コラム

 公開日: 2012-05-13  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(その98)─書道と私─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 5月13日、第27回「寺子屋『法楽館』」において、書家高橋香温先生の講演会を行いました。
 今回は、これまでに書かれた作品の何点かをご持参いただき、それぞれの作品へ込めた思いを詳しくお聴きしました。
 大きなボードの前へ2人がかりで作品を垂らし、先生が横でお話しくださるという方法で進めました。
 おそらくこうした形の展示会は、これで最後ではないかと思われます。



 家族5人、家も仕事場も失い、茫然自失となっていた先生が書による再起へと向かうきっかけとなったのが、自宅で流された作品『ひまわり』と出会いでした。
 やがて名取市内と仙台市内で書道教室を再開し、今年の4月4日から6日間、名取市文化会館で『ふるさと名取*みらいの子供たち展 ~書を介して未来にはばたけ名取の子~』と銘打った展示会を行いました。
 その間、当山でも書道と写経の教室を初めていただきました。

 先生は笑顔で話し始めましたが、「名取市文化会館は非難して最初にたどり着いた場所です」というあたりから時折、涙ぐんでおられます。
 思い切って作品紹介という形で過去を遡っていただくお願いをしておきながら、やはり、「申しわけない」という気持が強く起こりました。
 先生が心で血を流しながら紡ぐ言葉を耳にし、その思いを込めた作品を目にしている私たちは、先生が背負われているもののたとえ何万分の一であっても、共に背負いつつ進まねばならないとの覚悟を新たにしました。
 参加者のお一人Mさんは実家が石巻市にあり、ご一族に多大な被害が発生し、幾度となく仙台市と石巻市を往復されました。
 先生が涙を催してくると絶妙のタイミングで作品の批評など相の手を入れます。
 書いた方を前にして作品を「ああだ、こうだ」言うのもいかがなものかという気持はありますと口ごもりながらも言葉をはさみ、参加者から同感の声や笑い声が起こりました。
 終了後、先生は「助かりました」と本音を漏らされました。
 相の手はどうやら〈愛の手〉でもあったようです。

 展示された作品から数点を書きとめておきます。



1 雪
 縦長の紙面で、真っ黒な天と真っ黒な地の間に雪が降り注いでいます。
 自分だけが生き残り、たった一人で迎えた夜、桎梏の闇から雪が舞い降り始めました。
 先生は、初めて「動きのあるものを視た」と感じたそうです。
 しかし、雪は柔らかいはずだったのに……。
 雪の一片一片は鋭さを含んでいます。
 情け容赦ない天地と一人でいる自分。
 文化会館での展示会で「空港でこの雪を見たことを思い出しました」と言う人がいたそうです。
 会場から「水墨画に見えます」との声が上がりました。



3 母
 子供の頃、一緒にお風呂へ入ると決まって母親が唄ってくれたのが『雨降りお月さん』でした。
 先生は「どっしりと家を守るおおらかな母でした」と言い、絶句しました。
 今になって思いだしてみると、「どうしてあの歌を唄ってくれたの?」と訊いておかなかったことが悔やまれ、「いのちのある時に話しておくことがある」と思うそうです。
 自分も何か書かなければという気持に追われて浮かんだのが母親のことでした。
 昨年も母の日が来ました。
 今年も母の日がやってきます。
 この時期になると母娘の連れ立って歩く姿などが特に目にとまりますが、先生はきっぱりと言いました。
「ここには私の中で生きつづけて行く母がいます」



12 空
 広々としている空を眺め、お釈迦様をイメージして書いたそうです。
 線が自由にくねり、何かが踊っているようでもあります。
 お釈迦様は悟りを開いた瞬間から、ある意味で〈見えない存在〉になったとされています。
 約半世紀前に創られた映画『釈迦』において、主役本郷功次郎の演じるお釈迦様は、悟りを開いてから後、姿を消して影や声だけで表現されました。
 嵐が迫る説法の場面などで、その手法はお釈迦様の存在感を強烈に訴えかけています。
 この「空」は〈クウ〉とも読め、先生の新たな出発がうかがえます。

 約1時間30分の講演会はあっという間に終わりました。
 会場からは、17年前の阪神淡路大震災に遭い今でもフラッシュバックに悩まされるというお話もありました。
 わずか1年で東日本大震災は早くも風化しつつあるという実感があります。
 時は流れ、すべては移り変わり、咲いた花が萎む一方で新たな芽吹きもあります。
 そうした中で、〈無常〉だからとは到底流しきれない思いを抱えつつ今を生きている方々がおられ、その方々に過酷な形で顕れた〈無常〉は私たち全員が宿命として共有していることを忘れずに生きたいものです。
 無常の鬼に負けないためには、空(クウ)を知る智慧と共に、人として支え合う慈悲が欠かせません。
 慈悲の根本は黙って寄り添う深く広い友情です。
 宿命を共有している者同士はまぎれもなく友人同士です。
 友人は「あなたのできごとはあなたのできごと」と友人を見捨てられないからこそ友人です。
 そこには自然な支え合いがあります。

 先生の作品群は目を醒まさせます。
 これからも無常という宿命のタクトに導かれた先生の運命は、新たな作品を生み出して行くことでしょう。
 私たちの目を醒ましつつ。




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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