コラム

 公開日: 2012-10-08  最終更新日: 2014-06-04

【現代の偉人伝】第157話 日本人心のふるさとを示した米国プロゴルファー・ブラント・スネテガー氏

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 アメリカの人に惻隠(ソクイン)の情を学ぶことになった。

1 惻隠の情という言葉

 私たちの社会はかつて、「惻隠の情」という言葉を共有していた。
 寺子屋では必ず教えていたらしく、現代人の私も、漢文の授業で「惻隠の心は仁(ジン)の端(タン)なり」を学んだ時は、偉人が達した叡智の世界に触れたと感じたものだ。

 惻隠の「惻」には、相手の悲しみや痛みや苦しみを、自分自身の身に沁みるように、我がこととして感ずるという意味がある。
 一方の「隠」には、隠れているもの、すなわち、それとは言葉に出さないが確かに抱え持っているものを意味する。
 だから、惻隠とは、相手が持つ隠れた思いを深く感じとることである。

2 ブラント・スネテガー氏のこと

 さて、10月7日付の朝日新聞は、「人は、悲しみが多いほど」と題し、ブラント・スネテガー氏(31才)の言葉を紹介した。
 1月30日に行われた男子ゴルフ米国ツアーの最終日、同スコアとなった二人のプレーオフの結果、第2ホールでパーパットを外したカイル・スタンリー氏が破れ、パーをセーブしたブラント・スネテガー氏が優勝し、会見を行ったおりに飛び出した。

「たとえ戦う相手がこの地球上の最大の敵であっても、あんなふうに苦しむ姿は見たくない」

 在米ゴルフジャーナリストの船越園子氏は翌月、彼に尋ねた。
「敗者を気遣うのは、その悔しさをあなた自身が味わったから?」
 質問が言い終わらないうちに彼は何度も頷いたそうである。
 マスターズというプロゴルファーにとっては夢の舞台で優勝まであと一歩と迫りながら3位となり、「日暮れのオーガスタで泣き続けた」時の思いを忘れられなかったのだ。
 当時27才だった彼の心に大きな思いやりが生まれた。

「あのときのどうしようもない苦しさを僕は誰にも味わってほしくない」

 悔しさをバネにして強くなるのは、競技者に限らずどの世界にでもあるパターンだが、彼は一味も二味も違っていた。
 敗者の苦しみが強く魂へ響き、深い思いやりがあふれるようになった。

「ひとごととは思えない」

 9月24日、彼はフェデックスカップ最終戦に勝って総合優勝し、1000万ドルものボーナスを得た。

「この時、愛妻は第2子出産を控えて自宅待機。
 会場にやってきた父親は昨年受けた肝移植からの回復途上。
 コーチの息子は2週間前に交通事故に遭い、瀕死の重傷。
 そんな状況下で『驚くほど冷静だった』のは、ビッグタイトルやビッグマネーを意識する暇もないほど周囲に優しさを与え続けていたからだ。
『いろんなことが起こっているけど、すべてはお金より大切なものばかり』
 これまた名言。
 チャンピオンとチャンピオンの優しさがゴルフ史に刻み込まれた。」

 闘いの場に身を置きつつも惻隠の情を忘れない。
 これは武士の心ではないか。
 彼は現代の武士ではないのか。

3 共存が失われたこと

 ふり返ってみれば、日本でパチンコ屋が軒を並べるようになったのはいつ頃からだったろうか。
 それまでは、商売を問わず、同業者の近くには出店しないというふるまい方があった。
 今まで一生懸命はたらいている人々へ迷惑をかけないのは当然だった。
 ところが、パチンコ屋は、流行っている店の近くに出店すれば簡単に集客できると考え、二種類のご近所出店が現れた。
 一つは小規模店によるコバンザメ商法であり、おこぼれにあずかろうとするものである。
 もう一つは大規模店による乗っ取り商法であり、相手の客を奪い尽くそうとするものである。
 すぐにコバンザメ商法は消え、最初から食うか食われるかの弱肉強食そのものとなった。
 文字どおり、白昼堂々のつぶし合いである。
 かつてパチンコ屋の友人がいたので、実情はよくわかる。
 ここから、日本の社会にあった「共存の思想と智慧」は忘れ去られた。
 血で血を洗うコンビニの出店競争などを見れば一目瞭然である。
 惻隠の情を伴う共存の思想は失われた。

4 善悪とふるまい

 法が裁いて決める善悪は、法が変わればすぐ変わる。
 日本中が小泉構造改革に熱狂した結果、弱肉強食が正義の理とされ、法によって正義とされた方法(悪ではないと社会から保証されたやり方)で、人は勝ち組と負け組にはっきりと分けられた。
 人を道具として扱い、商品として扱っても、何ら問題はなくなった。
 人は〈扱う人〉と〈扱われる人〉に二分されて急速に固定し、世代をも超えて固定しつつある。
 日本の社会は大きく変質し、善悪が変わっただけでなく、ふるまい方が変わった。

 ふるまい方の最も大きな変化、歴史と共に磨いてきた宝ものの喪失、その一つが惻隠の情を忘れたことではないか。
 決して武士階級だけではなく、長屋暮らしの庶民の心をも彩り、太平洋戦争の敗戦にも消し去られず保っていたこの宝ものを捨てた私たちに、代わりとなるどんな宝ものがあるのだろう。
 私たちはこの宝ものを捨て、いったい、何を得ようとしているのだろうか?

5 心のふるさと

 大震災後〈長屋の人情話〉がよみがえったと見えたのもつかの間、復旧・復興のかけ声と共に、再び〈勝ち組への幻想〉をふりまく弱肉強食の思想が表立って動き始めている。
 日本が危ういと同時に、私たちの心も危ういのではないか。
 人が人との接し方やふるまい方を忘れ、戸惑い、子供の世界にまで無情・非情が忍び込み、ささくれだった私たちの心はどうなるのか。 
 惻隠の情は、まだ、どうにか残像として残っている。
 今ならまだ、間に合う。
 私たちの心のふるさとを思い出そう。
 今ならまだ、思い出せるし、幼い者たちへふるさとの景色があることを気づかせることもできる。

 ブラント・スネテガー氏は、最も弱肉強食の進んだアメリカにありながら、「ひとごととは思えない」と惻隠の情にかられつつ、修羅場で生きている。
 私たちは誰もが、生きている限り修羅場から逃れられない。
 修羅場にいることは決して「ひとごととは思えない」心を捨てる理由にはならない。
 むしろ、修羅場に生きるからこそ、惻隠の情は揺るがぬ静かな光を発する。
 
 ブラント・スネテガー氏に学び、惻隠の情という心のふるさとを復興させよう。
 そして、誰もが心に安らぎを持てる確かな共存社会へと向かおう。
 グローバル経済や国際競争など、さまざまな視点はあるだろう。
 しかし、私たちの心と生活がどうありたいかは私たち以外の誰も決められず、どう生きるか、どういう社会にするか、その責任は私たち一人一人にしかない。
 流行の言葉や威勢の良いかけ声に惑わされて思考停止せず、確かなものに学びたい。
 それが私たち一人一人が心の荒廃から救われ、真の〈日本の復興〉をもたらし、日本が国際社会において役割を果たす日本ならではの道ではないか。





 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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