コラム

 公開日: 2012-03-28  最終更新日: 2014-06-04

三十七の菩薩(ボサツ)の実践(第十六回) ─恩を仇で返された時は……─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈強風の日、北の町で地鎮祭を行いました〉

 菩薩(ボサツ)になるための実践道。
 第十六回目です。

「わが子のように大切に育てた者が
 私を敵のように見なしたとしても、
 病気のわが子に接する母のようによりいっそうの愛情を注ぐ
 それが菩薩の実践である」

 これは恩を仇で返された相手へ菩薩はどう対応するかという問題です。

1 恩をどうとらえるか。

 隠形流(オンギョウリュウ)居合の道場で唱える『七言法』の6番目です。

「我、恩を着せず恩を忘れぬは、人の道を忘れず、自他の発展を願うがゆえなり」

 まず、菩薩(ボサツ)は恩を着せません。
 なぜなら、誰かのためになることは菩薩として当然の行為であり、そこに恩という特別な色をつけるのは無意味です。
 もしも自分で自分の行為へそうした色をつけたい時は、「いつか恩を返してもらいたい」という心がはたらいており、打算が伴った瞬間に行為は菩薩行から離れます。
 だから、宗教団体が恩の貸し借りと妥協で行動する政治団体になってはなりません。
 忘れられない場面があります。
 政界を志すAさんが某宗教団体の幹部と会ったところ、冒頭から、一定数の機関紙の購読やおりおりの集会所への挨拶など、いくつかの条件がつけられました。
「B先生は毎月、顔を出されて、ウチの信徒さんのウケがとても良いんです」
 鼻をうごめかせながらギラギラと迫り、宗教者が信者数をバックに恩を売る場面には、目を背けたくなりました。
 Aさんがどのように対応したかは知りません。

 そして、菩薩は受けた恩を忘れません。
 なぜなら、無限の「おかげさま」によって自分が今、ここにいられるからです。
 お大師様は説かれました。

「吾はこれ無始より已来(イライ)、四生(シショウ)六道(ロクドウ)の中に父となり子となって、いずれの生をか受けざる、いずれの趣(シュ…世界)にか生ぜざる。
 もし、恵眼をもってこれを観ずれば、一切の衆生はみなこれ我が親なり」

(私は、いつ始めがあったとも言えない無限の過去からずっと、ありとあらゆる生きものたちの世界で父となり子となって生まれ変わり死に変わりし、訪れない世界はない。
 もしも智慧の眼力で輪廻の真実を見透すならば、一切の生きとし生けるものは自分の親であることがわかるであろう)
 四生は、生まれ方によって分けられる生きものので世界です。
1 胎生(タイショウ)…胎内から生まれるほ乳類など。
2 卵生(ランショウ)…卵から孵化する鳥類や魚類など。
3 湿生(シッショウ)…湿気から生ずる虫など。
4 化生(ケショウ)…業(ゴウ)によって生ずる天人など。
 六道は業によって経巡る迷いの世界であり、地獄から天までの6つです。
 恩を忘れぬ誓いは、僧侶として生き直す際の第一歩として欠かせません。
 だから、生前戒名を受ける方はすべて、最初にこの誓いを立てるのです。

2 仇をどうとらえるか。

 上記の理由により、菩薩にとって自分へ「恩を仇で返す相手」は存在しません。
 いるのは、ただ、悪しきことを行う相手です。
 目をかけてやった相手と、そうでない相手を区別して、目をかけてやった相手にだけ特別に怒ったり厳しく当たったりはしないのです。
 ダライ・ラマ七世に逸話が残っています。
 心を病んだ大臣プンポがダライ・ラマ七世へ激しくかみついた時、ダライ・ラマ七世はいつに変わらぬ慈悲をもって対応し、その後も大切にしました。

「プンポが精神的に不安定になったのはプンポ自身のせいではなく、堕落した時代のせいである」(『ダライ・ラマ 生き方の研究』より)

 この姿勢は、我が子が環境などの影響によって精神病にかかった場合の母親に例えられています。
 母親は環境などとは闘うかも知れませんが、我が子は自分が守ろうとするだけであり、決して闘いの相手にはしません。

 ただし、菩薩は、恩知らずに陥っている人へ恩を説きます。
 それは、親が子供へ「私がお前を育ててやったのに」とは言わず、太陽や農家の方やお巡りさんなどの〈おかげ〉に気づかせるのと同じです。

3 恩や仇をなす人と、恩や仇そのもののとらえ方。

 ある方が若松英輔氏著『魂にふれる』をお送りくださいました。
(多くの方々からお手紙や花や本や食べものなどをお送りいただきますが、なかなかお礼状を書けないでおり、深くお詫び申し上げます)
 その中にあります。

「死者を見出そうと願うなら『死』に目を奪われてはならない。
 それは病に近づきすぎて、病者を見失うのに似ている。
 病気は存在しない。
 いるのは病に苦しむ人間だけである。
 労苦があるのではなく、それを背負う人間がいるだけであるように、死ではなく、死者が存在しているのではないだろうか」

 死者の死を表す状況にだけ目を奪われて、死を観念するにとどまり、死者そのものを感じ、想像し、死者と交感する魂の次元へ深まる心を忘れているのではないかという厳しい指摘です。

 確かに、伊集院静氏著『いねむり先生』の名場面を思い出すと、そうした指摘の必要性はわかります。
『魂にふれる』にあるとおり、

「単に知ることは、座った人間を立ちあがらせることはできないが、『解った』者は、むしろ座ったままでいることはできない」

という状態になりました。
 名場面は、心を病んだ男と、〈いねむり先生〉こと作家色川武大氏が夜中の田んぼで踊り出し、伊集院静氏も加わって大騒ぎした後、三人それぞれの心から病んでいた部分が洗い流されたところです。
〈人間〉を通じて病気が克服されたのです。
 だから、若松英輔氏に共感はできます。
 しかし、行者としては、やはり、共通して心に抱えているものを見すえる視点も放棄するわけにはゆきません。
 空(クウ)の視点から仏性の満月を観、煩悩(ボンノウ)の群雲(ムラクモ)を観ることなく、日々訪れる多種多様な願いを持った方々へ最善の法務でお応えすることはできません。

 具体的な恩人、仇で向かってくる人、恩そのもの、仇そのもの、よく考えて菩薩道を歩みましょう。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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