでしょうか。
 あなたが戦争をエスカレート(段階的に拡大)させればさせるほど、ベトナムの人命、財産、経済全般をメチャクチャにしているのです。

 もう一度、ベトナム人の歴史を考えて下さい。
 ベトナム人の気持になって考えて下さい。
 アメリカ兵とその家族の気持ちを理解してあげて下さい。
 アメリカ軍だって、無意味なきたならしい戦争に無理やりにかりたてられているのです。
 こんなちっぽけなベトナムを20年以上も費やして勝ちとったところでアメリカの名誉になるといえるでしょうか。

 多数のベトナム人の命を救うため、アメリカ人と偉大なアメリカの名誉を救うために、わたしは、あえてささやかな解決策を敬意をこめて提案します。

1 南北ベトナムへの爆撃を停止すること。

2 少しづつ外国の軍隊をベトナムから引き揚げ、ベトナム人の運命は彼ら自身に決定させること。

3 国連の監視のもとで南北ベトナムの統一選挙を行うこと。(真の自由が与えられれば、ベトナム人は自らの幸福と自由を選ぶ能力を持っています)

4 アメリカの爆弾で破壊去れたベトナムの再建を援助すること。(ベトナム人はアメリカ人に同胞愛を感じ、あなたの国への感謝の気持を持ち続けるでしょう)

 そうして、はじめて、ベトナムの、アメリカの、いや全世界の歴史があなたの気品ある人道的な行為を書きとめることでしょう。
 敬意をこめて。
 ベトナムで平和のために命をささげるわたくし。」

 ちなみに、開高健は『ベトナム戦記』に記している。

「アメリカ市民の血税はどんどん流れこんだが、サイゴンから村へ豚や米や肥料がとどく途中でどんどん抜かれた。
 あるダナンの坊さんの表現によれば、この国にはネズミが多すぎるのである。
 そしてアメリカ市民の血税はサイゴン経由で本国の石油会社や武器会社に払いもどされていった。
 ベン・キャット砦の兵卒や将校の持っている、迫撃砲をも含めた火器類は大半が第二次大戦用に製造された年式の刻印を持っていた。
 ロケット弾や武装ヘリコプターやジェット機などは最新式である。
 漠然と私はアメリカの武器商人が古くなった武器の倉庫の戸をサイゴンに向けて全開しているのだという印象を受けた。」

 サイゴン政府やアメリカ軍に守られての〈視察〉ではなく、、カメラマンとたった2人で〈従軍〉に等しい形で行った取材から見えたものは重い。
 二人の文章は忘れられない。

 私たちは、自分の人間たる尊厳を失いたくないなら、何よりも自由意志を侵害されたくないはずだ。
 国家も同じである。
 女学生は「ベトナム人の運命は彼ら自身に決定させる」ようにと、いのちを賭して訴えた。
 しかし、軍事力で勢力範囲を広げたい国は、理由をつけてその願いを踏みにじる。
 イラク戦争も同じだったことは、戦争を検証した国々においてはもはや、明らかである。
 武器弾薬を消耗する他の戦乱にも又、似たような構図が見えはしないか。
 開高健の証言は、そこを衝いている。
 こうした真実に目を塞がない日本人でありたい。
 軍需産業で儲けようとしない品格ある日本人でありたい。
 武器を持った兵士が他国へ一歩たりとも踏み込まない日本でありたい。
 それが明治以来の戦乱でいのちを落とした先亡の御霊へ対する誠意ではなかろうか。

「おん ばざら たらま きりく」
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0

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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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