コラム

 公開日: 2012-07-06  最終更新日: 2014-06-04

飛び降り自殺した大津市立中学2年生の死を無駄死ににしてはならない

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 やはり、と言うしかない。
 昨年10月、大津市立中学2年生A君の飛び降り自殺は、いじめが原因だった。
 学校のアンケート調査によれば、A君は暴力を受け、金品を奪われ、万引きをさせられ、挙げ句の果てに飛び降り自殺の練習までさせられていた。
 追いつめられた結果、予行演習通りに自殺したのである。

 A君の気持にはとてもなりきれない。
 現場を想像すると気が狂わんばかりになり、その先へは行けない。
 暴行、窃盗、強盗、強要、強迫、いずれも刑法によって罰せられるれっきとした犯罪である。
 そうした犯罪の被害に繰り返し遭い、誰にも相談できず、どこからも救いの手が伸びない学校へ日々、通わねばならない状況は想像力の範囲を超えている。

 すくなくとも10人以上の生徒はそうした事実を直接、あるいは間接的に知っていた。
 また、程度のほどはわからないが、担任もA君が少なくとも攻撃の対象になっている(学校側は、担任にいじめという認識はなかったと発表している)ことは知っていた。
 自分の貯金を下ろすA君は、父親へ真の理由を言わず、不信に思った父親は昨年、2度にわたって担任らに相談している。
 自殺の一週間前、A君は父親へ量販店で万引きさせられている事実を告白した。
 父親から報告された学校側は、生徒らへ事実を確認したという。
 父親は「息子はその報復を受けたようだ」と話している。

 父親はその後、二度、市教委がいじめがあったことを認めた後の12月に一度、大津署へ被害届を持参したが、受理されていない。
 担当者は理由を述べた。
「被害者が死亡しており、刑事事件としての立証は難しい」(7月6日付産経新聞)
 では、警察は「被害者が死亡」した殺人事件の捜査は行わないのか?
 大津署の福永正行副所長。
「父親から何か処罰できないかと、3回にわたり相談があったのは事実。
 担当者は生徒が亡くなり、遺書もなく、その時点では犯罪事実が特定できないと説明したが、『受理を拒否する意図はなかった』と言っている。
 現在も継続捜査しており、証拠が出てくれば立件に向けて動く」(7月6日付朝日新聞)
 孤独死の現場でも、あるいは自宅での自殺の現場でも、家族や親族は事件性の有無を確認するために調べられる。
 A君の生前に三度、父親はいじめの相談を行っており、市教委がいじめの存在を認めていながらなお、調査前に「犯罪事実が特定できない」として被害届を受理しなかった理由はあろうか?

 私はA君の死を無駄死ににできない。
 A君を事実上、殺し、平然と学校生活を送り、何ごともなかったような顔で社会へ出ようとしている生徒たちも、そうした生徒たちと同じく、心の底で〈一日も早い忘却〉を願っているとしか思えない警察や市教委や学校側の人々も、私たちの世代がつくった文化の空気を吸って生きているからである。
 その文化の空気とは何か?
「いのちが一番」
 戦争に負けた人々は、自分は〈生き残り〉であると思い、〈生きていればこそ〉と思い、やがて、戦勝国の占領政策によって戦前の日本は悪であるという思想教育が徹底され、道徳教育の根が崩れたところへ〈自由が一番〉と叩きこまれた。
 天皇陛下のため、国のためから解放され、自分のため、家族のために戦後の混乱期を自由に生き抜く人々は、いつしか「(自分の)いのちが一番」という信念を持つに至ったのではなかろうか?
 この自由という美名に隠されたエゴイズムの醜悪さにいち早く気づいた一人が故三島由紀夫だったが、ここではこれ以上、触れない。
 慎み深い日本人は、さすがにいつまでも(自分の)だけにはとどまれず、(皆の)と観念を拡大した。
 こうして「いのちが一番」という観念が成立したのではなかろうか?

 さて、無自覚に「いのちが一番」という空気を吸っている限り、〈いのちをかけるもの〉は見つからない。
 私たちはこのままで良いのだろうか?
 道徳は〈いのちをかけるもの〉なくして成り立つのだろうか?
 それを求める心なくして、いじめを克服できるだろうか?
 ひいては、無慈悲さがどんどん進行する日本の荒廃を転換できるだろうか?

 なぜ、こうしたことを書いているのか?
 それは、A君には、自分のいのちをかけても言いたいことが山ほどあったろう、それを言えずに死ぬ無念さはいかばかりだったろうと想像するからである。
 遺書はないとされている。
 遺書などには到底、思いを書ききれなかったに違いない。
 追いつめられたA君は、とうとう「いのちが一番」を突破した。

 A君の魂に応えるためには、「いのちが一番だから、いのちを大切にしましょう。こうした悲劇が二度と起こらないよう、いじめはやめましょう」などというお説教はほとんど役に立たない。
 なぜか?
 A君を実質的に殺した生徒たちは、「いのちが一番」だからこれまで通り、自分を可愛がるだろう。
 犯罪であるかどうかにかかわらず、おもしろおかしいことにうつつを抜かしはしても、用心深く、自分のいのちは守るだろう。
 自然を守るボランティア活動などにも殊勝な顔で参加するかも知れない。
 しかし、「いのちが一番」を突破したA君の思いは永遠にわからないだろう。

 子供の社会は大人の社会の写しである。
 子供の社会で起こるいじめの無慈悲さは、大人の社会における無慈悲さを正確に写し取っている。
 A君の死を無駄死ににせぬよう、しっかりしたい。
 ──それにしても、この無慈悲さという巨大で成長しつつある氷塊の恐ろしさは……。
 まず、自分の心にある「(自分の)いのちが一番」という煩悩と真剣に戦おうではありませんか。
 いのちをかけられるものを見つる努力をしようではありませんか。

 急いでつけ加えたい。
 いのちをかけられるものは、何も大義や大志ではない。
 かつて、ふとしたことで集中治療室へ運び込まれ、一夜を明かしたおり、夜中の凄まじい気配を初めて体験した。
 あちこちから呻き声が上がり、頻繁にナースコールをかける人もおり、看護婦を怒鳴りつけようとする輩もいた。
 私も頭と胸を打って肋骨にヒビが入り、決して楽ではなかったが、自分よりもっと酷い症状の方々のためにこそ限られた人数の看護婦さんにはたらいていただきたいと思い、よほどのことがない限りナースコールのボタンは押さないと決めた。
 おおげさに言えば、これも「(自分の)いのちが一番」という観念とは無関係な考え方であり、むしろその反対に近い。
 たとえ苦しくても、できる限り笑顔で看護してくださる方々へありがとうを言いたい。
 こうして、「(自分の)いのちが一番」という呪縛が解ければ、別な態度が生まれる。
 それは、煩悩との戦いに勝利する吉兆だろう。
 
 だから、誰でも、どこでも、この戦いに勝てると信じています。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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