コラム

 公開日: 2012-03-19  最終更新日: 2014-06-04

寺子屋の教え『実語教・童子教』を考える(その40)─指導者の孤独・重い言葉─


 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 江戸時代まで広く寺子屋で用いられていた教材『実語教・童子教』を見直しましょう。
 日常生活でも用いる警句などがふんだんに含まれています。

「国土を治むる賢王(ケンノウ)は  
 鰥寡(カンカ)を侮(ク)ゆることなし」

(国を治める資格のある賢い国王は、孤独に過ごす日々を悔いたりはしません)

「鰥」は見慣れない文字ですが、妻のない男性のお年寄りです。
 ある勉強会で、この文字の成り立ちが、魚の目から涙が流れている様子を示すと知った時は、皆さんと一緒に「へえ」と小さく嘆息し、しばし、言葉にならなかったものです。
「寡」はその反対に夫のない女性のお年寄りです。
「鰥寡孤独(カンカコドク)」という熟語があり、「孤」は親のない子供、「独」は子供のいないお年寄りを意味し、身寄りがなく淋しい境遇です。

 江戸時代には、国王の孤独を子供たちへいかに教えていたのでしょうか?
「お殿様は何不自由ない暮らしをしているように見えても、最後はすべての責任を自分が負わなければならないのだから、大変な職責を果たしているのです。
 誰かの意見を聞いたりはしても、最後はたった一人で決断し、責任を負うのです」
 あるいは……。
「最も権力のある人は、いつも注意深く過ごさねばならないのです。
 誰かが自分の座を狙っていると考えて、守りをしっかりせねばなりません。
 うかつに周囲の人へ気を許すと、計略にはめられたり、寝首をかかれたりするかも知れないから大変です」
 そして……。
「でも、本当に賢いお殿様であれば、周囲の人々がまちがったことをやろうとした時も、決然として断を下すはずです。
 それができるためには、自分の弱みを見せたり、えこひいきで周囲に対立を生んだり、好きなものごとに溺れていたりはできません。
 何にもとらわれず堂々と決断して、それを実行するには、自分の人間性を厳しく磨いておかねばなりません。
 皆さんも、お殿様のように偉くなって世の中を良くしようと志すならば、友だちと遊んでばかりいないで、自分が強い人間になれるよう、文武両道で自分を厳しく鍛えましょう」

「君子の人を誉めざるは  
 則ち民の怨(アダ)と作(ナ)ればなり」

(君子と呼ばれるような人は、うかつに人を褒めません。
 褒められた人は周囲から妬まれ、やがては怨まれたりもするからです)

「君子は三思一言(サンシイチゴン)」ということわざがあります。
 君子は、一言話す前に三回考え直してみて、それでも確信があるならばようやく口にしてよいのです。
 それだけ周囲へ影響を与えるし、君子自身も一言、一言によって考えている内容が推しはかられるからです。
 現代に当てはめれば政治家の発言などが〈重い言葉〉に該当しますが、〈三思〉が感じられるほどの人はあまりおられないやに見受けられます。
 それどころか、秘しておくべきものを軽々にしゃべり、自分が重要な情報源であることを認知してもらうことで実力者の位置を占めていたいという下心が見えて見苦しい場合もあります。

 能の名人世阿弥は書きました。
「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」
 肝腎なところを徹底的に突きつめてから表現すべきであるという厳しい教えです。
 舞台に表れるものは、膨大な稽古や準備からすれば、ごくごく一部です。
 大輪の花々をいくつも咲かせられるほどの力をもって、さりげなく咲かせて見せる一輪の花にこそ妙味があるのです。
 その力をむき出しにした表現からは味わいが消え失せます。

 平成元年、竹下内閣の後継をめぐって多士済々な人物が水を向けられた中で、固辞した故伊東正義代議士の「本の表紙を変えても、中身を変えなければだめだ」は歴史に残る一言でしょう。
 彼は権力闘争をして自分が最高権力者のイスに座るよりことよりも、ひとえに日本と自民党がいかにあるべきかを考え、皆でまず、党をきちんと立て直そうと訴えました。
 総理大臣になれる千載一遇(センサイイチグウ)のチャンスを自分から放棄したのです。
 清浄で強い志が、いざという場面での君子たる一言になりました。

 今回は指導者の心構えを学びました。
 子供の頃からこうした薫陶(クントウ)を受ければ、子供たちの心で尊い部分が成長するのではないでしょうか。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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