コラム

 公開日: 2012-02-10  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(その91)─石巻市渡波にて─


 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。
 また、当山へかずかずの温かいご支援をくださった方々へ、深く深くお礼申し上げます。



 石巻市渡波。
 堤防のすぐ内側にある漁師たちの集落は完全に消えていました。
 堤防の根本はえぐられた穴があちこちにあき、そこから先に広がる家並みがあったはずの空間は泥が埋め尽くし、数軒が形を留めているものの、あとはせいぜいが土台を残すのみです。
 毎年、車を駐めた松林は瓦礫置き場と化し、赤茶けた樹林からは伐採の音が響いています。

 網代笠(アジロガサ)をかぶり手甲(テコウ)をつけ、白足袋の爪を確認してから車のドアを開ける托鉢僧は、もう二度と現れないことでしょう。
 より海岸へ近い質素な家に住み、自前の小船を整備して板子一枚下は地獄という漁場へ勇んで出かける人々の文化が失われた以上、それに連なる他の文化も縁が切れたのです。
 あの屈託ない人々がここで過ごす日々は永遠に戻って来ないと思われます。
〈その日にかけて生きる〉という根っこをどこかで共有していればこそ、托鉢僧を受け入れ、談笑し、本音を語ってくれた人々の笑顔──。

 トイレをあてにしていた公園も一面の泥、もうすぐ一年が経つのに、手つかずのままです。
 意外と思えるほど大きな貝殻が埋もれており、持ち帰りました。
 何年にもわたって托鉢僧を生かしてくださったこの地からの最後の贈りものかも知れません。
 
 海原だけは、托鉢へでかける前と終わった後で九字を切ったあの日と同じに見えます。
 しかし、打ち寄せる小さな波が崩れる直前のへこんだ黒っぽい裏側に潜んでいる恐怖を初めて感じました。
 打ち上げられた貝殻などに何か混じっているのではないかという気がして、波打ち際まで足をはこぶには勇気が要ります。
 決して〈踏んではならない〉という畏れが強く、光明真言を唱えながら写真を一枚撮りました。
 当山からそう遠くないところで数年前に始めたマリンスポーツを中心とした店が閉まった理由を体感できました。
 そう言えば、中年になってなおサーフィンにでかけていたジャーナリストから「あの日以来、一度も海へは足を向けません」と聞かされていました。


 鎮守の神社は跡を残すのみとなり、願いのかけられた小さなお地蔵様などが地べたに置かれたままです。
 あまりの痛々しさに思わず当山へお連れしたくなりましたが、勝手なことは許されません。
 祈り、後にしました。

 ご縁の方を訪ねようと知人へ連絡をとりましたが、被災したご一族の間でいろいろ忙しいから無理だろうとの返事。
 会社も自宅も失い、一時、知人に付き添われて神経科へ通っておられたはずの恩人といまだに会えないのは残念ですが、きっと、まだ、第三者と会う気持になれないのでしょう。
 気仙沼市の避難所ででようやく探し当てた恩人と会った時、こちらの〈安心〉と相手の〈放心〉とのあまりの距離に心が冷えたことを思い出しました。
 一方では、あちこちの避難所や仮設住宅に住んでいながら心を開いてくださる見ず知らずの方々がおられます。
 閉じる方へも開く方へも、相手に合わせながら心で祈ります。
 
 がらんとした倉庫の入り口で、70がらみの男性が魚を並べるためと思われるガラスケースを水洗いしていました。
 人気(ヒトケ)が絶えた海岸近くのガランとした空間で、淡々と〈その日〉を待っておられる……。
 船着き場は陥没し、カモメ一羽が所在なげにしているのみでしたが、街道に近いケーキ屋さん、ラーメン屋さん、パーマ屋さんなどの元気な気配は、暗い町に灯った明かりのようです。
 人は生き、人が生きているところでは体温から発する何かが始まっています。




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。

 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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