コラム

 公開日: 2012-03-16  最終更新日: 2014-06-04

言葉が防護服を着てしまった ─詩人和合亮一氏の不条理─

3月15日付の河北新報からお借りしました
 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 福島市在住の詩人和合亮一氏が、防護服を着て南相馬市、旧小高町、浪江町の辺りを歩きました。
 若き日にサイクリングなどを楽しんだ請戸の港は人っ子一人いませんが、河口付近で卵を産むために川上をめざすシャケを目にして、その健気さに涙を禁じ得ません。

 やがて「無人」「不条理」が胸に迫り、詩句をします。

「言葉が
 防護服を着てしまった
 何も
 語らないために
 泣いても
 分からないために」
 そして、思います。
「どうかこの恐ろしい静けさを、あまねく日本人に肌で感じて欲しい。
 しかし難しいことだ。
 ずっと不可能なのだ。
 これからも防護服という別の〈皮膚〉の内側にあるのだから、私たちの〈肌〉は」

 和合氏はかつて、肌で〈生きている〉光景を感じていました。
 だからこそ、そこから人間の気配が奪われた「恐ろしい静けさ」が防護服の内側から、ようやく想像できます。
 しかし、原発事故以前の光景を体感していない人たちには、もう、その静けさの持つ意味をつかむことは不可能なのです。
 防護服の内側でしかここに立つことはできないのだから。

 数日後、東京の渋谷駅で人混みを眺めているうちにこの記憶がよみがえり、「眠らない夜の空に叫び出したく」なります。

「みなさんに知ってほしいことがあります。
 誰もいなくなった町があるのです。
 誰も知らない海があるのです。
 誰かの訪れを待つ慰霊碑があります。
 この、同じ日本に」

 和合氏が群衆へではなく、夜空へ叫びたくなったことは重大です。
 言葉は、自分と同じ足で地面に立ち、先を急ぐ人々の心へと〈横に〉伝わらない、あるいは伝えられない孤独と絶望が隠れているからです。
 一旦、遙かな空へ投げ上げられ、舞い降りるそれを受けとめてくれる誰かはいるかも知れないが、誰も受けとめてくれないかも知れません。
 ほとんど無力な叫びなのに、詩人は、叫ばないではいられないのです。

 私たちは、この不条理、この無力感へ誠実に対応する方法として、できるならやはり、でかけてみることが必要です。
 過日の勉強会で、ボランティアなどの覚悟を持たずに被災地へでかけることの是非が議論となりました。
 実際に何かをやって役に立とうとするのではなく、ただ〈見に行く〉のには問題がある、あるいは抵抗感があるというご意見もありました。
 しかし、時折、被災地で目立たぬように祈りサッと帰るしかない者の実感としては、その場で〈感じる〉ことの大きな意義がわかります。
 でかける方は、誰に何と言われようと構わぬ気持で出発し、受け入れる側は、訪れる方々の心は千差万別であることを当然として、大らかに受け入れていただきたいと願っています。

 もう一つの方法は、〈故郷〉や〈祖国〉というものをあらためて考えてみることです。
 今、困難に陥っているのは誰かにとって故郷であり、そこはまぎれもなく、私たちの祖国なのです。
 自分の故郷にある小学校やお墓が防護服を着てしか訪れられないと想像し、自分と同じように箸を持ち、自分と同じようにこんにちわと挨拶する同胞が、家族を失い、家を失い、仕事を失い、眠れず、苦しんでいることを如実に想像してみましょう。

 実に、私たちは共に、〈苦にある〉存在です。
 そこから抜け出る方法は二つ。
 一つは、心を清め、高めること。
 もう一つは、苦を分かち合うこと。
 そして、この二つは切り離せません。
 和合氏の言葉、叫び、思いを胸に入れておこうではありませんか。
 そして、何かを行いたいものです。




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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