コラム

 公開日: 2012-04-21  最終更新日: 2014-06-04

「痛みが美に変わる時 ─画家松井冬子の世界─」に想う(その2)

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈世界中の子と友達になれる〉

 社会学者上野千鶴子氏との対談で言う。
「この画法をとりいれたのは、もっともかっこいい技法が古典にあったから」
「エッジが効いている。形にごまかしが効かない。削り落として良いものだけを選んでいる究極の画報と思う」
『世界中の子と友達になれる』は、子供時代に懐いていた実現不可能な思いが描かせた作品とされているが、上野千鶴子氏は「世界中の子が私と同じような不幸に感染しますように」とのメッセージがこめられているという。

 上野千鶴子氏は訊ねる。
「制作中は何を考えているの?」(上野)
「あまり考えていません。特に本画を描く時は技法のことなどしか」(松井)
「それでは満足できません。『世界中の子が私と同じような不幸に感染しますように』ができあがるまでの一年の間に、痛みや苦痛があって辛かったと思いますが」(上野)
「それは仕方がありません。当たり前なのです」(松井)
「眼を背けていたい時だってあるでしょう?
 眼を背けないでいるための方法が描くということ?
 他にも方法はいろいろありますよね」(上野)
「でも、、少なくとも怒りをぶつけるために描いているのではありません。
 怒りをぶつけるのではなく、相手に痛みを理解させることを考えています」(松井)
「ずいぶんアグレッシブですね。
 それも怒りの表現ですね。
 自分の中に溜まったものを吐き出さないでいたとしたら、どうなっていたと思います?
 絵という表現方法を持たなかったら……」(上野)
「たぶん、死んでいると思います。普通に。自殺してますね」(松井)
「吐き出す方法とスキルがあったから、それを放出しながら何とかもってきている感じ?」(上野)
「いや、へたれだから自殺できなかったというのもあると思います」(松井)
 松井冬子氏は、笑う。


〈くちなわ〉

 上野千鶴子氏は松井冬子の作品群を「自傷系アート」と命名した。
 松井冬子氏は若者から支持され、「見た時から、離れなくなっています」「波立っていた心が安らぎました」などという便りが届く。
 幽霊めいた女性が『くちなわ』で描かれた。
 上野千鶴子氏は言う。
「描かれたのは女の痛みであって抽象化された人間の痛みではない。
 私たちの業界の言葉で言うと〈ジェンダー化された痛み〉です。
 批評家の多くは男性たちで、〈人間化された痛み〉へ脱ジェンダー化してゆく人もいるでしょうが、もしそういう解釈の仕方が現れたなら嫌だな。
 ジェンダー化された痛みはジェンダー化された痛みとして受けとめられ解読されるべきです。
 男性は貴女の絵を観て何を受け取るんでしょうか?」(上野)
「嫌がっている人は時々います」(松井)
「それは貴方の狙いどおり?」(上野)
「狙いどおりです。それ見たことか」(松井)
 松井冬子氏は、ここでも笑う。
「女性は何を観ているの?」(上野)
「よくやってくれたと言われたことがあります。
 それがすごく嬉しかった。
 理解してくれてるな、と」(松井)
 松井冬子氏の瞳がやや、潤んだ。

 このやりとりは明らかに誘導尋問である。
 上野千鶴子氏は、同情する同性として、無垢の画家を〈自説の土俵〉へ引っぱり上げている。
 土俵とはジェンダー思想である。
 松井冬子氏は、怒りも痛みも持っている者として無心に描く。
 そこへ思想を持ち込むのは失礼というものではないか。
 確かに女性であるがゆえの怒りも痛みもあるだろうが、松井冬子氏の強いまなざしは、決して誰かを敵として攻撃してはいない。
 暴力をふるう男性一般などという社会学的な観念などは描く力にはなり得ず、希代の画家は、むしろ、他からの暴力によって否応なくあからさまになった自分自身にある暴力的意志をこそ正面に据えているのではないか。
 他からの暴力なら逃げる方法はある。
 しかし、自分自身の意志からは逃げられない。
 だからこそ、「たぶん、死んでいると思います。普通に。自殺してますね」となった。
 破壊され内蔵の飛び出た肢体は自分であると同時に、自分の意志の先に怖れつつ観ている廃墟ではないか。
 松井冬子氏は廃墟を先取りすることにより、結果的に救われているのはないか。
 だからこそ、無残さを聖性が包んでいるのではないか。

 松井冬子氏が怯む男性へ「それみたことか」と思い、共感する女性へ涙ぐむ場面は、上野千鶴子氏を登場させたNHKの〈作りたい場面〉だった可能性がある。
 やらせではなくとも、番組には制作者の意図が色濃く反映される。
 もしも、松井冬子氏に会う機会があれば、上野千鶴子氏が自ら「業界の言葉」と言うジェンダー思想についての本音を訊いてみたい気すら起こる。
 それほど松井冬子氏の作品は、上野千鶴子氏が嫌う〈性別を超えた普遍性〉を有していると思えるからである。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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