コラム

 公開日: 2012-07-26  最終更新日: 2014-06-04

【現代の偉人伝】第152話 ─「地獄の中の菩薩」と証言した福島第一原発前所長吉田昌郎氏─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 8月11日、福島テルサにおいて出版社『文屋』主催のシンポジウムが開かれる予定であり、そこで福島第一原発前所長吉田昌郎氏(57才)のビデオ証言が流されるという。
 7月25日付の河北新報は、食道ガンのために会場へ行けない氏の約30分間にわたるビデオを採りあげた。
 所長が世間へ向けて始めた発した現場の報告となる言葉を転載しておきたい。

「原子炉の冷却作業をする人間は撤退できない」
「基本的に私が考えていたのは発電所をどうやって安定化させるかということ。
 現場で原子炉を冷却する作業をする人間はもう撤退できないと思っていた。
 本店にも撤退ということは一言も言ってない」

 自身と津波で原発が崩壊の危機に瀕している非常事態の中、所長も約50人の部下たちも覚悟を決めていた。
 政府がどう、東電の上層部がどう、という問題ではない。
 原発が何であるかを肌で知っている現場の人々は逃げられなかった。
 自分たち以外、悪魔に立ち向かえる人間は地球上のどこにもいはしないのだ。

 7月20日、米国コロラド州オーロラの映画館で起きた発砲事件に際し、大学院生アレックス・ティーブズ氏(24才)は恋人を自分の身体の下へ入れて守り、亡くなった。
 父親トム氏は言う。
「もし、彼女を助けられなければ、彼は生きてはいられなかっただろう」
 海軍出身の消防士ジョナサン・ブランク氏(26才)も、マット・マックイン氏(27才)もそうしたという。
 逃げるのか、身を挺して守るのか。
 文字どおり死の淵に立つ選択が迫られた時、きっと悩んでいる時間はないにちがいない。
 それまで生きてきた人生のすべてが、選択の余地のないものとして足の方向を決めるのだろう。

「(指揮を執っていた)免震重要棟の人間は死んだっておかしくない状態だった」
「これからもう破滅的に何かが起こっていくんじゃないか」

 3月14日に発生した3号機の水素爆発では瓦礫も飛び、地獄のようだったという。
 それでもなおかつ、踏みとどまり、氏はギリギリの判断と決断を重ね、部下たちは持ち場へ向かった。

「現場に飛び込んで行ってくれた」
「私が昔から読んでいる法華経の中に登場する、地面から湧いて出る菩薩のイメージを、すさまじい地獄みたいな状態の中で感じた」

 氏の心境は、太平洋戦争末期、部下たちを死地へ送り出す特攻隊の隊長に似たものだったのではなかろうか。
 ──部下たちが死ねば、殺した自分は生きてはいられない。
 事実、神風特攻隊に第一号出撃命令を発した大西瀧治郎中将は、敗戦の翌日、一切の手出しを断り、割腹自殺を遂げている。
 氏へご自身の覚悟についてお訊ねすることはできない。
 氏は、部下の後ろ姿へ合掌していたという。
 そうしたシーンを想像してみる。
 救い手のない荒涼たる現場で男たちはきっと、作業に必要な言葉しかない張りつめた空気の中、送り、送られ、帰り、また、指示し、でかけたにちがいない。
 背中へ向ける無言の祈りと、背中に感じる祈りが、地獄での確かな行動を支えたにちがいない。

 柔らかな身体を具えた人間は、何万人が把になろうと太刀打ちできない鋼鉄に包まれた機械をつくり、操るつもりが翻弄される羽目におちいった。
 逃げればもう、破滅しか待ってはいない。
 しかし、脆い身体を持った人間には、それを投げ捨てても行動するという〈自分の限界を踏み越えて行く〉意志力がある。
 ギリギリの場面ではたらく意志力は、はっきりと人間の真姿すなわち菩薩を顕す。
 アメリカの発砲事件で盾になった人々も、吉田所長や部下たちも、菩薩と言うしかない。

 河北新報は伝える。
「吉田氏は、政府事故調の長時間の事情聴取に応じた。
 だが、思いが伝わっていないという」

 7月末で水俣病特別措置法に基づく救済の申請が打ち切られるのを前に、作家石牟礼道子氏は言った。
「私たち被害者が国へ求めた最低限度の希望は、わかり合うことでした。
 しかし、ついにわかり合えなかったことが切ない」
「知人が言いました。
『国もチッソも差別した人々も私は許します。
 許さないと苦しくてならないからです。
 皆の代わりに私たちは病んでいます。
 でも、まだ生きたい』
 私たちが日本人の代わりに病み、苦しんでいるのです」

 吉田所長の真実を伝えるメッセージがより広く私たち国民へ届き、国民が国の方向を誤らない選択ができるよう願ってやまない。




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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