コラム

 公開日: 2012-05-18  最終更新日: 2014-06-04

ままならぬこの世、そして聖性 ─カザルスの『鳥の歌』に誘われて─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 関東方面へ出張する車の中で、パブロ・カザルスがケネディ大統領の晩餐会で演奏したCD『鳥の歌─ホワイトハウス・コンサート』を聴いていました。
 曲が『鳥の歌』になり、短い演奏が終わってから約5秒間、静寂が時空を支配し、思い切ったような一人の拍手をきっかけに拍手が重なった演奏に震える思いをしました。
 思わずリピートをかけ、とうとう4時間近く、この一曲を聴きながらハンドルにしがみつく次第となりました。

 ミエチスラフ・ホルショフスキーのピアノが奏でる小さな旋律に続く深々とした演奏は、カザルスの底知れぬ思いを秘めて聴く者の息を殺させます。
 最後にもう一度くり返される「タラタラタタタン」という小鳥が飛び立つようなピアノへチェロの弦がかぶさるように一声発し、小鳥は遠くへ飛び去ります。
 演奏中数度、録音されているカザルスの声は、「あ、あ、あ」という慟哭に聞こえます。
 しかし、そうした胸が詰まるほど込み上げる思いを込めつつも、演奏は微動だにしません。
 かつて、テレビで美空ひばりが唄う『悲しい酒』のシーンを観て驚嘆したことがあります。
 涙が頬を伝っているのに、歌の乱れは気配ほどもなかったからです。
 カザルスの演奏と声も、畏怖の念さえ起こさせます。
 ご葬儀のたびに感情が動き、やっとの思いで綱渡り的に修法を行っている私などとは、プロとしてまったく次元の違う世界に住む人々です。

 さて、パーキングで一休みしたくなった頃、不意に、あるできごとを思い出しました。
 平成23年2月、認知症の妻(81歳)が、やはり認知症の夫(78歳)を絞殺した事件です。
 被害者はロッキード事件裁判で裁判長を務めた元東京高裁判事半谷恭一氏です。
 弁護士でもある氏は夫婦げんかの末、妻に殺されたものと推定されるも、妻は認知症によって刑事責任能力がないとみなされ、不起訴となりました。
 夫が先に認知症を発症し、介護していた妻も発症した上、夫を絞め殺す。
 二人のマンションでの生活、そして最後はいかなるものだったのか。
 この言葉を寄せつけない世界へ、自分も、妻も、ご縁の方々も、友人たちも、いつ去って行こうと不思議ではない現実──。

 次いで、80歳を超えたAさんに問われたシーンもよみがえりました。
「み仏の道を学び、自分を律していても、病気には勝てないのではないでしょうか。
 認知症になってなお、読経や写経は続けられませんよね」
「病気は宿命であり、避けられません。
 認知症になれば、功徳ある行為は続けられなくなるでしょう。
 しかし、積んだ功徳はなくならず、必ず来世に引き継がれることでしょう。
 こんな体験があります。
 さるホスピタルへ通っていた頃のできごとです。
 食堂や廊下で私の顔を見ると自分の息子さんと勘違いするらしく、その名で呼びかけてくるお婆さんがいました。
 笑顔で返事しながら、お婆さんの目の光に宿る強さも、自分がなぜか勇気づけられるのも、これは一体何だろうと不思議でなりませんでした。
 そんなある日、車いすを押す息子さんと会話になり、驚きました。
 お婆さんは扇畑利枝氏といい、名だたる歌人で、当山のある宮床が生んだ歌人原阿佐緒の親友だったのです。
 最近、息子さんから、氏が亡くなられたというお知らせと共に、追悼特集号となった『群山』をお送りいただきました。
 氏が戦後まもなく詠んだ一首です。
『何かわが希望あるごと炭火つぐ夜に入りて雨強くなりつつ』
 人の精進は決して無にはなりません」
 こう、お応えしました。

 それにしても、鳥のような自由を奪った独裁政権に押しつぶされている故郷を想いつつ呻くカザルスの抱えた闇……。
 半谷恭一氏に起こった悲劇のあまりに身近な宿命性……。
 そして扇畑利枝氏から発する聖性……。
 思わず弁護士Bさんへ電話をかけました。
「先生、半谷恭一氏の事件に関する資料があったらぜひ、勉強させてください」
 例によって眠気覚ましのコーヒーをすすり、また、ハンドルを握りました。
 車内では何度も何度も、演奏と慟哭と拍手がくり返されています。


〈夢のような姿〉




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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