コラム

 公開日: 2012-12-20  最終更新日: 2014-06-04

【現代の偉人伝】第162話 ─「交響曲第一番《HIROSIMA》」を書いた作曲家・佐村河内 守─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 昭和38年9月21日、広島市に生を受けた作曲家・佐村河内(サムラゴウチ)守氏の両親は、爆心地から3キロの所で被曝している。
 被曝者二世の氏は、35才の時、聴覚を失う。
 氏は講談社発行の『交響曲第一番』へ記す。



「私は人生の約半分を聴覚障害者として過ごし、今は全聾として生きています。
 診察を受けた医師のほとんどが私の聴覚異常の確実な原因はつかみきれません。
 幼いころリウマチ熱で生死の境をさ迷ったことも一因にあるかもしれませんが、中には『被曝二世の遺伝的可能性が絶対にないとはいいきれない』とする医師もいます。」

 絶対音感を持っている氏は、全聾となった後もすさまじい頭痛と耳鳴りとを抱えつつ、20年の歳月をかけ、「交響曲第一番《HIROSIMA》」を完成させた。
「絶望と悲しみと虚無が闇の中でループしながら膨れあがっていく」といった地獄の闇で、時には死と闘いつつ書かれた作品の第三楽章「希望」を、私は、この1ヶ月間、車中を含め1日たりとも欠かさず聞き続けている。

「私は《交響曲第一番》の完成を目前としながら、悶絶する日々を送らねばなりませんでした。
 さらに、この〈重度上〉の耳鳴りに、それを上回る〈最重度〉レベルの耳鳴りの発作が加わったのです。
 発汗や嘔吐を伴う硬直のあと、激しい全身痙攣が起こり、発作が長引けば気絶してしまうこともありました。
 そんなときは、ほとんど例外なく失禁しており、鼻からもたびたび出血しました。」

 こうした想像を絶する状況でことを成し遂げた直後、氏は自殺をはかり、「発作も弱まり、重いまぶたを開けた私の目に映ったものは、玄関先の物置から散乱したその中身と嘔吐物、それはロープやヒモ涙を物色した痕跡でした。」という結果に終わる。

 こうした苦闘の中、たまたま訪れたつかの間の静寂に幸福感を覚えた時、啓示を受ける。

「苦しみ闘う人々の支えになる音楽……それは、誰よりも苦しみ闘った者の手からしか決して生まれないのだ!
 そんな音楽を成しえたいと望むのなら、その『闇』に満足し、そこにとどまれ!」



 氏は「事あるごとに両親や祖父母に、戦争や被曝の体験を聞き出そうと食い下がった」ことがあるが、「ある一定以上からは口が重くなって」しまい、断念していた。
 マンガ「はだしのゲン」に両親を重ね合わせ、「感謝と尊敬の念」を抱くようになったが、「闇」に堕ちてからは、こうした思いが強まる。

「原爆投下直後の惨状は『地獄以上』と語り継がれています。」
「被曝し生き残った人たちは、自分が傷ついただけでなく、親兄弟姉妹を焼きつくされ、近親の命を奪われた人たちです。
 また、黒い雨に打たれ、体内に残留した放射能により、のちのちまでも苦しめられてきた人たちばかりです。」
「私の両親も闇の底から出発したのです。」
「私の体内に流れているのは原爆の血そのものなのです。」
「被曝者の多くが高齢に達しようとしている今、私は作曲家である前に、世界唯一の被爆国の国民として、ヒロシマの被曝二世としてこの悲劇を語り継ぐ義務があると思っています。
 作曲家になったのは親から教わったことに始まる後天的な遺志であり、被曝二世は親から受け継いだ先天的な血だからです。」
「アインシュタインは、『私は、第三次世界大戦がどのように戦われるか知らない。しかし、第四次世界大戦ならわかっている、人類は石と棒で戦うことになるだろう』と予言しています。
 この言葉に戦慄をおぼえないとすれば、それは大変危険な感性ではないかと思います。
 彼はまた、こうも言っています。
『無限なものは二つある。宇宙と人間の愚かさです。前者については断言することはできないのですが』」
「『見下ろすと、広島の街が消えていた。……神よ、われわれは何ということをしたのか!(My God, what we have done!)』これは、エノラ・ゲイ(広島に原爆を投下した大型爆撃機B29)の副操縦士ロバート・ルイスの言葉です。
 私は特定の一国や一個人を怨むのではなく、人間の愚かさを憎みます。
 過ちをくり返してしまう〝人間の愚かさ〟という本質に恐怖するのです。」
「『闇』の中で悶絶するうちに私は、自分自身の使命として、原爆とそれに対する思いだけを音で綴るべきではないかと考えるようになったのです。」

 エピローグは「一を得るために九十九を捨てる」とされている。

「己が非力を骨の髄まで痛感したとき、人は絶望し、闇に堕ちるでしょう。
 闇の底に堕ち、初めて自分は何もできない、否、これまでも一人では何ひとつできていなかった、ということを思い知らされるのです。」
「人は光の中にいると、小さな光は見つけにくいものです。
 だから、次から次により強い光を求めてしまいます。
 人は闇に堕ちて初めて、小さな光に気づくのでしょう。」
「真実は闇の中にこそ隠されている──宝物は決して光の中でなく、闇の中にこそ巧みに隠されているように。」

 私は今日も、運転中に、あるいはすべての法務と家事を終えた後に26分53秒、第三楽章を聴き、涙を流す。
 氏と同じく呻吟する方々へ思いをいたし、自分の闇を忘れず、それを打ち払う史上最強の大団円によって務めを果たす力を回復したいと願いつつ。


 
 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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