コラム

 公開日: 2016-09-19 

『プライベートバンカー』を読んで

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈格差を示す指標は「ジニ係数」、0~1の間で1に近いほど格差が大きくなる。日本は世界のほぼ中位である〉

 午前2時から庫裏で始めた読書が終わり、寺務所へ向かう4時、真っ暗な廊下の向こうから7回、鐘を打つ音が聞こえた。
「コンー、コンー、コンー、コンー、コンー、コンー、コンー」
 一体誰が?
 電灯のスイッチを入れながら考えた。
 歩き始めて気づいた。
 きっと昨日、お預かりしたお焚きあげの行李(コウリ)に古い柱時計が入っていたのだろう。
 職員は相手様もお荷物も確認しているが、ご縁の方から〈いわく因縁〉をお聞かせいただく場合は別として、修法するだけの小生はいちいち中身のチェックをしない。
 それにしても、4時ちょうどに7回鳴るとは、妙な1日になりそうだ。
 今日、人生相談に来られる方々のお話を暗示しているのかも知れない。

 ところで、清武英利氏が書いたノンフィクション『プライベートバンカー』を読み、小生は門外漢ながら、なるほど、そうだろうな、と思えた。
 物語は、富裕層の金融資産を運用するプライベートバンクで生きるバンカーと顧客の世界を描いている。
 金融資産1億円以上を持たない庶民は、そうした銀行に口座も開設できない。
 だから、ほとんどの人々とは無縁の世界だが、組織があり、それを構成する個人個人が希望や悩みを抱え、称賛や満足や失敗や転落に至るという意味では、この世の一場面であることに相違ない。 

 ただし、地球を股に掛ける巨大な歯車が、粛々とこの世に不正義と不条理を積み上げている事実には慄然とさせられる。
 その回転に連なる小さな歯車たちの人生にいかなる個々の夢や正義感があろうと、それらはすべて、一つの結果を生んで行く。
 持てる者と持たざる者との間にある格差の拡大である。
 プライベートバンカーたちの顧客となる持てる者たちは、カネそのものの力でカネを増やし続ける。
 シンガポールなどの国々には、そうしたシステムがあるのだ。
 だから、一定期間シンガポールで暮らすなどして、日本で儲けたカネを無税のまま増やそうとする人々が群がる。

 平成27年、総資産額百万ドル超の資産家は以下のとおりである。
 第一位、アメリカ、1565万人。
 第二位、イギリス、236万人。
 第三位、日本、212万人。

 一方、9月15日付の河北新報は、厚生労働省が発表した平成25年の調査結果を掲載した。
 世帯ごとの所得格差は過去最大となり、今後もその拡大が予想されるため、「社会保障などによる所得再分配の機能強化や、非正規労働者の賃金底上げなどの格差対策が求められる」という。
 世帯ごとの平均所得は400万円を切った。
 つつましく生きる庶民から確実に集められた税金でこの国は成り立っている。
 その一方で、儲けた一部の富裕層は資産を海外へ移しつつある。
 パナマ文書は、国家の体制を問わず世界中の富裕層が無税の国へと財産を移し替え、移住もしているという事実の一部をかいま見せた。
 しかし、巨大な不正義はうやむやにされる。

「タックスヘイブンをめぐって大掛かりな税逃れが発覚するたびに、為政者たちは眉をひそめてみせるが、租税回避地の存在を根本から問う議論になったことがない。
 その地を利用する国と金融機関、それに権力者の存在があるからだ。」

 私たちは一人残らずどこかの国民として生まれ、人間として生きられる環境の整備を目指すどこかの国家で暮らす。
 環境整備の基礎となる税金を払いつつ。
 しかし、一部富裕層は、どこかの国で手に入れた大金を持ったまま地球の「修身旅行者」となり、カネだけを頼りに暮らそうとする。
 無論、彼らにも悲哀があるのは、持たざる人間と何ら変わりはしない。

「問題は、修身旅行者になると、犯罪の多い国では自分の身は自分で守らねばならないことだ。
 そして真の友人をみつけづらいことである。」
 
 この本は帯紙にあるとおり、「怜悧で狡猾というプライベートバンカー像を覆して、人間味と向上心にあふれた人々」を描いている。
 人間はどこでも「人間味と向上心」にあふれた日々を送られる。
 それは、ナチスのホロコーストや毛沢東の文化大革命においてすらそうだった。
 しかし私たちは、人類的不正義を行う巨大な歯車を見つけ、たとえ「蟷螂(トウロウ…カマキリ)の斧」に見えようと対峙する見識と矜恃を持たねばならないと思う。
 タダでは踏みつぶされないという強固な背骨を保ち続けたい。
 そして、踏みつぶされそうになっている隣人は見捨てたくない。
 無論、歯車へ何らかの一矢を放ってから死にたい。
 
「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0

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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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