コラム

 公開日: 2012-09-22  最終更新日: 2014-06-04

親の遺産を当てにするのはいかがなものでしょうか ─結城昌治作『遺産』に学ぶ─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 昭和2年に生まれ、平成8年に亡くなった小説家結城昌治氏は『遺産』という短篇を遺しました。

 家政婦と二人で暮らしていた国文学者の父親が脳出血で倒れ、昏睡状態になった枕元へ三人の子供たちが集まり、三日目となりました。
 サラリーマンの長男は言います。

「大体、おやじなんぞは生きていたって、別に世の中の役に立つわけじゃないし、シミだらけのカビくさい本をめくって自分だけ楽しんでいた。
 全く、ろくなおやじじゃなかったぜ。
 おやじらしいことは何ひとつしなかったからな」

 小さな芸能プロダクションのマネージャーをやっている次男も言います。

「子どものために財産を残してやろうなんて考えたこともない勝手なおやじだ。
 値上がりすると分かっていた郷里の土地まで売り飛ばして、その金で何を買ったかと言えば古くさい本や手紙ばかりだった。
 せめてこの辺りで死んでくれたら有難いが、これ以上長生きされるのはかなわない」

 薬剤師に嫁いだ長女も言います。

「兄さんたちは、大学へ行かせてもらえただけでも、あたしなんかよりいいわ。
 あたしは母が死んでから、まるで家政婦と同じだった。
 結婚が遅れたのは父のせいよ。
 遺産は、あたしがすくなくとも半分もらいたいわ」

 そこでケンカが始まります。

1 長男の誤り
・世の中の役に立っていると思えない人のいのちを軽んじること
・仕事にうちこんでいた人間の人生を否定すること
・育て、大学まで行かせてもらった恩を忘れていること

2 次男の誤り
・遺産を欲しがり、職業人として生涯をまっとうしようとしている人の人生を勝手な生き方と決めつけていること
・財物以上の価値がある精神世界を理解しないこと
・子どもに見守られるしかなくなった親が生きているのを迷惑と考えていること

3 長女の誤り
・娘に身の回りの世話をさせていた父親の思いが忖度できないこと
・婚期の遅れを父親のせいにしていること
・父親が亡くならないうちに遺産を欲しがっていること

 やがて、借家住まいで貯金もなく、保険嫌いだった父親の唯一の遺産が蔵書であり、3000万円程度の価値はあることに気づきます。
 3000万円を三等分することで合意し、5日目を迎えて「シビレを切らした」三人は、家政婦へ死んだら知らせてくれと頼み、病床を離れます。
 その日の夕方、死を知らされた三人は駆けつけます。
 長男は呟きます。
「まあ仕様がないや。
 どうせ最初に倒れたときから死んでいたようなものだった。」
 次男と長女は、「父が死んでかえってほっとした表情」になります。
 最期の様子訊かれた家政婦は報告します。

「みなさんがお帰りになると、すぐに意識が戻って、割合しっかりしたご様子でした。
 そして、紙屑屋さんが小型トラックで通りかかりましたら、その紙屑屋さんに書庫の本や手紙などを新聞紙などといっしょに払いさげて、チリ紙と交換なさいました。
 急に容態(ヨウダイ)が悪くなって、亡くなられたのはそれから四、五時間後です。
 このチリ紙を三人で分けるようにというのが旦那さまの遺言でした。」

 父親の枕元にチリ紙が積んであり、家政婦は、どこの紙屑屋かわからないと言いました。

 三人へ天罰を与えたのは父親か、それとも家政婦か、今となってはわかりません。
 もしかすると、財産を処分したのは父親の最後の教育だったのかも知れません。
 死を待つ親の財産を当てにしている方々は、仏神が観ておられることをゆめゆめ、お忘れにならぬよう。合掌


 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ