コラム

 公開日: 2012-07-16  最終更新日: 2014-06-04

死刑は是か非か ─寺子屋『法楽館』における弁護士犬飼健郎氏の講演について(その1)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 7月14日の寺子屋『法楽館』では、弁護士犬飼健郎先生を講師に迎え、「最近の司法の動き」と題した講演と質疑応答を行いました。
 その概要を書きとめておきます。
 なお、()内は当山のコメントです。

1 死刑制度について

 先生は、6月25日に亡くなられた団藤重光教授の法理に共鳴しつつ学び、弁護士としての活動を続けてこられました。
 特に、平成3年に教授が書いた『死刑廃止論』には同感するところが多いそうです。
 その根幹は、「裁判は人間が行うものであり、誤りを避けられない。誤った判断によって人間か殺されることは避けねばならない」というところにあります。
 日本の裁判では、有罪とするのに合理的疑いがない時にのみ有罪判決を下すことにしてはいるものの、再審などの事例を見ても、誤って有罪にされ、死刑になりかかった人々はたくさんいます。

 また、日本では昔から刑が軽く、嵯峨天皇の御代から保元平治の乱までの約350年間は、死刑が行われませんでした。
 世界史的にも珍しい状態に幕を下ろしたのは、NHK大河ドラマ『平清盛』で活躍した信西(シンゼイ)です。
 1186年、彼は、このままでは反乱が広がるという理由で源為義などを死罪にしました。
 日本には死刑の決まりががなかったわけではなく、例えば15反以上盗めば死刑ですが、いくらたくさん盗んでも10反ということにして死刑を避けた時期があったそうです。
 他国と比べるならば、そもそも「盗めば死刑」だったイギリスでは、『ユートピア』を書いたトマス・モアが「せめて、窃盗への死刑はなくそう」と主張したほどです。
(現在の中国では、人を殺せば死刑、日本円で80万円以上を盗んだり、覚醒剤1グラム以上を譲渡しても死刑です。
 寺子屋で観賞した映画『風の馬』に、拷問で息絶え絶えとなったチベット人尼僧が親族へ引き渡される場面があり、賄賂を渡しながらひきとった叔父さんは「獄吏は殺したくなかったのだろう」とつぶやきます)
 810年から1186年まで死刑が執行されなかった背景には、空海と最澄による仏教の隆盛があったのではないでしょうか。

 刑罰を弛めると犯罪が酷くなるのではないかという意見には、基本的に賛成できません。
 悪いことをしないのは「罰せられるから」ではありません。
 日本が世界的に見て比較的安全な社会なのは、日本人に一定の教育水準・倫理観・ある程度の理解力などがそなわっているせいではないでしょうか。
 最近は犯罪が増えているという感覚を持っている方もおられましょうが、統計で確認する限り、事実はそうではありません。
 死刑などを犯罪の抑止力にしたいのらば、死刑を公開したり、残虐な刑罰を科したりすればよさそうですが、私たちはそれを望んではいません。
 また、アメリカは比較的刑が重いとされていますが、犯罪があまり起こっていないわけではありません。

 以上、人間が人間を裁く限り誤審は避けられないので、死刑制度はいかがなものかと思われます。

(先生から、キリスト教なども含め、ほとんどの宗教は殺人を第一番に戒めているので、死刑制度へは厳しい考えをもっているのではないかとのご指摘がありました。
 仏教における不殺生という戒めの対象はあくまでも〈生きとし生けるもの〉なので、行為は殺人と限定されてはいませんが、いずれにしても、生きている者のいのちを奪う行為は最も罪の重いものであることは確かです。
 そして、不殺生とは「殺すなかれと」よりもむしろ、「殺せない人間になろう」というイメージであり、所定の修行を正しく行えばそうなるという事実は、体験上、確認しています。
 だから自分は殺せない人間になったと考えています。
 そして、死刑にたずさわる方々のお気持は、とても察しきれるものではないと感じてもいます。

 では、もしも日本が他国の侵略を受け、武器を手にした外国人が国土を蹂躙し始め、男たちが闘わねばならなくなったなら、どうするか?
 たとえば隠形流(オンギョウリュウ)居合の弟子たちが剣を携えて前線へ出る時は、その前面に出たいと願っています。
 師より先に弟子たちを殺すわけには行きません。
 もちろん、白兵戦で敵兵を切れない可能性は高いでしょう。
 腕前や体力の問題ではなく心の問題として。
 峰打ちにするか、それとも、剣をふるわず、相手を害さずに弟子たちの盾となるか、それはその時にならねばわかりませんが、いずれにしても〈殺せない者〉として国民の義務を果たす行動に出ることでしょう。

 皆が〈殺せない人〉になったなら、当然、死刑の執行は不可能です。
 そして、その前に、殺人事件はなくなります。
 最も凶悪な犯罪である殺人が行われなくなった時、他の犯罪や刑罰も様相が一変するのではないでしょうか。
 だから、一宗教者としては、まず、自分が〈殺せない人〉になって生き抜こうとし、そして、同じように一人でも多くの方が〈殺せない人〉になられるよう願っています)



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ