コラム

 公開日: 2012-09-13  最終更新日: 2014-06-04

親の思いを知る手がかり ─有島武郎作『小さき者へ』を読む(その3)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈店舗の屋上にあるアンテナと高い立木の中間およそ地上10メートルはあろう天空にかかったクモの糸〉

 我が子が成長する喜びの裏には、自分の人生の一部を切り渡す難儀が貼りついている。
 仕事や体調の不調は、大変さを浮き立たせ、子供への嫌悪や忌避だけでなく結婚そのものへの後悔などへも容易につながる。
 特に子供が小さいうちは、自分で生きられない子供の事情がいつも最優先であり、親たちは振り回されるという感じを持つ。
 それは、若い男と女にはとうてい予測できなかった状況である。
 ここでは、そうした作家の心中が、嘘隠しなく明らかにされている。

「私はその頃心の中に色々な問題をあり余る程ほど持っていた。
 そして始終(シジュウ)齷齪(アクセク)しながら何一つ自分を『満足』に近づけるような仕事をしていなかった。
 何事も独りで噛みしめてみる私の性質として、表面(ウワベ)には十人並みな生活を生活していながら、私の心はややともすると突き上げて来る不安にいらいらさせられた。
 ある時は結婚を悔いた。
 ある時はお前たちの誕生を悪(ニク)んだ。
 何故(ナゼ)自分の生活の旗色をもっと鮮明にしない中(ウチ)に結婚なぞをしたか。
 妻のある為めに後ろに引きずって行かれねばならぬ重みの幾つかを、何故(ナゼ)好んで腰につけたのか。
 何故(ナゼ)二人の肉慾の結果を天からの賜物(タマモノ)のように思わねばならぬのか。
 家庭の建立に費す労力と精力とを自分は他に用うべきではなかったのか。

 私は自分の心の乱れからお前たちの母上を屡々(シバシバ)泣かせたり淋しがらせたりした。
 またお前たちを没義道(モギドウ)に取りあつかった。
 お前達が少し執念(シュウネ)く泣いたりいがんだりする声を聞くと、私は何か残虐な事をしないではいられなかった。
 原稿紙にでも向っていた時に、お前たちの母上が、小さな家事上の相談を持って来たり、お前たちが泣き騒いだりしたりすると、私は思わず机をたたいて立上(タチアガ)ったりした。
 そして後ではたまらない淋しさに襲われるのを知りぬいていながら、激しい言葉を遣つかったり、厳しい折檻(セッカン)をお前たちに加えたりした。」

 児童相談所における虐待関係の相談対応回数は激増している。
 平成2年…… 1101件
 平成12年…11725件
 平成22年…55154件
 この統計数の変遷にはもちろん、親が問題を自分だけで抱え込まないという考えになってきた影響もあるだろうが、児童虐待による摘発件数がここ10年で約2倍になった事実を見ても、私たちの社会が持っている病巣を考えさせられる。
 親に生じる心理的葛藤は、『小さき者へ』が書かれた大正7年当時も、平成2年も、平成22年も、今も、きっと変わりはしない。
 しかし、葛藤によって虐待という行為へ走ってしまう傾向が強まっていることは否めない。
 私たちは、有島武郎の深い深い悔恨を前にしてたじろがずにいられるだろうか?

「然(シカ)し運命が私の我儘(ワガママ)と無理解とを罰する時が来た。
 どうしてもお前達を子守に任せておけないで、毎晩お前たち三人を自分の枕許や、左右に臥せらして、夜通し一人を寝かしつけたり、一人に牛乳を温めてあてがったり、一人に小用をさせたりして、碌々(ロクロク)熟睡する暇もなく愛の限りを尽したお前たちの母上が、四十一度という恐ろしい熱を出してどっと床についた時の驚きもさる事ではあるが、診察に来てくれた二人の医師が口を揃そろえて、結核の徴候があるといった時には、私は唯(タダ)訳もなく青くなってしまった。
 検痰(ケンタン)の結果は医師たちの鑑定を裏書きしてしまった。
 そして四つと三つと二つとになるお前たちを残して、十月末の淋しい秋の日に、母上は入院せねばならぬ体となってしまった。」



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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