コラム

 公開日: 2012-12-09  最終更新日: 2014-06-04

智と情のバランスは? ─チベット密教とオウム真理教─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






第34回寺子屋「チベットを見捨てない」は、少人数ながら関心の深い方々が参加され、質疑応答も交えた真剣な会となりました。
 終了後、Aさんからご質問がありました。
「オウム真理教という言葉を聴講し、あの優秀な若者たちがなぜ、と事件を再考しました。
 麻原彰晃の誤った教えのために殺人集団が生まれたのでしょうか。
 チベット仏教の死についての考え方は、私には武士道などにおける生死不二の思想と通ずるように思われました」

 チベット人のほとんどが死を恐れない生活を送っておられるのは、チベット仏教に帰依し、死ぬことについても死後の自分のありようについても心配がないからです。
 日常生活を仏教の教えによって導かれ、自分を死後も導いてくれる師があり、死後の道行きを明確にイメージして暮らせば不安の生じようはありません。
 これほどの力を持つ宗教であっても、勝手に、うまく〈利用しようとする〉人の手にかかれば、正しく実践されず、人心を狂わせる手段になってしまいます。
 経典に誤りがあるのではなく、用い方に誤りがあるのです。

 たとえば、事件で一躍有名になったことばに「ポア」があります。
 オウム真理教では、「教団に従わない者は地獄などに行くべき運命にあるから、強制的に魂を次の世へ送ってしまおう」という身勝手な考えで「ポアしよう(殺そう)」と指示が出されました。
 しかし、当然ながら、本来ポアにそうした意味や使われ方はありません。
 ポアは悟りを求める瞑想法の一つであり、死に際しては地獄などへ行かないように導く法です。
 チベット密教において、この習熟に行者がいのちをかけ、臨終の時にポアの修法ができる行者が少ないという点では、葬儀で行われる「引導」に近い面があると考えています。
 ご葬儀の意義は、故人がきちんと迷わずにあの世へ行けるよう導師から引導を渡されるという一点にあります。
 これほど重大なものでも悪知恵にかかれば、邪魔者を殺す言いわけになってしまいます。
 騙されぬよう注意せねばなりません。 

 また、Bさんからご質問がありました。
「人を殺す、あるいは死者を放置するといった事件が日常茶飯事になりかけています。
 なぜ、これほど酷(ヒド)いニュースが洪水のように流れる世の中になったのでしょうか?
 日本人の心はどんどん荒(スサ)んでいるように思われ、恐ろしい気がします。」

 今回の勉強会でお渡しした資料の中に、ダライ・ラマ法王の説かれた一文があります。

「人間の脳の働きと、心に動く慈悲心とは、自然が均衡をとろうとして創造したものだと私は信じている。
 時に、われわれは成長のある段階で、心の情愛を無視しがちになり、脳の働きだけに頼ろうとすることがある。
 すると、均衡が崩れる。
 そして、悲しむべきことが、歓迎すべからざることが起こるのである。」

 法王は、〈智〉と〈情〉によって行われる人間の精神活動が、あまりに智へ偏りすぎてはいけないと説かれたのではないでしょうか。
 思えば、戦後日本の復興は、国土を有効利用し、国民の生活を豊かにしようという方向へ向かって行われました。
 そのおかげで私たちは世界に冠たる先進国の一つとなりましたが、奇跡とすらよばれた急激な経済力の発展の陰で、大切な分野が脇へ置かれてきた面もあります。
 つまり、モノの発展へ智の限りを尽くして来る過程で、情をいささか忘れかけているのではないかという気がしてなりません。

 なぜ、頭脳明晰な若者たちがオウム真理教へ走ったのか?
 その理由の一つは、まだ若くて情がよくわからず、あるいは情の面で問題を抱えたまま、つまり人間をよく知らぬままに理論的理解のみで〈生きるための柱〉を求めたからではないでしょうか。
 現在勃興しつつある新興宗教も、実にうまく偉大な人々の智慧を網羅した教義をつくり、教祖を偉大な智者として祭り上げ、知能の優れた若者たちを魅了しつつあります。
 現在の政治状況にもまた、同じ傾向を感じます。
 理論が正しければよい、論争に勝てばよい、多数の支持があれば正義である、白か黒かを決め白が進む時に黒はいらない。
 こうした智に偏った進み方は、常識や良識や寛容性に背を向けた宗教をはびこらせ、人の心に荒みを生じさせ、闘争的なギスギスした生きにくい社会をもたらすのではないでしょうか。

 AさんやBさんの思いの中に潜んでいる「今も私たちの心や社会にオウム真理教的なものが生きているのではないか?」という感触は当たっていると感じ、どうすべきか考えてもいます。
 願わくばモノや智に偏りすぎず、私たちの心を美しく彩ってきた情を忘れず、自分の生き方を考えなおし、社会の軌道修正に役立ちたいものです。



 
 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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