コラム

 公開日: 2013-05-31  最終更新日: 2014-06-04

東日本大震災 ─東北関東大震災・被災の記(第138回)─「葬送の記」(その1)─

おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 仙台市に「清月記(セイゲツキ)」という葬祭業者があります。
 5月、ある席で菅原社長と隣合わせ、何でも省略する世相についてどう考えているか訊ねたところ、即座に明解な答が返ってきました。
「いかなる時代であろうと、規模の如何にかかわらずきちんとお送りすることは御霊のためだけでなく、送るご遺族が心の区切をつけ次のステップへ踏み出すために欠かせません」
 いつの時代も、生活に根付いた文化の担い手とはこうした人なのでしょう。
 実に頼もしい〈同志〉です。
 数日後、友人から電話が来ました。
「友人が最近、本を出したから送るよ。
 きっと参考になると思う」
 それが菅原裕典社長の著『葬送の記』でした。
「本来、葬祭業は究極のサービス業です。
 お客様(ご遺族)の心の拠り所となる『黒衣(クロコ)』に徹して、心を重ねるように寄り添うのが葬祭業に従事する者の務めです」
 黒衣になるとは、ご遺族のお気持を第一として尽くすということでしょう。
 私も故人と送る方々へ寄り添わねば確実に引導(インドウ)を渡せないと考えています。
 以下、同書を読んでみます。

 社長は震災後ただちに棺1000本を発注し、災害時ならではの困難に備えました。
「見た目に立派な棺があったり、質素なものがあったりという差別は絶対にしてはならないのです」
 災害対策本部から要請があった時、お棺が足りないということは避けねばなりません。
「ご遺体を袋にくるんで並べておくわけにはいかない」
「これは日本人独特の死者に対する思いでもあります。
 きちんとご遺体をお棺に納めることで、ご遺族はほんの少しだけ安心されるものです」
 そして1000本のお棺は、震災の翌々日である13日の早朝、会社へ届きました。

 お客様の要望へ「NO」を言わないために、水や食糧など災害に備えたあらゆる準備がなされていました。
「大切な人の最期をお送りするときに、一つでも足りないものがあればプロとして失格なのです」
 最新式のトイレは水があってもうまく使えず、社員専用の昔式のトイレが役立ちました。
「災害時にはシンプルな機能のものが活躍してくれます」

 震災当日、社長は全社員を帰宅させました。
「明日はなんとか出社してほしい。
 明日からが厳しい仕事になるだろう。
 家のことも心配だろうが、みんなの力が必要だ。
 力を合わせなければ、この危機は乗り越えられない」
「翌朝の始業時には本社の全員が揃っていました。
 みんなの顔を見て、うれしさというよりも、感謝の気持がこみ上げてきました」
 社長は、家族の不安や不満を押し切って出社したであろう社員たちを支えていたものは使命感だったと考えています。

 平成16年に「仙台地域総議会館連絡協議会」を組織していた社長は、かつて、仙台市が行った年に一度の防災訓練において、検死官のサインで終わりとなっている状態へクレームをつけました。
「ご遺体を引き揚げて、一時的に安置して、そして検視する。
 それで終わりですか。
 検視が終わったご遺体はどうするのですか。
 放っておくのですか。
 そのご遺体をきちんと棺に納めて、体育館などに安置する。
 その後、荼毘に付し、ご遺族が葬儀を執り行えるようにしてさしあげる。
 そこまでやってはじめて防災訓練といえるのではないですか」
 翌年からは9月1日の「防災の日」における訓練に葬祭業者のブースも設けられるようになったそうです。

 さて、安置所に次々とご遺体が運ばれてくる現場では、ご遺族の言動が社員たちの大きなストレスとなり、救いともなりました。
「おい、遺体をもっと丁寧に扱え!」
「火葬をできなくしているのは、お前たちじゃないのか!
 少しでも長く安置所に置いておいて、追加料金を取ろうとしているんじゃないないのか!」
「こんなにきちんとしてくれて、ほんとうにありがとうございます。
 これで息子も天国に行くことができます。
 あなたたちも大変でしょうが、負けないでください」
 社長は社員たちへ言いました。
「ご遺族の方々は、どこにも哀しみをぶつける場がないんだ。
 大切な人を失い、普通の心理状態ではないんだ。
 そんなご遺族の気持ちを、私たちは受け止めねばならない。
 何を頼まれても、けっしてNOといってはいけない。
 それが私たちの仕事なんだ」
 そうして頑張る社員も社長も、県との協定で、安置所でご遺体を棺に納めるまでで終わりとなっていることには大変辛い思いをしたそうです。
 最善を尽くしてお納めしたご遺体は、ご遺族の意志一つで次々と地元の寺院などへ運ばれて行きます。
 お金儲けをしたいのではなく、誇りを持っている葬儀までやって仕事を完結させたいけれども、それはかないませんでした。

 対策本部を立ち上げてからの役所の対応に疑問を持った社長は、担当者を現場へ連れて行きました。
 お棺の組み立てをやっているベースキャンプでは、不眠不休で黙々と作業をやっています。
「役所の担当者は全員その場に立ちすくみ、言葉を失っていました。
 その日以来、彼らの対応はガラッと変わりました」
 それからは、「非常時には仕事における上下関係を生み出してはならない」という信念どおりの雰囲気となり「みんなが心を一つにして力を合わせる」関係になったそうです。

 ドライアイスなどの「物」のやりとりと報告について、数や金額の確認作業などがほとんどできなかったにもかかわらず、後になって国の監査が入った時、まったく問題はなかったことが明らかになりました。
「各メーカーと宮城県葬祭協同組合、そして役所のすべてが、信頼関係という名のもとにガラス張りの取引をしたのです。
 それは見事なものでした」
 社長は、メーカーさんが「場所は遠く離れていても、心は一緒に闘っていてくれた」ことに感謝し、全国の取引先に行脚をしました。
 一般的に、日本人は〈どさくさ紛れ〉に悪事をはたらけない人々であると感じています。
 もちろん、報道されぬおぞましい事実がいろいろあったことは見聞きしていますが、根幹のところで、日本人は信頼できると確信しています。

 阪神淡路大震災のおり、社長は改造したマイクロバスに支援物資を積み込み、社員10人と共に、翌日、仙台を出発しました。
 そこで危機管理の大切さを身をもって学びました。
「当初は西宮に応援に行ったつもりでしたが、ほんとうに貴重なことを教えられたのは、実は私のほうでした」
 だから、今回、支援にかけつけた全国の同業者に対して、できるだけのおもてなしをしました。
「『戦力』としてあてにしてはいけない。
 むしろ、『学び』に来ていただくのだという気持ちで、すべての同業者を受け入れたのです」
「皆さん、よく見て帰ってください。
 そして考えてほしいのです。
 もしも自分たちの街がこんな状況になってしまったとき、自分は何ができるかを。
 何をやるべきかを。
 そして自分の非力さをも知ってください。
 一つの会社、独りの人間がやれることなど高が知れているのです。
 全員で力を合わせることがいかに大切かを学んで帰ってください」

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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