コラム

 公開日: 2013-04-28  最終更新日: 2014-06-04

言葉を知ってから夕焼けが「美しく」なった話

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 私たちは普段、何気なく言葉を用いています。
 まるで空気のように。
 しかし、空気なら自分の家族も、お隣の家族も同じように吸っていますが、近くにある公園の桜が同じように見えるかといえば、そうではありません。

 昭和48年に、還暦を過ぎてから文字を覚えた方が、生まれて初めて書いた手紙があります。

「わたくしは うちがびんぼうであったので がっこうへいっておりません。
 だから じをぜんぜん しりませんでした。
 いま しきじがっきゅうで べんきょうしてかなは だいたい おぼえました
 いままで おいしゃへいっても うけつけで なまえを かいてもらっていましたが
 ためしに じぶんでかいて ためしてみました。
 かんごふさんが 北代さん とよんでくれたので たいへんうれしかった。
 ゆうやけを見ても あまり うつくしいと 思わなかったけれど
 じを おぼえて ほんとうに うつくしいと思うように なりました。
 みちをあるいておっても かんばんに きをつけていて
 ならった じを 見つけると 大へんうれしく 思います
 すうじおぼえたので スーパーや もくよういちへゆくのも
 たのしみになりました
 また りょかんへ行っても へやのばんごうを おぼえたので
 はじも かかなく なりました。
 これから  がんばって もっともっと べんきょうを したいです。
 十年 ながいきをしたいと 思います。
                     四十八年二月二十八日
                                北代色」

 部落出身の北代色氏は差別され、読み書きも習わないまま還暦を迎えられました。
 一度、読んだら忘れられない手紙です。
 社会的問題を突きつけられる厳しさもさることながら、
「ゆうやけを見ても あまり うつくしいと 思わなかったけれど
 じを おぼえて ほんとうに うつくしいと思うように なりました。」
の一文は、文字でできている言葉が、人間にとっての外界と動物にとっての外界とを分けるという真実を余すところなく訴えてきます。
 
 私たちが夕焼けを「美しい」と思うのは、「美しい」という言葉を知っているからであって、夕焼けは、イヌやネコをその〈美しさ〉によって立ち止まらせはしません。
 当山の飼い猫クロはときおり、本堂の窓越しに笹倉山を眺めているかのようなポーズでじっとしていますが、その心中はわかりません。
 ただ、「美しい」と思っていないことだけは確かなのでしょう。
 こうした事実は、漫然と生きている私たちを愕然とさせます。
 ──自分にとっての〈世界〉とは、自分が知っている言葉の範囲でしか成り立っていない……。
 ──ならば、私の言葉の貧しさは、私にとっての世界の貧しさに通じ、生きる世界の貧しさに通じている……。




 忘れられないお釈迦様の言葉があります。
 もうすぐこの世を去ると告げられたお釈迦様へ、周囲の人々がいつまでもこの世に留まって導いてくださいと懇請した時の返事です。

「行道は心に存す。
 必ずしも我を見るによらず」
「我が説のごとく行わざれば
 空しく我を見るも益なし」

(修行はそれぞれの心がけによって行うべきであり、
 私に会わなければできないものではない)
(私の説くとおりに実践しないならば
 ただ、私に会っても役に立たない)
 仏像の前に座る時だけが修行ではないとわかっていても、こうしたお釈迦様の言葉を知ると、そのことが心に強く沁みて「いついかなる時でも」との決心が格段に強まります。

 言葉は空気と違って誰にでも与えられているのではなく、言葉が誰にでも共通して理解される性質を持っているだけです。
 文字を知り言葉を知ってイメージが深まれば、私たちの住む世界はより深い意味や意義を顕し、それは私たちの人生が深まることにもつながります。
 お大師様は説かれました。

「仏界の文字は真実なり」

 文字や言葉のありがたさ、経典のありがたさを忘れずに励みたいものです。
 ただし、お釈迦様から与えられた言葉「垢を除かん。塵を払わん」を唱えつつ掃除に励んだチューラパンダカが、たったそれだけでアラカンさんにまでなったという故事も押さえておきましょう。
 知っている文字や言葉の〈量〉だけが決定的なのではなく、心が深まるところが大切なのです。
 冒頭の北代色の手紙も、「うつくしいと思うように なりました」があればこそ、40年の歳月を経てなお、私たちの心をつかまえる力を失っていません。
 言葉は不思議なものです。
 
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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