コラム

 公開日: 2013-05-13  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(第137回)─寺院はどう変わったか?─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






〈「法楽農園」です〉

 ある勉強会で質問がありました。
「東日本大震災の前と後で、どう変わりましたか?」
 当山は宗派に属さない単立寺院ゆえ、自分の山寺を守るので精いっぱいであり、このテーマで他の寺院の方々と話し合ったことはありません。
 だから、当山の率直な思いを申しあげました。
 一つは文化の基底について、もう一つは思いやりの復活について、そしてもう一つは人間の分際の認識について。

○人間は自然の一部であり、あらゆる営みも計らいも自然の掌の上にあることを肝に銘じ、驕らずに進みたい

 私たち人間には意欲があり、向上心があります。
 だからこそ、生後、一人では生きられぬ弱い種なのに自然淘汰を免れ、現代まで生き延びてきました。
 ホモ・サピエンス(知恵ある人)と呼ばれるゆえんです。
 知恵により、他の生きものたちとは比べものにならぬほど生活空間を改良し、広げ、寿命を延ばしました。
 今や、〈克服されるべきでないもの〉はなく、地球だけでなく宇宙をも庭として利用し、身体は継(ツ)ぎ接(ハ)ぎにより耐用年数を限りなく伸ばそうとしています。
 政界では年から年中「改革!」と叫ばれ、「今」は常に克服されるべき対象として私たちに立ち塞がっているかのようです。
 「自分」をも又、望む方向へより効率的に歩める人間に改造しようと忙しく、泥棒や殺人といった犯罪の助長に及ぶまで、ありとあらゆる種々のマニュアルが岐(チマタ)に溢れています。
 あたかも「未来志向」や「前向き」でなければ、世の中の流れから脱落するだけでなく、おちついて息をしても行けないがごとき喧噪に包まれています。

 これほど、「今」と「自分」が否定された時代は、かつて、あったでしょうか?

 大震災は、そうしたパターンに陥っていた営みや計らいへ巨大な冷や水を浴びせました。

 あれから2年以上が経ち、最近はしきりに分際(ブンザイ)という言葉が頭に浮かびます。
 分際は「身の程」という意味であり、軽蔑の雰囲気を帯びていますが、我が身をふり返ると、この言葉しかないと思われてしまうのです。

 5月11日の朝日新聞に『国技館に都市伝説』という記事が載りました。
 抜井規泰記者の体験談です。

「国技館の向(ムコウ)正面には、東西の支度部屋がある。
 土俵から支度部屋に通じる通路が、『花道』だ。
 東の花道の奧に、記者室がある。
 3年前の12月。
 その日の夜8時過ぎ、私は記者室を最後に出ることになった。
 最後の記者が鍵を閉めるのがルール。
 記者室の外へ出てから、『おっと、忘れるところだった』と部屋に戻って鍵を取り、施錠して、漆黒の花道に向かって1歩、2歩と歩き出した。
 その時。
 大きくて丸い弾力のある、バレーボールのようなもので、背中をグッと押された感覚がした。
 誰かのいたずらだと思い、『オイッ!』と笑って振り返ると、無人の闇が広がっていた。
 カバンを抱きしめ、土俵わきを突っ切り、数人が残業している事務室に駆け込んだ。」

 血相変えた記者から成り行きを聞いた事務員も警備員も、驚くどころか全員があたりまえという顔をしています。
 向正面のあたりでは不思議な体験が相継いでおり、警備員ですら、巡回の時以外は、夜の向正面に近づきません。
 頻繁に国技館内を散歩する北の湖理事長もまた、向正面を避け、馬蹄形に散歩しています。
 記者からその理由を訊かれた理事長は答えました。

「だってあそこは……。
 ……分かってるくせに」。

 大横綱だった理事長はきっと、怖いから避けているのではないはずです。
 神様に守られた聖なる土俵へいのちをかけてきた人間として、向正面を居場所にする目に見えぬ何ものかへ畏敬の念を持っておられるのでしょう。
 異次元にある何ものかの気配を感じながら、「俺はちっとも怖くないぞ」と肩を怒らせてノッシノッシと踏み込む蛮勇の愚かさを知っているからでしょう。
 明治政府による廃仏毀釈(ハイブツキシャク)がほどなく終熄したのは、記者のような感覚と理事長のような心が日本人に色濃く残っていたからであると思われます。



〈「越前禅定道の石仏」様からお借りして加工した廃仏毀釈の姿です〉

 私たちは、自分の〈際(キワ)〉を〈分〉かる、あるいは分かろうとする必要があるのではないでしょうか。
 それには「今」と「自分」をきちんと観なければなりません。
 向上心が大切なのは当然ですが、真に向上するためには、孫子が「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」と説いたとおり、今の自分を知ることはすべての土台になります。
 落ちついて「今」と「自分」に向き合い、今ここで自分が息をしている真実をつかめば、おのづと感謝が生まれ、心の安寧も生まれましょう。

 大震災は、あまりにも大きな犠牲を伴いながら。私たちを立ち止まらせました。
 それはあたかも、近親者の死が、人々を日常生活の動きから立ち止まらせるのと似ています。
 私はご葬儀の後に行うささやかな法話で二つのことを申しあげます。
 一つは、お線香などを捧げて行う供養の意義について、もう一つは、故人となった方がつくってくださった修行の機会を生かすことについて。
 多くの場合、法話にはこの言葉が含まれます。
「今、皆さんは立ち止まっておられます」。
 逝った方は、ご自身の死をもって私たちを立ち止まらせます。
 この時にしっかりと立ち止まって我と我が身を振り返り、自分の足元を見、いのちと人間の宿命を考察することが故人への報恩の第一歩であると信じています。

 大震災から2年経っても、私たちにはまだ、立ち止まったままでいる自分がいます。
 それは、悲しみや、苦しみや、寂しさや、切なさや 不安などを伴っていますが、「マイナス志向だから早く忘れてしまおう」と無理に〈前向き〉になる必要がありましょうか?
 私たちは、私たちの親である自然の流れにより、千年に一度の規模で立ち止まっているのです。
 もちろん、一日も早く生活を取り戻し、地域を取り戻さねばなりません。
 一刻も早く、心の苦しみから解放されねばなりません。
 しかし、そのことをおし進めながら、同時に、立ち止まることによってせっかく気づいた自分と人間の分際を観る視点を、軽々に捨てぬようにしたいものです。
 そうすれば〈復興〉に伴う怪しい気配に惑わされず、個々人が人間としての新たな出発、言い換えればほんとうの〈再生〉を迎えられるのではないでしょうか。
 私たちは、まぎれもなく、親である自然の掌の上にいます。
 くれぐれも驕らず、謙虚に、〈千年に一度の再出発〉をしようではありませんか。

 
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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