コラム

 公開日: 2012-08-20  最終更新日: 2014-06-04

『津波のあとの時間割』を観て ─石巻・門脇小学校の生徒たち─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈パンフレットより〉

 映画『津波のあとの時間割』を観ようと、石巻中央公民館大ホールへでかけました。
 9月になれば仙台市内の映画館でも上映されますが、被災した現地へでかけねばと考えたからです。
 夜とはいえ会場は当然、暑く、蚊もいて、パイプイスに腰掛けたままじっとしている2時間は決して短いものではありませんが、子供たちの屈託ない様子に気持を惹きつけられ続けました。

 6月に開始された撮影時間は200時間以上にも及び、その中から「立ち直りの記録(阿部和夫氏談)」として作られた作品は、四季の移り変わりと共に成長する子供たちの姿に未来を見せてくれました。
 上映終了後、挨拶に立ち、スタッフと共に出口で観客を見送った青池憲司監督はこんな風に言われました。
「被写体となる被災者の方々へ、ある種の引け目を感じつつの仕事でした。
 私も撮影スタッフも、現地の方々のように被災を体験してはいないからです。
 だから、目的を持った作品として、撮らせてくださった方々に受け容れてもらえるだけの表現ができているかどうかを厳しく問いながらの製作でした」

 この作品をご覧になられた方々は、おそらく、子供の持つ勁(ツヨ)さ、それを引き出す学校の存在意義を感じられたことでしょう。
 暑い夏も、雪の降る冬も、子供たちは三々五々、学校へと足を運びます。
 そこでは挨拶がきちんと行われ、共同生活の稽古が営まれています。
 3年生は『よみがえれ石巻』というテーマで「自分たちが住んでいた町をどんなふうに創りかえるか?新たな災害に備えるにはどうすればいいか?(パンフレットより)」を真剣に討議し続けました。
 グループに分かれて三学期まで議論し、ついには地図や模型まで作っての発表会へこぎつけた成り行きは映画の柱です。
 子供たちが自由な発想力で夢を膨らませ、それぞれが役割を果たしながら具体的な形を創造して行く現場を観ただけでも、被災した方々にとっては大きな救いとなることでしょう。

 給食の前に合掌し「いただきます」を揃って口にする短いシーンにはとりわけ、救われた思いです。
 食事ができる境遇、親や学校や社会に感謝し、食べものとなっていのちを差し出す生きものたちへ感謝し、手を合わせることによって思いを明確に意識すると共に、自分を超えた大いなる何ものかと通じる感覚をもたらす大切な慣習が残っていた感激……。
「日本はまだ、大丈夫」と教えられたような気にすらなりました。
 自由という観念を絶対化して、自分の考えや感覚に合わないものや気に入らないものを「押しつけ反対」という強硬な態度で簡単に拒絶する大人の頑なさが、「いただきます」の麗しい風習をダメにし始めてからどれだけ経ったことでしょうか。
 互いに我(ガ)を張るだけでは社会は成り立たず、他人のために我をコントロールできてこそ一人前の社会人になれることを体験する共同での作法。
 伝統的な作法や慣習や行事に含まれている大事な道理を考える。
 稲やサンマや牛などのいのちを毎日、分け与えてもらいつつ自分が生きている真実への驚き。
 食卓に食べ物が並ぶまでの数限りない人々の努力。
 飢饉や戦争などで飲めず、食べられず死んで行く人々を想像し悼む思い。
 今日も、飲め、食べられ、生きられることへの感謝。
 子供を生かし守り育てる親や先生や地域の人々への感謝。
 小さな「いただきます」には、こうしたたくさんの〈学び〉が含まれています。
 今後も、ぜひ、続けて行って欲しいものです。

 もう一つ印象的なシーンを挙げるとすれば、祖父母の授業参観と授業への参加でしょうか。
 祖父母の口から歴史や伝統や地域の特徴などについて語られ、それが子供たちに共有されるのは、核家族の弊害をやわらげ、子供たちへ自分のアイデンティティーを意識させる大切な機会ではないでしょうか。
 お年寄りにとってもまた、先に死に逝く者としての安心をつくる大切な機会でありましょう。
 肝腎な思いが実際に伝わり、残るかどうかよりも、自分が伝えたという事実そのものが大きな満足と安らぎをもたらすのです。
 ただし、気をつけねばならないのは、祖父母とふれ合いを持てない子供たち、あるいは孫とふれ合いを持てないお年寄りたちの気持をいかに忖度し、何を話し、何を行うかという点です。
 ポイントの一つは、お年寄りたちの歩んで来た人生の歴史は社会の歴史であると考え、この子供たちのように他人の話でも聞き耳を立てることです。
 また、孫のいないお年寄りでも、子供たちは社会の宝であると考え、我が孫のように慈しむことです。
 こうして老いも若きも、〈自分と自分に関係することごと〉のみに執着する狭い心を離れれば、心暖まり実り豊かな交流が成り立つことでしょう。
 そうでなければ、孫を失い祖父母を失った方々がたくさんおられる地域での祖父母参観には難しい問題がまとわりつきかねません。

 さて、津波による被害を受けず徒歩で通う子供たちと、避難所などから親に送られて通う子供たちとの間で、何が語られ、いかなる心模様があったのか。
 親たちの間ではどうだったのか。
 フラッシュバックなどで苦しむ子供たちや親たちはいかにして日々を戦ってきたのか。
 種々の人生相談を受けている身としては、このあたりの真実を関係者の方々からお聴きかせいただく機会があればありがたいと思います。
 もちろん、こうした面は、この映画を製作する目的から外れているし、プライバシーの問題もあるので、映画に描かれていなかったから不満に感じたというわけではありません。

 そうそう、もう一つ、印象的なシーンを挙げておかねばなりません。
 震災の翌年春、校長先生が子供たちへ「私はお友達を見つけました」と言います。
 そして示されたのは、津波でやられ死んでしまったと思われるイチョウの枯れ木が小さな枝と葉を伸ばしている写真でした。
 廃墟となった学校を背景に、その黄緑色の鮮やかなこと。
 不屈の石巻、不屈の子供たちを象徴して余りある場面でした。

 この映画がより多くの方々に観られ、子供たちも石巻も東北も日本も立ち直り、前進する大きな力となるよう祈ってやみません。




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

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