コラム

 公開日: 2013-01-31  最終更新日: 2014-06-04

【現代の偉人伝】第166話 ─時流に流されず理想を実現しつつ時代の最先端を行くビル・トッテン氏─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈この想像力と創造力はいったい……〉

 1月30日付の朝日新聞から「組合いらぬ会社が理想」の文字が目に飛び込み、数秒で読んだ。
 長いため息の後、4段3分の1の紙面を切り取り、マーカーを手にしてもう一度〈まだ残っている理想的真実〉を確認した。

 いかにも好々爺とした顔写真はソフトウェア販売会社『アシスト』社長ビル・トッテン氏(72才)である。
 来日して43年半になる氏が日本で会社を立ち上げたのは、「労使が激しくやりあって、春闘も注目の的」だった1970年代である。 

「経済が失速し『失われた20年』と言われている、この期間は逆です。
 組合は弱くなり、経営者の意見ばかりが通っているように思います。」

 その通りである。
 政治家が堂々と、会社は株主のものであると言い、日本のために会社を強くするという方向へと突き進んできた。
 そして、資本家と経営者は収入を増やしてきたはずである。
 一方で、はたらく人々の暮らしはどうか?
 1月21日付の産経新聞は、サラリーマンの昼食代がほぼ30年前の水準にあると指摘した。

「一回の昼食代
 平成4年・746円→平成22年・507円
 一回の飲み代
 平成13年・6160円→平成24年・2860円
 一ヶ月の小遣い
 平成4年・約70000円→平成24年・約40000円」

「『もう空腹には慣れた』。
 この日、昼食を食べていないという東京都世田谷区の旅行会社社員、内藤泰介さん(29)は淡々と語った。」

「もっぱら昼食はコンビニめしで、500円以内に抑える。
『子供も生まれて生活は厳しくなり、昼食にカネをかけるのがばかばかしくなった』」

「安さ目当てに近くの大学の学食へ足しげく通う人、おにぎりを持参してスープが飲み放題のネットカフェ(利用料15分100円が相場)で昼食を済ます“強者”も。」

「バブル期に流行した『アフターファイブ』『花金』といった言葉は姿を消し、上司や同僚と飲食をともにしてコミュニケーションを図る『飲みニケーション』も廃れつつある。」

「東京大学大学総合教育研究センターの中原淳准教授(経営学習論)は『同僚との食事や飲み会を重ねることで以心伝心の間柄になれることも多い。その機会が減ると、〈あうんの呼吸〉が通らなくなる可能性もある』と指摘する。」

 注意せねばならないいのは、これが首都のオフィス街におけるサラリーマンの実態だということである。
 はたらく人々の多くは明日の仕事も当てにならず、こんな〈恩恵〉にはあずかれない。
 それにしても、これほどの格差社会になることをいったい、いつ、誰が望んだのだろう?

 ビル・トッテン氏に戻る。

「日本は終身雇用制度を中心とした家族的な雇用形態を守るべきでした。
 それが日本企業の強みだったからです。
 しかし、米国式の能力給や雇用の流動化を目指した。
 そのため労組は弱体化し、優秀な労働者が切り捨てられることが起きて、企業の元気もなくなったのです。
 経営者がそこで働く人を本当に大切にしていたら、労働者は組合を作る必要はありません。
 理想論かもしれませんが、春闘なんてなくなるんです。」

 こういう方がまだ、日本にはおられる。
 はたらく者に正義ありとして支配階級に戦いを挑むマルクス主義的イデオロギーと、労働者は道具であり競争に勝った者に正義ありとする拝金的資本主義の両方を超えたところで成り立っている会社まだ、日本にはある。
 家が血による一族の単位なら、会社は共に生活の糧を得つつ社会へ貢献する一族の単位であるという理想の灯がまだ、日本において消えきってはいない。
 この理想をまるで弊履(ヘイリ…使い古した履物)のごとくうち捨て、アメリカ式の経営を称賛してきたのはいったい誰か?

「家族的経営を掲げている従業員830人ほどの私の会社では組合はありません。
 従業員に『組合作ったら』と言ったこともありますが、必要ないようです。
 実際、我が社は2000年代に入って大きな改革をしましたが、ボトムアップで意見が出て実行できました。」

 汗を流す現場の声が生きてこそ理想の職場ではないか。
 神のごとき独裁者が汗を流す人々の切実な声に応えてくれると期待するのは錯覚ではないか。

「今、多くの経営者は株主の方ばかり見て、目先の理恵にばかり追い求めています。
 そして、簡単に利益を出しやすい、給与カットかリストラに走る。
 国や社会に奉仕するという理念を持つ創業者が去り、サラリーマン社長ばかりになったから、昨今はなおさらこの傾向が強い。」

 経営者は資本家に首を切られないよう、莫大な収入が確保できるよう〈自分の成果〉とわかる形で利益を出そうとする。
 畢竟、はたらく人々は、道具となる。
 そして、成果を上げた経営者はより多くの報酬を求めてたとえライバル会社へでも堂々と移り、成果を上げられなかった経営者は、即座に座るイスをなくし、収入をなくす。
 経営者も使い捨ての対象である。
 ──世界的規模で跳梁跋扈(チョウリョウバッコ…我がもの顔で横暴な力を揮うこと)する資本というルールなき怪物の……。

 氏はこうした経営者ではない。

「日本全体の景気が落ち込めば、我が社の利益も減ってしまう。
 私の給料も減額する。」

 正義が実現されているから氏の会社に労働組合は必要ない。

「中長期的に考えて、エネルギーを浪費し、ゴミを出す経済自体が続くとも思えません。
 だから、私は自分を守るため、自給自足に近い生活ができるように動いています。」
 氏はテニスコートを潰してネギやニンニクや大根を植え、ミツバチや鶏も飼っている。
「我が社では06年から、家庭菜園の農地を借りる社員に年間2万円を補助しています。
 会社全体の1割ほどにあたる80人ほどが利用しています。
 彼らは本気ですし、私も『晴耕雨読』の生活を続けていきます。」

 当山の『法楽農園』も、本気である。
 自分で作った作物を自分で食べる。
 これができれば、あたふたする必要はない。
 100パーセント自給自足するかどうかということでなく、自立した心を持ち、拝金に堕さない矜恃を保ち続けることこそ大切であり、現代における倫理の根本にもかかわる大問題であると思う。
 氏の言う「晴耕雨読」は重い。

 それにつけても、原発の事故と戦争は大敵である。
 氏のような叡智ある営みのすべても、たちまち、水泡に帰してしまう。
 二つの敵を直視して退かない人々によってしか勝利は得られない。
 私たちは皆、心の奥底では自他共に安心に生きたいと願う〈み仏の子〉である。
 満月のような心の本姿が、群雲に覆われつくしてはならない。
 ビル・トッテン氏が発する月光をきちんと感得し、おりおりに浴しては志を錆びさせないようにしたい。

 皆さん、酷薄非情な世の中ではありますが、一方で、理想も理想的現実も確かに存在しています。
 娑婆はそのままにして、み仏の慈光あふれる密厳国土(ミツゴンコクド…み仏の智慧と慈悲にあふれる世界)です。
 目ざすべきところを目ざそうではありませんか。



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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