コラム

 公開日: 2012-09-28  最終更新日: 2014-06-04

子や孫のためにふり返っておきたい先人の導き(その25) ─「食べる」は「生きる」だけではない─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




25 「の」 飲み食いにも修養あり

 病気は多く口から入る。
 偉くなろうとする者は食べ過ぎをしない。
 飲み食いに負けることを恥と思え。

1 喰う自分

 ものを食べている自分の姿は気になります。

 東京の予備校へ入り初めて独り暮らしをしたおりは、食事どきに侘びしさを知りました。
 自分の姿を別な自分が眺めており、言いようのない哀れさを感じたものです。
 誰も見ていない空間でものを口にする時に必ず新聞か本を読む癖がついたのは、これがきっかけでした。

 他人の目がある場所では、無意識のうちに周囲から自分を眺め、心のどこかに緊張した部分があって途切れません。
 もちろん、酔っぱらってしまえば怪しいものですが……。
 後に、動物が最も危険に瀕するのは性交の時、排便の時、そして食事の時であると教えられ、とても納得できました。
 家の中にいるネコは餌が与えられるとすぐに飛びついて夢中になりますが、野良猫はそうはゆきません。
 時折、ハッとしたように首をもたげて後を確認したり、上目遣いに周囲へ鋭い目を光らせたりする様子を見ると無性に哀れをもよおし、「大丈夫だよ」と安心させてやりたくなります。

 そして、食べている自分に対して、どことなく、浅ましさを感じてもいます。
 だから、どんなにおいしそうな食べものが出されても、決して食らいつけません。
 性交や排便と同じく、ネコやイヌと同じ生きものとしての〈ナマの姿〉になっているからでしょうか。

2 教育にならない給食の時間

 教師一筋の人生を送ってこられたAさんのお話に仰天したことがあります。
 ある学校で給食に立ち会ったところ、食事が全員へ行き渡ると教師が「喰えっ!」と号令をかけ、そのまま昼食に〈突入〉しました。
 しかも、教師はガツガツする典型的な〈犬食い〉で、Aさんは口もきけなかったそうです。
 やがて、この学級はうるさくて手に負えなくなり、助け船を求められたAさんがしばらくかけて平静な授業時間を取り戻しました。

 お腹をすかせたところへ食事が用意され、「さあ、喰え」と言われて飛びつき、無我夢中で飲み食いするならば、イヌやネコと何ら変わりありません。
 そうした光景を想像すると、おぞましさに戦慄が起こってしまいます。
 食事をするとは、生きものたちのいのちをいただくことであり、感謝を忘れず、勝手な好き嫌いをして無駄にせず、きちんと食べるという重要な教育は消し飛んでいます。
 犬食いをする教師は、礼儀作法について児童へしつけができません。
 学級崩壊同様の状態になったのも当然です。

 Bさんは異様な光景を見たそうです。
 小学校で給食が始まる時、皆が合掌をしたまではよかったのですが、リーダーが「いただきます」と発したところ、全員が合掌を解いて両手をダラリと下げ、「「いただきます」と声を揃えたのです。
 きっと、合掌をして「いただきます」を言えば特定の宗教行為であるという批判を受けるのでしょうが、残念な状況です。
 合掌と一体になった「いただきます」は、もはや日本の美風ともなっている伝統的な作法であり、もしも外国へ行った日本人がこの子供たちと同じ行動をとった後、見ていた人から説明を求められたならば、どう答えるのでしょうか。
「教育の現場では、憲法違反にならないよう細心の注意をはらっているので、日本では、宗教の香りがする古い伝統的な作法や慣習はなくなりつつあります」
 こう言って納得され、尊敬されるでしょうか。

 私は拙い宗教者ですが、信じている仏教以外の宗教行為に加わって信念が揺らぐなどという危惧はまったく持っていません。
 神社へ行けば所定の作法でお詣りし、教会へ行けば共に讃美歌を歌い、イスラム教の方が公園で礼拝をしている姿に接しては同じ敬虔な気持になります。
 そうしたことごとは、私の宗教心を高めこそすれ、信念に爪痕一つ着きはしません。
 学校で伝統的な作法を児童の身につけさせるのは、心を美しく、強くすることであり、そうした中で真の宗教心も育つのではないでしょうか。
 
 また、何でも「押しつけだ!」とヒステリックに排除する姿勢には、心を汚し、弱くする危険性があります。
 なぜなら、社会生活とは、暴れる自我を上手にコントロールしつつ霊性を磨いて行く人生修行だからです。
 気に入らないものを排斥し、何らのガマンもない中でしか生きられないとしたならその人はいつまでも幼子のままであって、周囲の人々から〈困り者〉とされながら生きて行くようになることでしょう。
 だから、『童子教』は「郷(ゴウ)に入らば郷に従え」と教えています。

3 食事のコントロールは心のコントロール

 この教えの眼目は「飲み食いに負ける」にあります。
 食べたいものを食べたいだけ食べ、食べたくないものは食べない。
 これが「負けている」状態です。
 それは、「自分に負けている」ことを意味します。

 なすべきことがなせる身体を作り、健康を維持するには何をどれだけ食べればよいかを考え、実行することなく、好き嫌いだけで食事をしているとしたら、その人は怠惰な〈気まま者〉と言わざるを得ません。
 気ままな人は強情でも、真に強い人ではありません。
 社会人としてまっとうに生きられる真に強い人は、自我をコントロールできる「自分に負けない人」です。
 なぜなら、譲り合いこそが、互いが認め合い尊重し合う理想社会におけるふるまい方であり、それは自我をコントロールできる人にしか実行できないからです。
 気ままな飲み食いの先には理想的人格も理想社会もありません。

4 結論

 〈人間にとっての食事〉を考え、〈教育としての食事〉を考え、〈修行としての食事〉を考え、子供たちを導きたいものです。
 ちなみに、食事のおりに唱える文言の一例です。

「一粒(イチリュウ)も天地の恵み、己(オノ)が身を他に与えて自他を養う定めの食物と天地に感謝し、おいしくいただき身と心とを養わん。いただきます」

 たった一粒の米であっても、それができるためには、水、肥料、光、温度などさまざまな要因がすべて満たされなければなりません。
 虫に食べられないことや台風などに倒されないことも間接的な要因であり、さらに私たちの口に入るためには、農家の方の無事な刈り入れを初め、どれだけの要因があるのか数え切れないほどです。
 やっと実り、無事食卓までたどりついた一粒の米たちが、自分たちのいのちを捨てて私たちのいのちを養ってくれています。
 食べ物となるいのちと、天地として表れている仏神へ感謝せずにいられましょうか。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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