コラム

 公開日: 2016-08-02 

理想へ ─史上初の「難民選手団」に思う─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。


〈テレビにもネットにも政治にも、こうした品位がなくなってはいないだろうか〉

 新しい東京都知事が誕生した日、小さな記事が目に入った。

1 難民選手団

 8月1日の新聞各紙は、初の「難民選手団」について報じた。
 IOCが承認したオリンピック出場選手は男子6人、女子4人の合計10人。
 南スーダン5人、シリアとコンゴ(旧ザイール)がそれぞれ2人、エチオピアが1人。
 それに、コーチを含む役員12人の計22人が、五輪旗の下で入場行進を行う予定。
 選手たちは現在、ケニアの難民キャンプ、ブラジル、ドイツなど5カ国で活動を続けており、五輪3大会に出場した元女子マラソン世界記録保持者のテグラ・ロルーペさん(ケニア)が選手団長を務める。

 昨年、IOCによって200万米ドル(約2億2千万円)が難民支援に投じられ、43人が五輪を目ざしていた。
 バッハ会長の言葉である。

「初めて難民選手団を結成する歴史的なできごと。
 難民の選手を通じて、世界に難民の困難な問題を伝えることができる」
「想像を絶する悲劇に直面しながらも、魂のたくましさを通して社会に貢献できると世界中に示してくれるだろう」

 ドイツに居住しているシリア難民のユスラ・マルディニさん(18才)は水泳へ出場する。

「表現できないほどうれしい」
「オリンピックはすべての選手にとって夢の舞台で、世界中の難民に『夢はかなえられる』と伝えたい。
 一生懸命練習に取り組めば、4年後の東京ではメダルが取れるかもしれない」
「戦争が終わったらシリアへ戻り、ドイツで得たことをみんなに教えたい」

 彼女はこうした困難を乗り越えた。

「シリア代表の水泳選手として国際大会出場の経験もあるユスラさんは昨年8月、戦火の故郷を追われた。
 姉とレバノンからトルコに入り、他の十数人の難民と一緒に老朽化した船でギリシャへ渡ろうとした。
 しかし、海上で船のエンジンが故障。
 泳げない人に救命ボートのスペースを譲り、姉と決死の覚悟で海に飛び込んだ。
 数時間にわたって泳ぎ、近くの島にたどり着いた。
 姉妹のおかげで乗船していた全員が助かった。
 2人はギリシャからバルカン半島を通ってドイツに移動。
 ユスラさんはベルリンを拠点に、夢だった五輪出場を目指して水泳の練習を再開した。」

 コンゴ出身のヨランデ・ブカサ・マビカさん(28才)は柔道女子70キロ級へ出場する。
 出場決定の知らせを受け「心が震えた」という。
 
 コンゴ出身のポポリ・ミセンガ選手(24才)は、3年前にブラジルへ渡った。

「両親がおらず、教育を受けられなかった私に、柔道が人を敬うことや、物事に一生懸命取り組むことを教えてくれた。
 難民になってオリンピックに参加できるとは思わなかったので、とてもうれしいし、すべての難民のために戦いたい」
「母国には子どものころ、別れて以来、会っていない2人の兄弟がいる。
 もう顔も覚えていないが、私がブラジルで生きていてオリンピックの舞台に立っていることを知ってほしいし、いつの日か再会したい」

2 アメリカの苦悩と理想

 人類は一直線に進歩の歴史を歩んでいるわけではない。
 ノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン教授(プリンストン大)らの調査によれば、アメリカの中年白人男性の死亡率が上昇しているという。

「考えられる原因の一つは白人たちの社会的地位の低下だ。
 収入や雇用が下がり、既婚者も減っている」

 収入、雇用、既婚者といった項目の変化は日本人男性にもあてはまりそうで恐ろしい。
 50年前との比較を訊ねられた白人は、54パーセントが「悪くなった」、28パーセントが「良くなった」と答えている。
 同じ質問に対し、黒人はそれぞれ17パーセントと58パーセント。
 ヒスパニックは、37パーセントと41パーセントだった。
 白人にとってアメリカはおおむね、悪い社会になり、黒人とヒスパニックにとっては良い社会になったことになる。
 トランプ氏支持者のうち、生活が「悪くなった」と感じている人の割合は75パーセント、「良くなった」は13パーセント。
 クリントン氏の場合はそれぞれ、22パーセント、53パーセントだった。

 社会の変化が苦しみをもたらそうと、ぶれずに普遍的価値を守ろうとする人々も確かにいる。
 アメリカの民主党大会において、パキスタン系イスラム教徒の移民キズル・カーン夫妻はこうスピーチした。
 氏はアメリカ国籍を持つ弁護士である。
 息子フマユン・カーン大尉は平成16年、イラク戦争で自爆テロに遭い戦死している。

「国への揺らぎのない忠誠心を持つ、愛国的なイスラム教徒の米国人としてここに立っていることを誇りに思う」
「ドナルド・トランプ。
 あなたは、アメリカの未来を預けてくれと言う。
 だが、その前に質問させてもらいたい。
 憲法を読んだことがあるのか?
 ないなら、私が持っている冊子を喜んで貸してやろう」
「この文書の中で『自由』と『法の平等保護』という言葉を探しなさい」
「(戦死者らが埋葬されている)アーリントン墓地に行ったことがあるか」
「あなたは何も犠牲を払っていない」

 アメリカはそもそも移民がつくった国であり、憲法は宗教や人種による差別を禁じ、国民の平等を定めている。
 それにもかかわらず、トランプ氏は、現状への不満を煽り、差別的発言を繰り返している。

「イスラム教徒のアメリカ入国を禁止する」
「イスラム教テロリストの家族を皆殺しにするべきだ」
「アメリカのイスラム教徒はテロリストを警察から隠している」

 キズル・カーン夫妻は、憲法が定めているアメリカという国の基本を動かせば、アメリカはアメリカでなくなると指摘したに等しい。
 そして、その基本は人類普遍の価値観であり理想にある。
 だからこそ、夫妻の息子は〈アメリカ人〉であることに殉じた。
 息子の死を無駄死ににせぬよう、我々も、たとえ目先に苦しい状況があろうと理想を貫こうではないか、と主張する夫婦の姿は崇高だ。

 なお、トランプ氏はただちに反論している。

「私も多くの犠牲を払ってきた。
 何万人もの雇用を生み出し、素晴らしい建物を築いてきた」

 自分の財産で給料を払ってやるのだから、資本家にとっては犠牲を払っていることになると言うのだ。
 モノも金も人も、資本家が利潤を上げるための道具とみなす資本主義の行き着いた荒廃がありありと見える。

3 価値観と品格

 世界の情勢を眺めるにつけ、より上位にある価値を実現し、守るために、目先の利をどうガマンしておりあいをつけるかが、国家の品格、ひいては個人の品格をつくるのではないかと思う。
 品格なき国家、品格なき個人は結局、争いと混乱に生きるしかなくなり、最後は破滅が待っている。
 お釈迦様は説かれた。

「自分を苦しめず、他者を害しない言葉のみを用いよ」

 智慧と思いやりのある行動に表れる徳は必ず、品格として結晶する。
 難民問題に苦しむヨーロッパ文明圏の人々が「難民選手団」を構想できるのだから、私たちはあと一歩も二歩も、忍耐の歩を進めねばならないと思う。
 
「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0

 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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