コラム

 公開日: 2016-08-06 

スポーツの意義と危険性 ─オリンピックに興じるだけで大丈夫か?─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 東京都知事選挙とオリンピックについて考えさせられた。
 京都大学名誉教授で思想家の佐伯啓思氏は、8月4日付の朝日新聞でスポーツの語源について語っている。
「スポーツと民主主義 『停泊地』失った現代世界」である。
 以下、抜粋を参照しつつ考えてみたい。

「スポーツとは『ディス・ポルト』から出た言葉である。
『ポルト』とは『停泊する港』あるいは、『船を横づけにする左舷』という意味だ。
『ディス』はその否定であるから、『ディス・ポルト』とは、停泊できない状態、つまり、秩序を保てない状態であり、はめをはずした状態、ということになる。
『ポルト』にはまた『態度』という意味もあるから、『まともな態度を保てない状態』といってもよい。」

 これは意外な事実だ。
 私たちは普通、スポーツマンシップと言うとおり、ルールに則ったフェアなプレーが求められる肉体的な競技というイメージを持っている。

「英語の『スポート』にも『気晴らし』や『悪ふざけ』といった意味があり、これなどまさしく語源をとどめている。」

「スペインの哲学者であるオルテガが『国家のスポーツ的起源』という評論のなかで、国家の起源を獲物や褒美を獲得する若者集団の争いに求めている。
 その様式化されたものが争いあう競技としてのスポーツであるとすれば、確かに、ここにもスポーツの起源と語源の重なりを想像することは容易であろう。」

 スポーツは本来、肉体的なはたらきが暴力的に爆発する状態であり、その制御と利用から国家が始まったと言われてみれば、なるほどと思える。

「古代のギリシャ人を特徴づける特質のひとつはこの『競技的精神』なのである。
 スポーツと政治は切り離すべきだ、などとわれわれはいうが、もともとの精神においては両者は重なりあっていたのであろう。」

「ということは、その起源(語源)に立ち返れば、両者とも一歩間違えば『はめをはずした不作法な行動』へと崩れかねない。
 競技で得られる報酬が大きければ大きいほど、ルールなど無視してはめをはずす誘惑は強まるだろう。」

「それを制御するものは、自己抑制であり、克己心しかなかろう。
 そのために、ギリシャでは、体育は、徳育、知育と並んで教育に組み込まれ、若者を鍛える重要な教科とみなされた。
 その三者を組み合わすことで、体育はただ肉体の鍛錬のみならず、精神の鍛錬でもあり、また、自律心や克己心の獲得の手段ともみなされたのであろう。」

 だから、アリストテレスは「『人間というものの善』こそが政治の究極目的でなくてはならぬ」と言った。
 また、「善」については「最高善は究極の目的であり、その内実は幸福である」と明確にしている。
 だからこそ、肉体の鍛錬のためにも、政治がまっとうに遂行されるためにも「徳育」が求められねばならない。

 しかし、ロシアのドーピング問題を見ても、演説会場から泣く赤ん坊を排除する大統領候補トランプ氏を見ても、〈徳〉は見つけられない。

「民主政治は、どこにおいても『言論競技』の様相を呈している。
 アメリカのトランプ大統領候補をドーピングぎりぎりなどといえば冗談が過ぎようが、この現象が『ディス・ポルト』へと急接近していることは疑いえまい。
 民主主義のたががはずれかけているのだ。」

「高度なスポーツは『素人』から遊離して一部の者の高度な技能職的なものへと変化し、一方、政治は『素人』へと急接近して即席の競技と化している。
 どちらも行き過ぎであろう。
 スポーツと民主主義を現代にまで送り届けたギリシャの遺産が、ロシアのドーピングやアメリカの大統領選挙に行きついたとすれば、現代世界は規律や精神の鍛錬の場である確かな『停泊地』を失ってしまったといわねばならない。」

 スポーツはプロへと急傾斜し、政治はアマへと堕落しつつあることは確かだろう。
 スポーツ界は、大金と名声を得るためのピラミッドを形成し、オリンピックが頂点に立つ。
 政治は権力と名声を握るための道具と化し、「一将功成りて万骨枯る」という極めて〈徳〉から離れた様相を呈している。
 要はチャンピオンの〈総取り〉である。
 
 今回の東京都知事選挙は、それをまざまざと見せつけた。
 党本部の都合によって担ぎ出された公認候補増田寛也氏と、現場の責任者たちと、友党の一団が死にものぐるいの戦いをしている中で、トップの安倍首相は公認候補の応援演説をいっさい行わず、あまつさえ、投票日の前夜は、憲法改正のうち合わせのため、橋下徹氏などと懇談していた。
 案の定、分裂選挙の中で公認候補は惨敗したが、責任論の矛先は都連までで止まり、都連の石原会長が辞任して幕引きとなった。
 さすがに会長は、責任逃れと非難されることを覚悟の上で、「知事選は党本部マター。お金も都連でなく党本部が集めたのであり、責任者は幹事長だ」と事実を指摘し、部下たちをかばった。
 しかし、選挙戦の最高責任者である自民党総裁安倍晋三首相は一切、自らの責任に言及せず、小池新知事と笑顔で握手した。
「東京五輪・パラリンピックを成功させていくためにも政府が東京と協力していかなければならない」
 客観的な事実を口にするだけで、部下たちがいかに傷つき、斃れようと、トップだけはラグビーのノーサイドよろしく、何食わぬ顔で次のシーンでも主役を張ろうとする。
 ここでは安倍首相個人を攻撃するものではなく、権力のあり方を問いたい。
 そもそも、傍を掲げた戦いに敗れたならば、将自らが責任を負ってようやく戦いが終わったことになり、真の〈戦後〉が始まるのではなかったか?
 戦国時代には腹を切り、現代では辞職するのが、社会に倫理を残し、怨みを残さないための暗黙のふるいまい方であり、最後の手段ではなかったか?

 勝てば官軍、力がすべて、これはまさにディス・ポルトそのものではないか。
 私たちは、スポーツを政治的に眺めることに馴らされ、「精神の鍛錬でもあり、また、自律心や克己心の獲得の手段ともみなされた」歴史的経緯を忘れてはいないか?
 私たちは、政治をスポーツ的に楽しむことに馴らされ、「一将功成りて万骨枯る」の無惨さに身震いし、権力の独走に危険性を感じる感性と知性を失ってはいないか?
 オリンピックがすべてを忘れさせつつあるような状況の中、観るべきものを観ておきたいと思う。

 希望はある。
 ロシア陸上界の組織的ドーピングを内部告発した陸上女子800メートルの元ロシア代表ユリア・ステパノワ選手は、IOCが彼女のオリンピック出場を認めず、しかも「自分がロシア代表として出場するのを拒んだ」と嘘の情報を流しているにもかかわらず、練習を欠かさない。
 このたび、NHKの取材に応じて心境を述べた。

「メダルは結局、単なる金属片にすぎない。
 それより大事なのは自分自身と競技相手に対して正直でいることだ」

 文字どおり、希望の灯火である。
 それもこれも、世界の潮流として報道の自由が確保され、モノや名声に左右されず、権力に押し潰されない心と表現の自由が確保されているからこその話だ。
 心が生き生きとはたらき、人間たる徳を失わないところにこそ、『ディス・ポルト』の止揚(シヨウ)はあるのだろう。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA

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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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