コラム

 公開日: 2012-06-23  最終更新日: 2014-06-04

寺子屋の教え『実語教・童子教』を考える(その42)─鳥の目・虫の目─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈厳粛な例祭の後は皆さんがうちとけ、笑いの渦も嬉しいティー・タイムとなりました〉

 江戸時代まで寺子屋などの教材として広く用いられていた『実語教・童子教』を見直しましょう。
 一度聞いたら忘れられない警句などがふんだんに含まれています。

「愚者(グシャ)は遠き慮(オモンバカリ)無し  
 必ず近き憂い有(ア)るべし
 管(クダ)を用いて天を窺(ウカガ)うが如(ゴト)し  
 針を用いて地を指すに似たり」

(愚かな人は、広く深く未来まで見すえた思慮がはたらかない。
 目先の小さな範囲であれこれと思い悩んでいる。
 それは、細い管の穴から天を覗いて、見える範囲を天であると思い込むようなものである。
 針で大地を刺してもほとんど意味がないように、狭い見識から広大なものごとに挑んで見当外れの結果となったり、高い見識に挑んで的外れの判断をしてしまうものである)

 こう教えられれば、「そうだな」と意味は理解できます。
 では、どう理解できたのかとなると、なかなか難しくなります。
 たとえば、原発事故を考えてみましょう。

 そもそも、原発は国策として国が総力を挙げて推進してきた国家事業であり、総理大臣自身がわざわざ外国で技術の売り込みまでやるほどの力の入れようでした。
 科学技術はもちろん、あらゆる分野の専門家が集められ、いわば〈これ以上ない〉態勢でやってきたはずです。
 そもそも、愚者の反対は智者です。
 この教えによれば、智者は、「管」の穴からではなく、広く見渡せる視野を持っているはずです。
 この教えによれば、智者は、針で地を刺すような無意味なことは行わず、確実によき結果がもたらされるであろう賢明な行動をとるはずです。
 原発は、確かに、そういう人々と目されるプロやエリートが担ってきました。
 しかし、原発はあえなく大惨事を起こし、国民の信頼は完全に揺らぎました。

 ここで大きな問題となるのは、「もしもこうなったら」という原発推進に都合の悪いシミュレーションが脇へ置かれ、〈起こらないはず〉として黙視されてきたことです。
 また、事故が起こってから現在に至るまでの経過において、いかに日本人にとって未体験の過酷な状況であったとは言え、いかなるものかと疑問を持たざるを得ない対応が重ねられてきたことも問題です。
 最高の智慧を持っているはずの人々が技術の粋を尽くし、システムを磨き上げ、国家権力の直接指導に近い形でやっていながら、事故を防げず、事後の被害は拡大しました。
 私たちの智慧の限界といったものをつくづく感じさせられます。

 そうすると、次の疑問が起こります。
○疑問1 こんな私たちにこの先、原発を充分に制御できるという根拠と確信がどこからかもたらされ得るか?
○疑問2 愚者と智慧の違いは、見識の高さや、こうすればこうなるというつながりを観る力にあるのか?

 疑問1については、懐疑的、あるいは悲観的な方々が原発を廃止しようと声を上げつつあります。
 私たちの生活はもちろん、文明のあり方にもかかわる大問題であり、専門分野における知識や成果の集積内容がいかに素人には理解し難いものであろうとも、広く国民が理解できるような議論が行われねばなりません。
 疑問2については、鳥瞰図(チョウカンヅ)と虫瞰図(チュウカンヅ)を想います。
 鳥瞰図とは、大空を飛ぶ鳥の視点から眺めた世界であり、虫瞰図とは、地を這う虫の視点から眺めた世界です。
 虫瞰図という言葉は、かつてベトナム戦争反対運動が世界中で起こっていたおりに活躍した故小田実の造語とされています。
 まことに異例なことに、出棺の際、拍手で送られた故人は、著書でこう述べています。

「虫は地上を這っているけども、同時に、目は空を見上げていて、大きな宇宙を眺めている。
 それが『虫瞰図の運動』ではないかと思うのです。
 逆に言えば『鳥瞰図の運動』は小さな運動です。
 鳥はいつも地上のどこかに降りようとして、下をコソコソ探り回っている。
 地上に限定されてしまうんです。
 かえって『鳥瞰図の運動』のほうが、小さな問題にとらわれてしまって動きがとれなくなる。
 それに対して、『虫瞰図の運動』は宇宙を眺めている。」

「私は、人間の精神の中で大事なものに認識と思考があると思うんです。
 認識とはものを見定めることです。
 思考とは考えることです。
 認識すること、つまり事柄をできるだけ正確に、こう言うと誤解を招くかもしれませんが、科学的に、的確に見定める。
 はじめから主観を入れないで客観的に物事を見さだめる。認識が正確でないと物事が動かない。
 しかし、認識だけでは駄目です。
 認識の上に組み立てるのが思考です。
 これは自由でないといけない。
 認識はあくまで冷静に物事を見さだめる。
 その認識のもとに自由に物事を発想する、自由に動く。
 これは虫の視点と同じなんですね。
 認識は地の上を這って、這うことによって作っていく。
 しかし、目は上を向いて宇宙を眺める、大空を眺める。
 これは自由ということです。
 この二つのことが形成されるとき、人間の思考は自由に、すばらしことも考えることができる。」

 私は当時、左翼思想にくみせず、故人の政治活動に共鳴していたわけではありませんが、ずっと頭を離れないでいた虫瞰図の意味がわかるようになったのは托鉢行に入ってからでした。
 虫のように自分の足を用い一軒づつお訪ねするお宅で耳にする皆さんの地に着いた言葉は、一行者として生きて行く上でこの上ない宝ものになりました。
「もしも自分にあの時代がなかったら……」
 虫瞰図のない自分を想像すると恐ろしくなります。

 この教えのテーマである「愚者と智者」を考える上で、「鳥瞰図と虫瞰図」は一孝にあたいするのではないでしょうか。


 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ