コラム

 公開日: 2012-04-03  最終更新日: 2014-06-04

悲しみには豊穣な土壌という一面がある


 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 例祭の護摩法には、県外から足を運ばれた方々も含め、たくさんの善男善女が参加されました。
 そこでこんな話をしました。

「私が毎日托鉢行にでかけていた頃、毎週一度、夕方から修行道場へでかけていました。
 ところがある時から、道場近くにある川沿いの空き地あたりまで行くと、なぜかもの悲しくなり、そのまま道場へ向かう気になれません。
 駐めた車の中で、何がそうさせているのか、考えてみました。
 しかし、いくら考えてみても、思い当たるふしはありません。
 あまり詮索しない方がよいと直感し、悲しみに身を委ねることにしました。
 これではいけない、前向きになろうなどとは一瞬も思いませんでした。
 それは明らかに悲しみの感情であり、行動を止めるほど強く迫ってはきますが、このまま押しつぶされるのではないかという恐怖はもたらさず、空き地で一時を過ごしてから道場へ着けば、問題なく稽古を続けられました。
 夏には、釣り糸を垂れている人々の近くを、一人乗りの漁船が申しわけなさそうに通ります。
 冬には、車が数珠つなぎになり、凍結した道路を伸び縮みする帯のように進んで行きます。
 窓外の光景をボウッと眺めるともなく眺めていると、そのうちに、悲しいと一言口から漏れたりもします。

 また夏が来たある日、道場からの帰り道、そのあたりで年配女性とすれ違いました。
 ハッとしてサイドミラーを見ると浴衣姿に見覚えがあります。
 もう一度バックミラーで確認したら、それは亡き母でした。
 後姿はたちまちに遠ざかりましたが、亡くなる20年ほど前の母であると思えてなりません。
 涙で見えにくくなる前方に注意しながら車を走らせ、『お袋……』とつぶやきました。

 カゴへ入れた私を教壇の横へ置いてはたらいた母。
 受験ではお百度参りをしてくれた母。
 夫婦げんかをする私に『お前の娘を2人産んでくれた大事なお母さんじゃないか!』と叱ってくれた母。
 法務中で最期を看取れなかった母。
 心配させ、『put my mother to a lot of trouble』というように苦労をかけ通しだった母。
 母の真剣さの万分の一もない息子はとうとう、親不孝のまま、逝かせてしまいました。
 その母がなぜ、ああした形で顕れたのか?

 その後、あの場を通っても、悲しみは訪れなくなりました。
 あの〈悲しみ〉は、〈悲しみの場〉は何だったのか?
 超能力者でない私には未だに判然とはしませんが、あまりわからないままでよいと思っています。
 毎週、あの場に佇ませた母の深く高い思いは、ぼんくら息子になど知り得るはずもありません。
 ただ、暗闇へ引き込むのではなく、心へ足止めをかけるのに束縛感をもたらさない不思議な悲しみに身を委ねた日々は、今の法務のどこかにつながる何かをもたらしてくれたはずであるという確信はあります。
 ──見ず知らずの亡き方の魂と交感しつつ祈り、み仏から戒名をいただく際にも。
 ──飼い主の方々と悲しみを共にしつつお地蔵様へ祈り、亡きペットを送る際にも」

 こんな私には、若松英輔著『魂にふれる』の一節が納得できます。

「死者が接近するとき、私たちの魂は悲しみにふるえる。
 悲しみは、死者が訪れる合図である。
 それは悲哀の体験だが、私たちに寄り添う死者の実在を知る、慰めの経験でもある」

 前向き志向だけが実りをもたらすのではありません。
 悲しみが豊穣な土壌であると知ることもまた、私たちを着実に前進させるきっかけとなるのではないでしょうか。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ