コラム

 公開日: 2013-04-30  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(第134回)─富田賞を受賞し白日会会員となった鷺悦太郎

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈第86回白日会展『追憶』〉



〈第88回白日会展『アリア』〉



〈第89回白日会展『クロアール』〉

 平成12年5月3日、当山はブログ内『現代偉人伝』において、白日賞を受賞した画家鷺悦太郎氏を紹介した。
 受賞作『アリア』を描いた氏は陸前高田市に住み、200点を超える全作品が津波によって流されても、活動を続けている。

 第88回白日会展の『アリア』と、津波の前年の作品である『追憶』は、同じモデルと思われるが、画に漂う空気があまりに違う。
 そして今回富田賞を受賞し、たった3年で白日会正会員と認められるきっかけとなった『クロアール』における女性の姿勢は明らかに『アリア』の延長線上にあるが、心の置かれた世界が変質している。
 『アリア』は容赦なく結果が出た世界である。
 異次元の破壊力によって何もかもがローラーをかけられ、喪失と死が白日のもとに晒され、その荒涼とした世界は青空の下にくまなく広がっている。
 女性はさえぎるものとてない広々した空間を通って吹いてくる風に向かって立っている。
 うち倒されざる者は、どこへでも向かい得るが、とにかくここから始めるしかない。
 選択肢のない地点である。

 しかし、『クロアール』は閉ざされている。
 画家は、表現方法を模索しようとして、何度も宮城県内の牢屋へ足をはこんだという。
 確かに光が射しており、女性は、うつむきかげんに耐えていた前作の時とは違って、導きの光が来る方向へと全身が向いてはいる。
 しかも、がんばって目線を上げようとしていた時とは違って、やや上方の光源へおのづから目線は上がっている。
 顎の位置が高い。
 まんべんんなく降り注ぐ光が明らかにする無の中で耐えていた時とは違って、特定の光源があるにはある。
 しかし、いる場所は牢獄である。
 周囲につかむもののない両手は、もはや、組むしかない。
 左手は右手に「大丈夫と」告げ、右手は左手へ「大丈夫」と告げ、自分を確認すると同時に自分を励ましている。
 視野の広がらない世界で両手を一つにして視線を上げる先には仏神がおられる場合もある。
 そうした宗教的な見方もできなくはないが、周囲にある不安とあまりにも不釣り合いな確たる笑みは、大きな諦観を感じさせる。
 寒風にたじろがぬ勁(ツヨ)さに加えて、自立心を構成する芯の強さが生まれているのではないか。

 あらためて三枚の画を比べてみる。
 『追憶』の頃、政権交代によって社会へ広がった希望が色あせ始め、だらだらと続く不景気に、人々は先行きへの不安を募らせていた。
 女性は覗き込むように、あるいは確認するように、薄日に立ち現れる未来を観ようとしている。
 書物を手にしているのは、書き残され、かつては確かに在った〈過去〉に、来るべき未来の根拠を見つけようとしているからではないか。
 『アリア』の頃、生き残った人々にできることは、倒れず立ち向かうのみだった。
 地にある去ったものたちの痕跡から、まずは、屹立(キツリツ)せねばならなかった。
 生きてありながら痕跡と同化することはできない。
 そして今、震災や原発事故で大きな傷手(イタデ)を負われた方々は、根本的打開のできない閉塞状況への諦観を抱きつつ、自分の足でとにかく光のある方向へと歩み始めておられる。
 『クロアール』はフランス語で信じるという意味がある。
 平成25年4月3日付の東海新報は氏の富田賞受賞を紹介し、「『希望の光』を表現」と書いた。
 記事の中で氏は言う。

「自分が震災で経験したひもじさや寂しさが、作品制作のきっかけとなった」
「震災により、さまざまな環境を失ったことは事実。
 けれども、以前のような平和な町が、いつか必ず戻ってくる。
 そして、今何かをしているこの瞬間が、きっと後から自分の宝物になる。
 絵を見た人にも、そんな気持になってもらえれば」

 目を引かれたのは「さまざまな環境を失ったことは事実」という表現である。
 それぞれの環境(人も含めて)を失いはしたが、そこで、倒れ伏してしまう人もいれば、モデルとなった女性のように一人の人間としての尊厳が深みを増す人もいる。
 氏は、言外に、失われていないものがあると言いたいのではなかろうか。
 しかし、重ね重ねて失い、足元がおぼつかなくなった方々の気持を忖度すれば、はっきりとそれを語ることは、いささか、はばかられる。
 だから、そこは口にせず、画で示したのではなかろうか。

 『追憶』の女性がまとうのは、ねずみ色に近い生壁色だった。
 『アリア』で女性がまとうベースの色は黒だった。
 『クロアール』では、空間の色をやや映した白色に青竹色か青柳色である。
 このように変化する衣装は〈時〉であり、〈空気〉ではないか。
 そして、人間は厳然と自立している。
 尊厳にあふれた作品は、きっと、人々の力を引き出すことだろう。
 
 一度、右方向へと向きを変えた女性はまた、左向きへ戻った。
 非常事態は去ったのだろう。
 不安は決意にうち祓われ、祈りが生まれようとしている。
 氏のますますのご活躍と、モデルとなった女性及び被災された方々へよき未来が訪れることを祈りたい。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ