コラム

 公開日: 2012-11-12  最終更新日: 2014-06-04

火によって ─「アラブの春」に火をつけた青年の焼身自殺─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 ターハル・ベン=ジェッルーン著『火によって』を読んだ。
 モロッコ出身のフランス語作家は、平成22年末から始まり翌年大統領が亡命する「チュニジア革命」の発端となった一青年の焼身自殺を小説風に綴った。
 チュニジアから発した専制政治打倒の炎は中東全体へ広がりつつある。

 ムハンマドは病気で父親を失い、糖尿病との闘病生活をする母親と5人の弟や妹を抱えて30才を迎えた。
 これまで、一度として誕生日を祝ったことはない。
「人生で確かなものはひとつの悲しみ、時とともに当たり前になってしまった悲しみだった」
 彼は黙々とはたらき、家族を養い、恋人との新しい生活を夢見るが、警察は人間を体制派と反体制派に分けて見張り、反体制派を取り締まるために行商人をもスパイに仕立てようとする。
 唯々諾々と取り込まれれば物売りのショバが確保される一方で、常に賄賂を求められ、問題意識のある仲間を密告するという卑劣な行為を余儀なくされる。
 断固として自立の道を求める彼は、家族を思い恋人を思って数々の無体な仕打ちに耐える。
 しかし、こう思うようになる。
「武器はない。
 だが、ぼくにはこの身体がある。
 この命が、この絶望的な生が、これこそが僕の武器だ……」
 そして軽油の入ったボトルを携帯するようになる。
 彼は、女性警官たちに殴り倒され荷車を没収された無法を訴えるため、市長との面会を求める。
 守衛によって再再度の拒否に会い、侮辱され、市役所の正面玄関前で焼身自殺をはかり、半月後にいのちを落とす。
 海外で事件が報じられたため、大統領は医師団を伴って彼を見舞うが、もう時は遅かった。
「国中が蜂起する。
 ゼイネブは髪をひとつに結え、デモの先頭に立つ。
 彼女は叫ぶ。
 声を張り上げ、拳を突き上げる」
「デモのいたるところで叫びがあがる、『我々みながムハンマドだ』
 大統領はこそこそ泥のように国を逃げ出す。
 専用機は星の輝く夜の中に姿を消す」

 歴史学の学士号を持っているムハンマドは、自爆事件をくり返すイスラム原理主義とは無関係である。
 彼の父親は生前、よく言っていた。
「信仰ある者は不幸になる定めなのだ。
 神がその者をお試しになるからだ。
 だから、我慢しなさい、息子よ!」
 中東に住む人びとは皆、イスラム教徒とは限らない。
 妹は言う。
「生きるなかで打ちのめされ、辱められ、否定され、ついに火柱となって世界を燃え上がらせた人間の物語」

 こうした物語は、今も、経済・軍事両面で世界を席巻しようとしている中国でくり返し、綴られている。
 チベット僧による弾圧へ抗議する焼身自殺である。
 岡真理氏は「訳者解説」で述べている。
「市民を決起へと突き動かしたもの、それは、火柱となったブアズィーズィ(※ムハンマドの本名)青年の中に人々が聞きとった魂の叫びであったのだと思う──人間とは決して、このように死んではならない、人間とは決して、何人(ナンピト)も、このような絶望のうちに死に至らしめてはならないという叫び……。」
 経済発展に酔う中国人たちのほとんどは、故郷を略奪され信仰という内面までも破壊されつつあるチベット人の絶望に無関心と伝えられている──。

 さて、フランス語の原書で50ページ足らずの簡明な文章は何を物語っているか?
 第一は、いつの世も、専制的体制は自己防御のために人々を体制派と反体制派に分け、反体制派を弾圧することである。
 第二は、正義がどこにあるかを判断するのではなく、自分の利益のために体制派となっておこぼれにあずかろうとする賤しい人々が現れ、卑しさが社会からあらゆる正義を奪うことである。
 第三は、正義を失った社会は、膨大な絶望を生み出すということである。
 皆さんと共によく考えてみたい。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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