コラム

 公開日: 2016-09-10 

再び、優しさを考える ─困った父親、秘訣を教える、捨てて救われる─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈広島の原爆供養塔。自然墓『法楽の郷』と同じイメージです〉

 「優しさ」を考えましょう。優しさ、つまり、思いやりにまさる救いはありません。思いやられる相手だけでなく、思いやる人そのものがすでに救われています。

1 信じる

 ある時、Aさんが人生相談に来られた。
 父親がギャンブルから抜け出せない。
 Aさんと母親を心配した親戚一同が集まり、父親と別れて暮らせるようにしようということになったが、Aさんも母親もそうしなかった。
 Aさんは、困り者の父親を見捨てられない。
 苦しみつつ、老いてくる母親を支えているAさんは、呻くように言う。
「それでも父なんです」
 申し上げた。
「お父さんご自身の因縁は簡単に解けないかも知れません。
 それでも、親子の縁を切ろうとしないAさんの誠意は見事です。
 こうした事態の解決に絶対的な方法はないでしょう。
 それぞれが、それぞれのやり方で対応しつつ生きるしかありません。
 言えるのは、Aさんが事態から逃げず、お父さんを見捨てない姿勢が人としての誠意を示しているということです」
 誠を尽くす大切さは、誰かのためになるから、という面が一つ、そしてもう一つは、そうするその人そのものがそうしないではいられないから、という面である。
 この後者こそが、「信じる」意味の行き着くところ。
 信じるところから真の人間関係も優しさも生まれる。。

2 認める

 Aさんの父親は、ギャンブルの影響で事件も起こす。
 母親は何度も警察や刑務所へでかけ、父親を連れ帰った。
 Aさんは、そんな母親を哀れと思う。
 さんざんな目に遭っても別れないのは、やはり夫婦というものなのだろう。
 周囲は、母親もAさんも巻き込まれて不幸だからと、夫婦別れを促す時期もあったが、今はもう、余計な口出しをしない。
 父親は、母親にとって〈丸ごと〉夫であり、Aさんにとって〈丸ごと〉父親であり、その現実から逃げようとしない姿を知ったからだ。
 丸ごとそのままの相手を相手にするのが「認める」意味である。
 自分に都合良く、利用する部分だけ切りとって誰かを認めたりはしない。
 親が、長所も短所もひっくるめて我が子を愛おしく思う、これが本当の優しさである。

3 教える

 自分がそうなっていて気づかなくても、誰かが崖っぷちの方向へ歩いていると気づく場合がある。
 それを教えないではいられない。
 誰かに難事が起こりそうな場合も、誰かが好事をつかまえそこなおうとしている場合も、教える。
 ところで、私たちが理想的人間である菩薩(ボサツ)になろうとするならば、『大日経(ダイニチキョウ)』が説くとおり最低、4つの戒めを守らねばならない。
 一つ、正しい法を捨ててはならない。
 一つ、悟りを求める菩提心(ボダイシン)を捨ててはならない。
 一つ、正しい法を伝えず惜しんではならない。
 一つ、生きとし生けるもののために役立たねばならない。
 この3番目が問題である。
 私たちは〈つかんだ秘訣〉を自分だけのものにして、優位に立とうとする。
 それは優しさと無縁である。
 真に教えることは、自分の人生の一部を分け与えるのと同じである。
 これもまた、真の優しさである。

4 与える

 俳優の杉良太郎氏は、刑務所慰問、被災地支援、ベトナム人の里親など、ありとあらゆる慈善活動を行ってきた。
 売名と批判されても「ええ、売名ですよ」と平然として答えるらしい。
 人は普通、あって当たり前のものがないと、罪を犯すかも知れないし、死ぬかも知れない。
 戦乱の地や暴風雨で壊滅した地域などでは、世界中いたるところで食糧の略奪が起こり、暴力事件も殺人事件も起こり、餓死者も出る。
 与えられることでようやく、人倫が保たれる場面は哀しく、美しくもある。
 そうしたギリギリの地点を知っている人は、与えずにいられない。
 杉良太郎氏は、刑務所で憂さを忘れる時間を与え、被災地で生き残る安心を与え、ベトナムで向上できる希望を与え続けている。
 これが優しさでなくて何だろうか。

5 守る

 10年前の10月2日、アメリカ東部ペンシルバニア州ランカスター郡で、キリスト教の一派であるアーミッシュが運営する学校へ賊が押し入った。
 錯乱した近所の運転手が女子児童5人を射殺した挙げ句、自殺した。
 その中には、友達を救うため「私から撃って。ほかの子は解放して」と前に出た13才と11才の姉妹が含まれている。
 現場へ駆けつけた犯人の妻と子供3人はアーミッシュたちに抱擁して慰められ、妻は葬儀にも招かれた。
 アーミッシュは「善をもって悪へ応えよ」と育てられている。
 どうしても誰か、何かを守らねばならない時、私たちは自分の何かを捨てる場合がある。
 それはモノであり、時にはいのちでもあるが、核となっているのは自己中心的な思いの放棄だ。
 私たちは本当に何かを守ろうとすれば、必然的に我欲を離れ、誰かを赦し、誰かを救う。 
 自分も根本的に救われている。
 優しさはここに極まる。

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