コラム

 公開日: 2012-04-08  最終更新日: 2014-06-04

祈りは通じるか通じないか ─観音経の救い─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。


 第一例祭では、太鼓に合わせて観音経を三返読誦します。
 一度目より二度目、そして三度目と祈る篤さが深まり、熱祷になります。
 観音様は、過去の修行の結果『正法明如来(ショウボウミョウニョライ)」という仏国土に住する光輝く如来様になられました。
 しかし、人々を救わないではいられないお慈悲の願力によって、菩薩(ボサツ)のお姿になり、祈る人々のそばに現れてくださいます。
 お名前を正法(ショウボウ)と申し上げるとおり、根本的真理を本体としておられる方ですから、おすがりする人々を必ず真理がつくる真実世界へとお導きくださいます。
 読むたびに不思議な引力を覚えるこの教典には、「恐れることはありません。必ず救ってあげますよ」とのお約束がぎっしり詰まっています。

 かつて、宗派間のいざこざの結果、天台宗の延暦寺の僧兵が、法相宗(ホッソウシュウ)の清水寺の本堂や僧坊などをすべて焼き払う事件がありました。
『平家物語』によれば、天台宗の僧兵は、焼き討ちの翌朝、「や、観音火坑変成池(カンノンカキョウヘンジョウチ)はいかに」と書いた立て札を立てたとされています。
「火坑変成池」は、観音経にある経文です。

「たとえ害する心を持った者が善男善女を火の燃えさかる穴に落とそうとしても、観音様のお力を信じておすがりすれば、そこにはたちまち水があふれ、火は消えるであろう」

 大難の一つ、火難(カナン)から救うという教えです。
 また、その翌朝には、「暦劫(リャッコウ)不思議力及ばず」という立て札を立てました。
「『いくら考えても人間の浅知恵などでははかり知れないほど無限のお力がある』と経典に書いてあっても、そんな力は及ばず、観音様が本尊である本堂も燃えてしまったではないか」との嘲りです。

 モノは火をつけられれば燃えるし、人は条件によって病気を発症し、寿命がくれば必ず死にます。
 モノの世界は生々流転(ショウジョウルテン)、姿をとって現れては変化し、消え去ります。
 教団や占い師やある種のカウンセラーによっては、「これさえ唱えれば病気は治る」「これさえ唱えれば貧乏でなくなる」などと主張する場合もありますが、経典は、そういった万能薬でもなければ、打ち出の小槌でもありません。
 だから、火によって本堂が燃えたから経典や修行は嘘だという主張も、盲目的に経文へすがらせる主張も的はずれです。

 み仏の世界は人間界を超えている以上、当然、人間の言葉では直接表現し切れません。
 だから経典にあるのは不思議であり考えも及ばない不可思議の世界です。
 経典は、言外に問うのです。
「お前は、本当に己の愚かさが解っているのか?
 本当に悪行を懺悔しているのか?
 本当に善きことを願っているのか?
 本当に救われたいのか?
 本当に仏界へ憧れているのか?」

 己の愚かさ、あさはかさ、無力さに打ちのめされ、心からみ仏におすがりするのなら、至心に経典が読誦できるはずです。
 読誦すれば事実、お救いいただけます。
 ただし、不可思議の世界と交差し、重なり、出入りする成り行きは、凡人の理解力を超えています。
 凡夫の願いはそもそも、凡夫なりのものでしかなく、善かれと願う心はまっさらでも、願う内容は凡夫としての限度を超えられません。
 そして、いかなる形の救済が待っているかは、私たちにわかるはずはありません。
 それでも、〈至心に〉行うところから、すでに、救いの流れは目に見えない形で始まっており、やがて、アッと気づく時が来ます。
 この〈時が来た〉体験によって経典は大切に守られ、奉じられ、伝えられ、読み継がれているのではないでしょうか。
 何ごとでもなければ、疾うにうち捨てられ、忘れ去られてしまうはずです。

 観音経に「無垢清浄なる光のごとき観音様のお慈悲は、太陽のごとき智慧となって、この世のさまざまな迷いの闇をうち払ってくださる」とあります。
 窮地に陥ったAさんは、無我夢中で観音経を読誦している時、観音様をお祀りしてある須弥壇(シュミダン…本堂正面にある壇)付近から川のように流れる不思議な光をありありと見ました。
 その後、信じられないような成り行きで窮地を脱しました。
 私自身も、不動経に「水を逆さまに流しもしよう」とあるとおり、樋の下流から上流へと水が流れる光景を夢に見た後、救われました。
 かつて、アインシュタインは、こんなことを言いました。

「宇宙の真理を求めれば求めるほど、より深い真理が奥の奥にあることが解るが、到底、突きとめきれるものではない。
 だから私は神を信じる」

 肝心なのは、まずなすべきことをなし、己を省みて、あさはかさ、力のなさに心底思い至ったならば、裸になって縁の仏神へおすがりすることです。
 幼子が高熱を出し、医者の治療を受け必死の看病をしてもなお、顔を真っ赤にしてうなされている時、祈らない親がいるでしょうか。
 祈れば必ず〈その時〉が訪れます。
 いかなる結果になろうが、祈る心は必ず、〈その時〉がやってきたことを知るのです。
 私のような凡夫であっても、皆さんから〈その時〉体験のお話を聞かせていただければこそ、皆さんが抱える苦のごく一部を共にしつつ不断の祈りを続けられます。
 伴侶の当病平癒を祈願した方が首尾よく治れば、「あきらめかけていたのに、ここまで回復しました」とお二人でご来山され、手を取り合うように喜びを共にします。
 もしも回復できなかった場合は、「おかげさまで、私も夫も心穏やかに最善を尽くしきることができました。夫が安心の世界へ逝けるようお導きください」とご連絡があり、悲しみを共にしつつ枕経(マクラギョウ)を行います。

 寺院は、一切のしがらみから離れて、経典を信じ、ご本尊様を信じ、修法を信じて共に祈る場です。
 共に〈その時〉を待ち、喜びも悲しみも共にする場です。
 共に祈りましょう。
(この文章は平成17年に書きました。もうネットで読んでいただけない古い綴りの中から行者高橋里佳さんがピックアップしたものを加筆修正の上、再掲しています)
開店に伴う修法です


 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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