コラム

 公開日: 2012-05-06  最終更新日: 2014-06-04

傷ついた日本人へ(その5) ─本当の幸せとは何か?(その2)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 被災地を訪れたダライ・ラマ法王が高野山で行った講演の概要が『傷ついた日本人へ』という本になりました。
 それを読み解く稿の第5回目です。

「幸福の源」を手に入れるための手段であるお金などは、より多く持てばよりたくさんの幸福が得られると信じられ、皆が競ってかき集めようとします。
 その結果は……。

「欲望の肥大化は、人間を利己的で胆略的にもします。」

 欲する自分が得られなければ、それだけ幸福になるチャンスが遠のくので、他人をかまっていられなくなり、利己的にならざるを得ません。
〈自分が得ること=自分の幸福、自分が得られなくて他人が得ること=自分の不幸〉という単純な図式に支配されているので、胆略的になります。
 たとえば、中国で頻発している食料や飼料の農薬汚染、あるいは森林伐採や公害による環境破壊は、信じられないほど胆略的な姿勢がもたらしています。
 今、自分が儲かることしか考えず、家族や友人や、場合によっては子々孫々まで酷い目に遭う可能性まで思いが及びません。
 それが社会的、国家的規模になれば……。

「行き過ぎた欲望とエゴが極限まで達すると『戦争』が起こるのです。
 特に二十世紀は『暴力と流血の世紀』だったと言ってもいい。」

 こうして、一つの結論に至ります。

「いくら欲望が満たされても本当の『幸せ』にはたどり着けない。
 それはもう二十世紀の歴史が証明してくれました。」
「二十一世紀に生きる私たちは、この失敗を認め、誤った認識を正しくしていかなくてはいけません。
 これまで当たり前だと思っていた価値観を見直し、平和な世界を築く必要があります。
 それはこの地球に住むすべての人間の責任なのです。」

 皆が『幸せ』を求めて欲してきたはずなのに、奪い合う果てに待っていたのは大規模な破壊と荒廃でした。
 だから、外部から私たちの目や耳などの感覚器官を刺激し楽しませてくれる『自分にとって好ましい状態』をつくるために、欲をどこまでもたくましくする方法は捨てねばなりません。

「本当に『幸せ』になるにはどうしたらいいのでしょうか。
 そのためには、これまでの固定観念を大きく転換させ、正反対の道筋をたどってみることです。
 正反対の道筋とは、欲望やエゴの放棄です。」

 欲望の代わりに慈悲を発揮し、エゴの代わりに利他的な考えを持つのです。
 お釈迦様は比喩をもって自己中心にはたらく欲は捨てよと説かれました。

「私たちは皆、自分で自分の口へ食べものを運べないほど大きな箸を持っているようなものです。
 だから、自分で自分の口へ食べものを入れようとすれば不都合が起きます。
 お互いに食べさせ合い、生かし合えば不都合は消えます」

 大き過ぎる箸は、他の動物と違って、自分が生きる分だけでは満足できない人間の過大な欲望を暗示しています。
 そして、誰かへ食べさせて喜ばれることを喜ぶことができれば、自分が食べさせられて起こる感謝とあいまって、食べて美味しいと感じるだけの幸福感とは桁違いな喜びが得られます。

 法王は明確にされます。

「他人に思いやりを持ち、広い視野で物事を見つめる。
 利他的な行動をとり、自分が今持っているもので満足する。
 人を信頼して正直に生き、他人への思いやりや優しさを人間関係の基本にする──。
 そうすれば渇きや争いから解放され、心が平穏になることを感じるでしょう。他人への恐れや後ろめたい感情は消え、自分のことを自分で信じられるようになるはずです。
 このとき心の中には、これまでと別の種類の幸福感が生まれてくるはずです。
 刺激による心の高まりとは違う、静かで穏やかな『心の平和』です。
 これこそが私たちが追い求めてきた『幸せ』の本当のありようだったのです。」

 私たちは、〈~があれば〉幸せになれると考え、〈~がないから〉幸せでないと考えてきました。
 そして、〈~〉という条件は無限に大きくなり、それは、だんだん遠くなっても来ました。
 たとえば伴侶を考えてみましょう。
 貧しい時代には、互いを信じ合う男女が手鍋一つで生活を始め、2人で一つの幸せを得ようとしました。
 しかし、満たされた時代になり、女性は男性へ安心な生活を保障する収入と同時に、家事や子育てを一緒に行うことも求めるようになりました。
 男性は女性へアニメの影響などで空想化された女性を求めるようになりました。
 自分の幸せを得たい男女同士の共同生活が結婚となり、別に結婚という形はいらないのではないかとも考えられるようになりました。
 どこまで行っても、相手へ〈自分が幸せになる〉ための条件を求め続けます。
 自分の幸せが自分にとっての幸せであり、相手の幸せが自分にとっての幸せではありません。
 こうした男女の間に生まれた子供も当然、自分の幸せを第一にし、幸せ感にとって邪魔なものには我慢できず、許せません。

 ある日、孫を連れて高級な団地にある立派な公園へでかけました。
 緑豊かで広々した公園のあちこちで、地域住民らしい大人や子供たちがくつろいでいます。
 すぐに、見晴らしの良い空間のあちこちから強い視線がやってきました。
 私たちは明らかに、よそ者だからでしょう。
 そんなことはお構いなしに孫は滑り台へ走り、私も後を追いました。
 そこへ体格の良い男児が突進し、孫を階段から登らせまいとしましたが、小柄で素早い孫は一瞬早く登り、台上へ立ちました。
 後から台上に立った男児の憎悪と殺気に満ちた目の光は忘れられません。
 孫を突き落とす気配が起こったので、私は見ているぞというシグナルを発しました。
 滑り降りた孫を連れて早々に立ち去る途中、周囲の子供たちは見事なほど二種類に分かれました。
 無視するか、あるいは敵視するか──。
 見知らぬ子供たちの心中を考えながらの帰り道は重い足どりでした。

 現代人がこれほどまでに人間関係に円滑を欠くようになったのは、お互いの心に邪険さが育ったせいではないかと考えています。
 邪険さは邪見によって生じます。
 邪見とは、人の道からはずれた見解です。
 その最たるものが自己中心的な考え方です。
 自分が考える〈自分が幸せになるための条件〉を自分の外へ設定し、ひたすらそれを手に入れようとするところに、この恐るべき自己中心が潜んでいることはあまり気づかれませんでした。
 法王が、外へ求めるのではなく、自分自身の生き方を考え、変えようとして説かれる提案には涙が出そうになります。
 私たちの根本的な勘違いに発する互いの不幸を解く道が示されているからです。
「他人に思いやりを持ち、広い視野で物事を見つめる。
 利他的な行動をとり、自分が今持っているもので満足する。
 人を信頼して正直に生き、他人への思いやりや優しさを人間関係の基本にする──。」
 お互いがこうして生きるようになれば、外へ幸せを追い求め、自分を駆り立て自分を追いつめる不幸から解放され、邪険さに邪魔をされない円滑な人間関係が生まれることでしょう。

「一人一人の心の中に平和があってこそ、グローバルなレベルでの平和が達成できるのです。」

 では、どうやって「刺激による心の高まりとは違う、静かで穏やかな『心の平和』」を確立するか?



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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