コラム

 公開日: 2012-09-09  最終更新日: 2014-06-04

プロとしての高倉健 ─NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」から(その1)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈高倉健の御守となっている被災地の少年が歩く写真〉

 9月8日、法務を終えてなにげなくテレビのスイッチを入れたら高倉健が写っており、食事も忘れて見入りました。
 『プロフェッショナル 仕事の流儀』が『高倉健スペシャル』をやっていたのです。
 彼が撮影経過の密着取材に応じたのはいかなる理由があったのか、想像すらできません。
 彼は番組の途中で言います。
 「(私の映画を)見終わった後(の観客)は人が変わっているんです」
 そのとおりです。
 若き日の私も、他の観客と同じように、薄暗い映画館からあるいは白日の下へ、あるいはざわざわしい夜の街へと戻った時、目つきも気持も身体の動きも、どこか〈高倉健〉になっていたものです。

 観客は決して高倉健が演ずる主役を観ようとしてチケットを買うのではありません。
 主役を演ずる高倉健を観るためにチケットを買うのです。
 作品のいかなる文学的、映像的成功も、銀幕に登場している高倉健という人物の存在価値には敵(カナ)いません。

 だから、番組のナレーターは告げました。
「高倉健は、俳優の色に合わせて作品が創られる希有な存在です」
 今の彼は、心から納得できる作品でないかぎり、動きません。

 以下、番組を思い出してみます。

○現場ではほとんど坐らない
 81才の彼は、撮影の現場でほとんど座らず、柔軟体操をしているらしい映像もありました。

「坐るとだんだんファイトがなくなるような気がして……」

 子供も若者も、いつ頃から路上へ座り込むようになったのでしょうか。
 私のような年配者の目には、何となくだらけている光景に映ります。
 だから、彼が、坐って自分に楽をさせるとやる気も損なわれるだろう心配する感覚はよく理解できます。

○作品の背景となる地域を肌で感ずる
 空気や風や、あるいは人情などをつかもうと、彼は、地元の墓地を巡ったりします。

○高倉健の真骨頂は最小限の演技で心を表現すること
 彼は役柄の人物になり切れば「必ず滲み出るもの」があると考え、「何よりも大切なのは本当の気持を表現すること」を心がけてきました。
 脚本や監督が求める〈こういう気持〉を表現する、というのではなく、〈自分の心に出てきた気持〉そのままに動くのです。

○本番を演じるのは基本的に一度だけ
 彼は「最高の気持には何度もなれるものではない」とし、撮影のたびに「一度きりを生きる」という真剣勝負を重ねてきました。
 亡くなった妻が写っている若い頃の写真を偶然目にするシーンを撮りました。
 古い写真屋のウィンドウにそれを見つけた彼は、いつものように歯を食いしばった横顔のまま、かすれた「ありがとう」の一言でゲンコツを小さくガラスにぶつけます。
 現場に後ろ姿を見せて去る彼へNHKのスタッフは声をかけました。
「かなり気持が高ぶられていたように感じたんですが……」
 彼は笑いを交えた声で応えます。

「参った」

 これは、引導を渡した直後と同じです。
 出し切っているのです。

「自分の中で感じられないことってできないよね。
 心の中の話だからね」
「たぶん最高のものは一回しかできないって黒沢監督もおっしゃってたからね。
 二度やれったってできないね」

○生き方が芝居に出る
 彼は、撮影の合間の多くを地元の人やスタッフに声をかけて過ごします。
 人の人生を演じる俳優として肝に銘じているのは「生き方が芝居に出る」という一点です。

「芝居に一番出るのは、その人の普段の生き方ではないですかね」

 その結果、作品の傾向として、〈自分の持分をまっとうする男〉を演じるようになってきました。

「やってる役は皆、好きになる」

 彼は、自分がこう生きたいと願う理想を役柄によって実現し、演じた結果が自分の人間性を理想へ近づけて行くという夢のような仕事をしてきたのではないでしょうか。

○同じ理髪店へ40年間通っている
 彼は、撮影のない日は必ず都内の理髪店に通い、彼専用の個室で憩います。
 仕事がある時期もない時期も変わりません。
 かれがプライベートをさらけ出せる場所は決して多くないのです。

○俳優にとって身体は唯一の資本
 彼は酒を飲まず、タバコも30年以上前に止めました。
 毎朝ナッツ入りのシリアルにヨーグルトをかけて食べ、ウオーキングを欠かしません。
 朝食後は、夜までほとんど食べ物を口にせず、何十年もの間、ウェイトは70キロを絶対に越しません。
 能を活性化させるよう、マウスピースを噛みます。

○心をいつも感じやすい状態にしておく
 彼は台本の最後に一枚の写真を入れておきます。
 テレビでは映しませんでしたが、東日本大震災の津波で被災した地域の子供であることは確かです。
 小学生ほどの男児がキリッとした表情で水を入れたペットボトルを家族のもとへ運ぶ写真は、私も常時、携帯しています。
 また、会津八一の短歌を書き取っています。
「あめつち に われ ひとり ゐて たつ ごとき この さびしさ を きみ は ほほゑむ」
 繰り返し読んでいるのは山本周五郎作品から名セリフを集めた『男としての人生』です。
 彼は、実在の人物であれ架空の人物であれ、〈人の生き方〉から力をもらいつつ、やってきました。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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