コラム

 公開日: 2012-05-24  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(第101回)─何かを失い、自殺したくなったなら(その1)

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈雨風にじっと耐え、人が見ていようといまいと、ただ、無心に咲く花は忍耐の象徴です〉

 昨年の6月14日、南相馬市の酪農家が自殺しました。
 原発事故により、帰国の指示が出たフィリピン人の妻と子供がいなくなりました。
 放射能の影響で牛乳は売れなくなったにもかかわらず、一ヶ月百万円もの費用をかけ、一人で牛へエサを与え続け、毎日泣きながら搾った乳を川へ捨てた上の決行でした。
 6月15日、当山は、そのことを「東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(その64)─酪農家の死─」へ書きました。
 彼をそこへ追いやった共業(グウゴウ…社会的な業)を指摘し、このできごとは、原発を容認し恩恵を享受しつつ同時代に生きている私たちのしわざであると自覚しようと訴えました。

「現地の関係者の方々は、全力を尽くしておられるはずです。
 それでも抗し切れず、こうした結果を招きました。
 これが社会的な業である共業(グウゴウ)の恐ろしさです。
 ゴジラへ立ち向かうヘリコプターや戦車のように、個々がいかに奮闘してもなかなか勝利は得られません。
 勝つ方法はただ一つ、善い共業を作ることです。
 そのためには、皆が自分の『手足がちぎられ』ると想像せねばなりません。
 男性が自分の身代わりであると想像せねばなりません。
 そうすると〈やってはならないこと〉をやったと思えるはずです。
 男性がいのちをかけて遺した一句を忘れない以上の供養がありましょうか。
『原発で手足ちぎられ酪農家』」

 津波などで亡くなられた方々の一周忌に般若心経百万返読誦の供養会を行い、5月20日に「被災の記」も100回を迎えたので、一区切りを考えていた矢先、ガーンと殴られるようなできごとが起こりました。
 ある勉強会を行っている方々がこのできごとを考えなおしているうちに、追いつめられ、どうしようもなくなった時の人間のふるまいとして自殺は容認するしかないのではないか、これについて仏法はどう説くのかという疑問が起こり、当山へ質問を寄せられたのです。
 この質問へ答えるためには、もう一度、「自分の『手足がちぎられ』る」と想像し、「男性が自分の身代わりである」と想像せねばなりません。
 そして、前回のように〈自分を追いつめたもの〉を考えるのではなく、〈追いつめられた自分〉がどうするか、自殺が選択肢になった場合どうするかを決めねばなりません。

 私の父は福島県の農家の出身です。
 私が小さな頃は人糞が肥料として使われ、天秤棒の前後にそれをいっぱいに入れて田畑へ向かう「だら担ぎ」がありました。
 馬や牛だけでなく、大きな犬も労力を提供してくれていました。
 しかし、いかに記憶を遡って当時の光景を思い出し、農本主義を唱えて故郷へ帰ってしまった早大時代の優秀な先輩と語り合った日々を思い出し、托鉢の最中にお茶をいただき語り合った農家の方々を思い出しても、この男性の身に成り切ることはできません。
 状況はどうにか理解できます。
 妻子を事実上失い、家族同様だった牛を失い、家も職も失うことはどうにか想像できます。
 私もこれまで、全財産を失うなど二度、自分の将来はなくなったと考えるしかない体験があるからです。
 托鉢をしていた時代に私を生かしてくださった浜の世界、津波で消え去った集落と人々を想いつつ茫漠とした浜で祈るたび、膨大な〈喪失〉の追体験をくり返しても来たからです。
 だから、今の自分が男性と同じように〈手足ちぎられ〉たならばどうするかと、ある程度リアルに想像することは可能です。

 男性になろうとせず、自分の身の上を想像すると、答はすぐに出ました。
 托鉢僧に戻れば良いだけです。
 では、もしも動けない身体になり、救いの手がなかったなら?
 じっと印を結び真言を唱えながら死を待つのみです。
 一度、娑婆(シャバ)で死んだ者として生き直しを行い、死ねばもう、引導を渡してもらうことのない身ゆえ、生が死へと移ってもさしたる問題はありません。
 四国八十八霊場の路端に立つ無数のお地蔵様の像などは、行き倒れになった行者の墓標であるとされています。
 インドでは古来、四住期(シジュウキ)が人生の理想とされ、その四番目は遊行(ユギョウ)すなわち行き倒れるまで続く彷徨の時期です。
 この場合は、いわゆる孤立死に近い状況かも知れませんが、私は「それで結構」と思っています。
 ただし、死後の始末は自分でできませんから、準備だけは必要です。
 その意味では、この男性が、自分の死亡保険で牛小屋の代金などを払って欲しいと書き残したことは相当なふるまいであると思います。


 しかし、男性にはなり切れません。
 決定的に違うのはどこか?
 男性は〈失って〉絶望し、逝かれました。
 私は出家の段階ですでに〈失って〉おり、空(クウ)の体得を目指して日々、生きているのでもう喪失による絶望とは無縁です。
 この面から、今回ご質問いただいた方々への答の一つが導き出されます。
「八方塞がりになって手の打ちようがなくなった時、かけがえのないものを失った時、それでもなお、疑いもなく残っているものに気づくはずです。
 それは〈生きている自分〉です。
 自在に活動していた時も、不如意にうちのめされている今も、同じく息をしているではありませんか。
 財産があった日々も、家族と過ごしていた日々も、それらがなくなった今も、同じく息をしているではありませんか。
 何があろうとなかろうと、自分が生きていることは確かであり、いろいろ〈在った〉日も、〈無くなった〉今も、まったく変わりはないのです。
 そして、私たちはそもそも、この世へ生まれ落ちた時、ただ息をしている、そうした存在だったはずです。
 生まれてこの方、ずっと同じなのです。
 どうでしょう。
 このことが深く腑に落ちてなお生きている時、たとえ意志を通せなくても、何を失おうとも、死の世界へジャンプせねばならない必要はどこにありましょうか?」



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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