コラム

 公開日: 2012-05-26  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(第104回)─何かを失い、自殺したくなったなら(その4)

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 そろそろ質問に対する答をまとめねばなりません。
 どうにもならない状況で行われる自殺を仏法はどうとらえ、どう対処するか?

 これまで、二つのポイントから考えてきました。
 一つは喪失感であり、もう一つは不条理感です。

○第一の喪失感については、空(クウ)の意識を持ち、〈生きもの感〉とでも言うべき生(セイ)の実感をあらためてとらえなおしましょう。
○第二の不条理感については、この世も自分もままならぬ〈苦なる存在〉であると認識し、輪廻転生(リンネテンショウ)を考え、この世は自分にとって〈一つの過程〉であると想像しましょう。

 いずれのポイントも、宗教の教えとして知るだけでなく、ものの道理として自分自身の頭でよく考えてみなければなりません。
 そのためにはいかなる教え、いかなる理も、自分の生き方に当てはめ、どこで誰に起こっているできごとも自分に起こっているととらえる視点がなければなりません。
 教えを知っただけでわかったような気分になり、周囲のできごとを〈他人ごと〉とする姿勢では、本当に自分を省みることはできず、いざという時に知識は役立ちません。
 思いやりと自省が懺悔を生じてこそ、知識は生きた智慧となります。

 タレント稲川淳二氏は、5月24日付の朝日新聞『障害者が生きる』において、障害者の息子を持った父親として、現実を赤裸々に述べておられます。
 氏は26年前「テレビでバカやってたころ」に次男を授かりました。
 すでに長男がいて「子供1人でこんなに幸せなんだから、2人ならもっと幸せになるだとう」と思ったら、次に生まれた子供はクルーゾン氏症候群という先天性の病気を持っていました。
 生後4か月経ち、子供は手術を受けることになりました。
 そして、その前日、病室で「はぁ、はぁ」と息をしている次男と二人きりになった時、氏は一瞬、殺してしまおうと考えます。
「私はね、次男に死んで欲しいという気持があった。
 助けたい。
 でも怖い。
 そして悲しい。
 この子がいたら。女房も長男も将来、大変だろうな。
 よしんば助かって生きたとしても、いずれは面倒なことになるんだろうな。
 いろんなことを考えた。」
「どういう病気かも当時はよく分かってなかったし、病室には私と次男しかいない。
 だれにも分からない。
 じゃあ今、自分で殺しちゃおうかな。
 その代わり、ずっとこいつに謝り続けて生きればいいんだ」
 そして鼻をつまもうとしますが「鼻先数センチのところで、手がぶるぶる震え」決行できませんでした。
 朝から夜の8時半までかかった大手術が終わって手術室から出てきた次男は苦しそうに呼吸をして」いました。
「もうね、たまらなかったです。
 小さな体を切り刻まれて、ぼろぼろになっても頑張っている。
 私はベッドにすがりついて『由輝!オレはお前の父ちゃんだぞ。『由輝っ!』と叫びました。」
 この時初めてわが子の名を呼んだ氏は「以後、人生がらりと変わりました。テレビのお笑いの仕事もやめました。」「自分を殺してまで笑いの仕事をするのはやめよう、と」。
 それ以来、障害者支援などを真剣に行うようになりました。
「私も次男のことがあるまでは、ひとごとだと思ってた。
 でもみんな年をとれば、どこかしら障害が出てくると思うんですよ。
 足が動かないから車いすが欲しいとかね。
 障害者の問題は、特別なものじゃない。
 いつ、だれにでも起きうる問題なんです。」
「私がね、今回、こんなみっともないことも、あえてお話ししたのは、みなさんに分かってほしいという一心、それだけなんです。
 ごめんなさいね。
 世の中に要らない人、要らない命なんてないんですよ。
 それだけは分かってください。」

 氏はこうして「かけがえのないいのち」という誰でも知っている言葉を自分の血肉とし、その真実を一人でも多くの方々に知ってもらい、障害者の役に立とうと人生をかけておられます。
 このように、何かをきっかけとして深い思いやりがわき起これば、普段の自分、今までの自分を省みないではいられなくなります。
 そして懺悔せずにはいられなくなります。
 懺悔こそが転換点です。
 価値基準が転換し、生き方が変わります。
 そして知っていたはずのことが本当にわかって知識が智慧となり、自分をかけられる信念や志が生まれます。
 ここに倫理や道徳や宗教を土台とした生き方がつくられます。

 自他の喪失感や不条理感に直面した時は、生き方を転換するチャンスです。
 学び、血肉とし、生き直しましょう。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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