コラム

 公開日: 2012-12-25 

恩に想う ─救心・親・死─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 過労がピークに近づき、カバンから伝家の宝刀『救心』を探し出して口にしながら愕然としました。
 亡き母が青い顔をして救心を2粒、湯飲み茶碗一杯の水で喉へ流し込み、「ん、これで大丈夫」と自分に言い聞かせているシーンを思い出したのです。
 続いて、救心の小さな瓶とコップ一杯の水を手にして、何があったのか、がっくりと肩を落としてあぐらを組んでいる父の背中へ「ほら、救心」と声をかけていた夕刻の居間も思い出しました。
〝自分が今、救心にすがるのは、母と同じだ。
 母にこうして生き抜くことを教えられたのだ……〟
 今さらながらに〈恩〉の実感が胸いっぱいに広がり、手を止めてしまいました。

 顔を洗うのも、歯を磨くのも、トイレを使うのも、何もかも、父母から教えられてできるようになったのです。
 これから修法しようとして取り出す経典は師から授けられ、声の出し方も呼吸の仕方も、何もかも、師から教えられてできるようになったのです。
〝自分はいったい、いつから、自分一人で生きているような気になってしまったのだろうか……〟

 恩とは、親に育てられたことや、師に指導していただいたことなどであると思っていましたが、そうした頭で一括りにできる問題ではありません。
 生きている自分の一挙手一投足がそのまま、親や師から授けられたことごとを離れてはあり得ないという事実。
 自分が生きている今がそっくり、親や師に支えられているという事実。
 この生々しく、峻厳な真実こそが、恩と呼び得るものなのです。
 あまりに大き過ぎて、言葉にするとずれてしまいます。

 愚かしい私は今頃になってようやく、恩そのものを掴め始めていますが、これは老いたことと関係があるのかも知れません。
 いわゆる末期の目ほどではなくとも、身近に感じられる死が何かを解かし始めているのかも知れません。
 そう言えば、ダライ・ラマ法王は言われました。
「死が人生の不可分な一部である以上、そしてそれから逃れられない以上、無闇に死を恐れるよりは親しく付き合った方がいいに決まっている」
「死と親しむためには、老後を思うことが役立つだろう。自分の老後を」
「人間は年老い、やがて死を迎える。
 そのときになれば、従容として老いたように、従容として死ねばいい。
 来世があるか否か、再生するか否か、思い迷う必要はない。
 あるがままの死を迎え、受容すればいい。
 それが死というものだ」

 枕経(マクラギョウ)の後、後片付けをしている私の近くで、夫を亡くした老婦人のつぶやきが聞こえました。
「早く迎えに来てよ。
 私は目が見えなくて、一人でそばへ行けないからね。
 待ってるよ」
 特段、波立った感情も感じられず、まるでサラサラと清流が流れゆく音に似ていました。
「この家族は全員、やるだけのことはやりました、悔いはありません」
 長老の言葉が何を意味しているか、わかるような気が気がしました。

 み仏からいのちを授かり、この世の親や師から恩で支えられ、自分も知らぬ間に誰かの支えとなり、死を迎える。
 一生とは何と愛おしいものでしょうか。




 
 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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