コラム

 公開日: 2016-08-22 

むのたけじ氏の死に想う ─傷つける私たちを超えて─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。


〈お盆供養会にて〉

 ヒグラシ、ツクツクボウシ、ミンミンゼミ、彼らが薄暗い早朝から順次に鳴く8月21日、ジャーナリストむのたけじ氏(本名・武野武治)が亡くなった。
 101才だった。
 昭和20年8月15日、敗戦を機に、氏は朝日新聞を退社した。
 理由は明白にしている。

「負け戦を勝ち戦のように報じて国民を裏切ったけじめをつける」

 そして、故郷の秋田県横手市で、週刊新聞『たいまつ』を33年間発行し、休刊後は、講演や著作活動によって平和を訴え続けた。
 今年の5月3日、東京臨海広域防災公園でこう語ったのが最後の公的発言となった。

「日本国憲法があったおかげで戦後71年間、日本人は1人も戦死せず、相手も戦死させなかった」

 私たちは〈害されたくない〉生きものである。
 もの言わぬネコや金魚やカラスとて同じだろう。
 しかし、人間は、ずっと、誰も望まぬはずの行為を集団でやってきた。
 戦争である。

 敗戦の2年後、詩人鮎川信夫は『死んだ男』を発表した。
 一緒にスマトラへ出征し、病気になって帰国した後に死んだ詩友森川義信へ送ったものだ。
 その詩は、こう締め括られる。

「Mよ、地下に眠るMよ、
 きみの胸の傷口は今でもまだ痛むか。」

 内なる痛みを生きる詩人が、外からも痛みの原因を押しつけられ、ついには無理やり、生きているところから引きはがされる。
 それが戦争であり戦死だ。
 痛みから救われる可能性が奪われる。
 宙ぶらりんの痛みは、友を悼む鮎川信夫を傷めてやまない。

 作家浅田次郎氏は『無言歌』において、故障した特殊潜航艇の中で死んで行く二人の軍人を描いた。
 その最後にこう会話させる。

「俺は、ひとつだけ誇りに思う」
「しゃらくさいことは言いなさんなよ」
「いや、この死にざまだよ。
 戦死だろうが殉職だろうがかまうものか。
 俺は人を傷つけず、人に傷つけられずに人生をおえることを、心から誇りに思う」
「同感だ、沢渡。
 こんな人生は、そうそうあるものじゃない」

 私たちは、自分が生きることを最優先にしないではいられない。
 それが自己中心的心性をもたらす。
 無意識の裡に永遠の人生を願い、それを阻害すると思える邪魔ものは許せない。
 この〈永遠の人生〉なるものが、空(クウ)と無常の真理に気づかぬところに生ずる幻であることを知らぬ無明(ムミョウ)から、傷つけ合う世間が現れる。
 だから、お釈迦様は、二面から救われる道を説かれた。
 一つは、真理に気づくための智慧を獲得する修行である。
 そしてもう一つは、無明で生き、自他を傷つけてしまう人間そのものを哀れみ許す慈悲の涵養(カンヨウ)である。

 自分がずっとこのままで存在し、やりたいことをやり続けたい、これは智慧なき状態である。
 自分を傷つけると思えるものは許せず、気に入らないものを害したい、これは慈悲なき状態である。

 私たちは、自分だけが好きなことをやり続けたいと思ってはいないだろうか?
 私たちは、嫌なものを排斥し尽くしたいと願ってはいないだろうか?
 この傾向が強まれば、個人的にはバラバラになる。
 社会的には刺々しくなる。
 国際的には緊張感が高まり、そして戦争になる。
 お釈迦様が説かれた救われる道と正反対に進めば、戦争がやってくる──。

「おん ばざら たらま きりく」
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0

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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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