コラム

 公開日: 2013-02-08  最終更新日: 2014-06-04

私たちは死者を軽んずる傾向にあるのではなかろうか?

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 2月3日、歌舞伎役者の市川團十郎氏(行年66才)が亡くなり、昨年12月5日の中村勘三郎氏(行年56才)に続く悲報は大きな話題となっている。
 お二人はテレビ出演などによって、歌舞伎ファンだけでなく、広く国民に知られており、関心を集めるのも当然だろう。
 昨年、橋下大阪市長が「文楽が大衆の感覚から離れて衰退した」として5000万円の補助金を大幅カットする姿勢を打ち出して大騒ぎになった。
 しかし、歌舞伎という伝統文化に対する国民の大方の意識は「守って行きたい」という方向にあるものと思われる。

 さて、葬儀はどうか?
 葬儀は歌舞伎とはまったく比較にならぬほど国民一般にとって身近な伝統文化だが、はたしてどれだけ、伝統文化であると認識されているだろうか?
 私には、単なる儀礼や手続きとして、要か不要かという感覚で考えられ出しているように思えてならない。
 誰かが大きな声で「要らない」と言い出すことによって、「そうか、やらくても別に困らないんだ」「省いた方が楽だ」という考えが起こり、その周囲には「改革」や「因習からの脱出」や「新しい文化」などの旗が続々と立てられ、徐々に葬儀の意義そのものが思考の外に置かれ出している。
 無意識の裡に、功利的思考、楽を選ぶ性向、反発心の満足などといった心がはたらき、旗たちは絶好の言いわけとなり、正義感の満足を与えてくれもする。
 当山は、皆さんにとって最も身近なところにある伝統文化の担い手として、こうした状況に対し強い危機感を持っている。
 そして、あらゆる機会に、危機への対抗策を講じている。

 仙南の町から人生相談にご来山された方がある。
「母が危篤です。
 どうしようかといろいろ考えていたら、関東方面では、死後24時間経てば火葬できるという法律に合わせてサッと送ってしまうやり方が増えていると聞きました。
 お通夜で逝った人の人生をふり返り、生前お世話になった方々へ感謝を込めて逝去のお知らせをするといった部分はなくてもよいのでしょうか?
 また、戒名なんかなくても困らないと友人から言われる一方、母の兄は、戒名をもらわないなどという可愛そうなことをするなと言い、困っています」
 お答えした。
「貴方が気づかれているとおり、お通夜にはお通夜の意義があり、ご葬儀にはご葬儀の意義があります。
 それについて、貴方が、死者をあの世へ無事にお送りするため修行している行者のもとを訪ねられたのは、お母様にとっても、貴方にとっても有意義なやり方であると思います。
 なぜなら、手術を受ける際に、主治医や執刀医から直接、説明を受けず、疑問点の質問もせず、手術に関する本や、たまたま手術した体験のある人からの情報だけで、手術台に乗る人はほとんどいないはずです。
 同様に、全身全霊をかけて死者をお送りする仕事に従事している当事者である導師たる僧侶と何の話もせず、葬儀について書かれた本や参列した体験者からの情報だけで大切な方の送り方を決められないのは当然です。
 もちろん、説明を重ね、本人やご家族などの同意を確認してからしか実行できない仕組みになっている手術と、そうした法的縛りとは異質な世界である葬儀とをまったく同列に扱うことはできません。
 また、今やセカンドオピニオンというシステムもできている医療行為に対し、宗教行為については、お寺へでかけてやりとりをするというイメージが持てないほど、僧侶の側に高圧的な雰囲気があります。
『うかつに相談すれば、言われるがままにやるしかない』という怖れや諦めや疑念や怒りなどを皆さんがお持ちであることも、よく承知しています。
 だから、当山では、行者としてご本尊様と一体になる法を結んでからしか人生相談をお受けしていませんが、何ごとであれ、決して強制はしません。
 ここへ足を運ばれる方々どなたにとっても、相談事は人生の一大事に関わる内容です。
 だから、世間話として対応することはせきません。
 しかし、仏法のプロとしての立場からお答えした内容は、あくまでも皆さんにとって一情報に過ぎず、実際にどうするのかを決める権利も資格も必要性も僧侶の側にはなく、100パーセント皆さんの側にあるのです。
 こうした面については、医者や弁護士などから学び、適正と思われ寺院が実施できる内容、あるいは皆さんが実行できる内容と思われるものをきちんとお示しする一方、いかに皆さんが自由意志で皆さんにとって最もよい結論を出せるお心になっていただくか、その部分には細心の注意をはらって対話しています。
 では、これから、お通夜、ご葬儀、戒名について、具体的な内容と意味と意義についてお話しします。
 それを参考にして、親の恩にどう報いるか、一生に一度しかない貴重な機会なのでよくお考えください。
 なお、ご説明の途中で、わからないことや疑問の点があれば、どんなことでもおっしゃってください。」
 そして、お通夜、ご葬儀、戒名についてご説明申しあげた。

 ある大恩ある方がご逝去された。
 いつもどおり、ご本尊様へ祈り、戒名が降りた。
 その中の一つの熟語は、故人の紳士ぶり、おしどり夫婦ぶりを示して余りあるものだった。
 また、もう一つの熟語は、お大師様が秘法を勤修(ゴンシュウ)された際に、風雨や魔ものたちから守護した神の名前だった。
 昔、その神の名を冠した聖地へ足を踏み入れた時の記憶は鮮明に残っている。
 故人は生前、当山へ大きな手を差し伸べ、見守っておられた。
 死してなお、お大師様に導かれる当山を、神となってお守りくださるに違いないと思われ、感謝の涙が流れた。

 あるご葬儀では、故人の奥様が、火葬炉から控え室へ向かう前に挨拶をしてくださった。
 言葉はだた一つ。
「もう、会えない……」
 涙をいっぱいに浮かべ、すがりつくような目で絞り出された言葉、お声、お顔を私は一生忘れないだろう。
 ただ、合掌するしかなかった。
 周囲に促され、奥様は静かに去られた。
 帰山する車内で言葉が嗚咽となって何度も何度も口から漏れ、胸が強ばり、震え、奥さんの目にあったと同じ涙も流れた。
 幾度も幾度も、ご縁の方々の苦を共にする職業にある自分の運命を想いつつ、師からの一通の手紙も思い出す。
「見守っています」
 この一言が自分にとってどれだけ大きな支えとなっていることか。
 師の万分の一の力すらなくとも、悲嘆にくれている方々を同苦の心で見守っていたい。
 それだけで、愚かで微力な自分が袈裟衣をまとって生きている小さな意味はあるのかも知れないと思い、丹田に力を入れ直す。
「臨!前!」

 人類は、文明のいかんを問わず、死者を送ることから宗教的意識を持った。
 葬送は人間にとって最も厳粛な営みとなり、葬送はいかなる文化にあってもその基底に深く関わっている。
 伝統芸術の一つである歌舞伎にはこぞって関心を持ち、要らないという声はほとんど聞かれない一方で、伝統的宗教行為であるご葬儀が、現場の真実がほとんど知られないままに、要る、要らないといった話になる日本はいったいどうしたのだろう。
 遺骨収容を続ける渡邉拓氏の言葉を思い出す。

「沖縄で最後まで退がらず、散華した御英霊方のいのちをものともしない戦いぶりがあったればこそ、米軍は膨大な犠牲が予想される本土での決戦を諦め、今、生きている私たちのいのちがある。
 それなのに、国を信じ、国のためにいのちを捧げた御英霊の御遺骨を放置し、沖縄では開発行為によって無惨に地中へ押し潰されて行くにまかせたまま、繁栄を謳歌している日本という国はおかしい」

 もしかして、私たちは、数千年も前の遙かなご先祖様方よりも、死者を軽んじているのではなかろうか? このままでよいとは、とても、思えず、恐ろしくもあるのだが……。






 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ