コラム

 公開日: 2013-06-09  最終更新日: 2014-06-04

罪を清めるもの ─NPO法人ワンファミリー仙台理事長立岡学氏の講演─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 6月8日、寺子屋においてNPO法人ワンファミリー仙台理事長立岡学氏の講演をお聴きしました。

1 NPO法人ワンファミリー仙台と当山とのご縁

 氏と当山との関わりは、お弔いから始まった。
 理事のお一人である弁護士勝田亮氏が当山とご縁があり、誰でも入れる『一家族の墓』を当山の墓地『法楽の苑』に造られたのである。
「最終的には弔ってもらえるから大丈夫。
 とにかく生きようよ」
 こうして前向きに生きられる方々がおられるという。

2 始めた頃

 氏は神主の家に生まれたのではないが、竹駒神社の神主になった。
 本当は音楽の道に進みたいと思っていたが、やんちゃだった自分を省みて、自衛隊員か神主として厳しい規律の中で生きることにした。
 神主になってはみたところ、その世界はイメージしていたものとかなり違っていたそうである。
 氏はその内容を語られない。
 もしかすると、私が出家し、托鉢を始めてから感じた違和感に通じているのかも知れない。
 そんなおり、新宿でホームレスと一緒にゴミ拾いをしている津田政明氏(現在、理事)に出会い、まったく新しい世界を知る。
「生活困窮者が社会貢献し、労働による対価で生きられるのはすばらしい」
 津田政明氏に指摘される。
「君はご利益のある御稲荷さんに仕えているのだろう?
 それなら、実際に困っている人々へ衣食住を施しなさい。
 まず、地元仙台のホームレスを助けてあげたらどう?」
 津田政明氏がNPO法人ワンファミリーを設立していたことにちなみ、任意団体『ワンファミリー仙台』をスタートさせた。

 その頃、仙台駅周辺などに300人近いホームレスがいた。
 氏は「味噌汁飲みませんか?」「あめ玉要りませんか?」から始めた。

「寒い時に温かい味噌汁があれば、誰でも飲むんです。
 冬の乾燥している時期にあめ玉があれば、誰でも嘗めるんです」

 週に一度、路上生活者とコンタクトをとるようになり、〈関係性〉が生じた。
「どうしたら生きられると思いますか?」
 回答を得た。
「朝飯があれば、今日も生きて行けると思う」
 また、問う。
「それなら、朝に一汗流してから食べれば、朝ご飯がもっと、おいしくはありませんか?」

3 路上生活者の実態

「皆さん、自分自身の人生の主人公になり得ていません。
 自分はこの世にいなくてもいいのではないだろうかと思っています。
 その人その人のすばらしさを発見し、それを生につなげて行きたいと願っています」

 氏は実態と制度のずれを感じる。
 障害者や要介護者は、状態が固定しているので、決まった支援の手が差し伸べられる。
 しかし、生活困窮はその時点での〈状態〉であり、変化するので、制度の支援を受けにくいのである。
 いかにしたら本人なりの自立ができるか、対応は難しい。

「路上生活者は苦しみや悲しみや怒りでさんざん自分を壊してからNPOにやってきます。
 そもそも、冬の寒い時期に路上で寝ること自体、心が正常にはたらいていると言えるでしょうか?
 自業自得と切り捨てられるでしょうか?」
「自分がこれまで関わってきたのべ600~700名の路上生活者は、その9割以上が、幼少の時期に虐待を受けるなど劣悪な環境で育っています。
 心身、特に脳が発達する時期にそれを疎外するほどのストレスがかかり、充分に発達できていません。
 また、心的ストレスによる歪んだ認知が生じます」

 路上生活者の40パーセント以上が高校中退か中卒という。
 卒業するまでは、大変な環境にいる子供として支援されるが、卒業するとそれはなくなる。
 そして、コミュニケーションスキルに欠けた人は、なかなか職にありつけなく、企業が真っ先に切り捨てる対象となる。

「こうした人々へ自業自得と言えるでしょうか?
 独りにできるでしょうか?」

4 支援の中身

 できるのは「自分で現状を見つめ直し、よいところを伸ばしてあげるサポート」である。
 しかし、仙台市内で〈今すぐにたすかる所〉は当NPOしかない。
 県からの支援がスタートしたので、全県からの依頼を受け入れられるようになった。

 路上生活者は出所者が多い。
 長く服役していると住民票が末梢されるので、出所しても誰か身元の引き受け手がなければ、住む所の確保がでない。
 だから、わざと無賃乗車して逮捕され、その日のねぐらと食事にありつくといった悪循環に陥ったりする。
 今は、受け入れ先があれば軽微な犯罪については逮捕せず、連絡を受けた支援団体がまず住まいを確保し、次に職業を紹介するといったやり方が可能になった。
 また、ユニベール財団からの支援で共同墓『一家族の墓』を造ったので、最終的に弔ってもらえるという安心感が出所者の生き方を変えた。
 高齢や身体的事情ではたらけない方も「いていい」という状態になった。

 法務省と厚労省が話し合い、高齢者や要介護者などについては、服役中に関係機関で調整し、福祉サービスにつなげる制度ができた。
 出所予定者の環境調整が行われ、出所後に希望する居住地で生きられるよう準備をするのである。

 ふり返ってみると、リーマンショック以降、路上生活者はどっと増えた。
 住めない人々の増加に「やるべきことをやらねばならない」と強く思った。
 しかし、県で支援しようと各団体へ呼びかけたがどこも応じなかった。
 その主たる原因は「出所者は何をやるかわからない」という不安感・恐怖感だったのではないか。
 ワンファミリー仙台は唯一応じ、竹駒神社を退職して支援活動に専念することとなった。

5 現状

 路上生活者になる前にSOSを発する人が増えてきた。
 債務、精神疾患など、困窮する原因が複雑にからみ、様々な機関と話し合わなければ一人の人を救えなくなった。
 いきなり就労できない人もおり、研修も必要なので、生活支援法・生活困窮者自立法の改正が進んでいる。
 また、長い時間かけてズルズルと落ち込んだ人を急に引き上げることはできない。
 急に「就労せよ!」といっても無理である。
 ここの理解もなかなか難しい。

 現在、仙台には約100人の路上生活者がいる。
 そのほとんどは県外から来た人々である。
 特に震災後、被災地へ仕事を求めてやってきたのに、ポンと捨てられる人が増えている。
 そもそも給与は日当で支払われず約2カ月近い間が空いたり、合宿所のような施設の経費がかかったりで、安定した生活ができない。
 実際の仙台在住者は約5割、県外在住者が約3割、仙台以外の県内在住者が約2割である。

「本当はこんな団体がなくなり、我我の存在のなくなることが究極の目標です。
 それなのに、現在、明らかに格差が拡大し、困窮者は増えています」
「問題の根本的な解決法は、若いうちに手を打つことです。
 中高年になれば対処療法的な対応しかできないのが実態です。
 しかし、若いうちに皆が関わり、心身のきちんとした成長をうながせば、生活困窮者に陥る人々はかなり減るのではないでしょうか。
 この先、親元にいられなくなった人々がどっと生活困窮者になる可能性が高いと思います。
 若い人へ皆が手をかける必要があります。
 我々もそうした根本に関わる質の高い取り組みを進めて行きたいと考えています」

6 質疑応答

 氏は、多忙の中、駆けつけてくださり、ギリギリまで質疑応答をされた。

 Aさん。
「教育の現場との関わり合いは?」

 氏。

「教育委員も理事に入っており、教育の現場と近づく努力をしています。
 しかし、具体的取り組みが行われるまでは、時間がかかるでしょう。
 全国の団体がネットワークをつくり、厚労省に窓口をつくってもらう準備をしています」

 Bさん。
「仙台市内のあちこちで路上生活者を見ます。
 町内会で対策を話し合い、実際に個別のやりとりもしました。
 呼びかけに応じない人々もいますが……」

 氏。

「厚労省が行う調査と同じ調査を我々も行い、コンタクトは欠かしません。
 しかし、アルコール依存症など病気に罹っている方々とすんなりやりとりはできません。
 緊急の場合はまず救急車、そして市民センター、次に生活保護の窓口、それから我々の所へ連絡がきますが、我々の提案を受け入れるかどうかは本人次第となります」
「やはり、問題は路上生活に至らない状況で救い出せるかどうかにかかっています。
 彼らは人間を捨てる覚悟で路上生活に入ります。
 助けてくれと言われれば、何かができます。
 しかし、たとえば3年も路上で冬を越した人は自分でやれると思い込んでしまい、こうなると、救いの手に応じなくなるのです」
「彼らは言葉が足りないために、抜け出せません。
 信用して任せられる人がいないために、抜け出せません」
「路上生活の現場に炊き出しなどの情報は届いていますが、来るかどうかは本人次第です。
 中には、どこかで食べられるからと、なかなか就労意欲を持てない人もいることでしょう。
 とにかく、本人がSOSを出さないとことは前へ進みません」
「困窮者の子供たちへの学資支援法が検討中です。
 生活保護者の子供が教育を受けられず、困窮者となる悪循環は断ち切らねばなりません」
「自立準備ホームの卒業式があり、こんな挨拶がありました。
『生きる目標が持てました』
『こうして生きられることを服役中の人に伝えてください』
『希望は、家族と故郷で住みたいことです』」

 自立準備ホームでの逸話に、氏は心なしか目を潤ませた。
 
 Cさん。
「出所し、路上生活者となり、救われた人の心の変化は?」

 氏。

「出所者は服役を終えれば社会的責任をとったことになりますが、必ずいる被害者にとって、そうした区切はありません。
 心の傷は癒えないのです。
 しかし、出所者は、そうした被害者の傷を直接、治すことができません。
 だから、被害者の心へ対応するには、加害者が罪を償いながらはたらき、真に厚生して行く環境をつくる必要があります。
 もしもそうした環境がなく、出所者が差別されるだけでどこにも受け入れられず、切り捨てられ生きて行けなければ、とんでもない暴発を引き起こすかも知れません。
 関係性の困窮が追いつめてしまわないよう、社会的償いをしつつ厚生して行く環境が絶対に必要なのです」

 私は娑婆で経済的に失敗し、被害者をつくった。
 諸手続きなどにより法的責任はなくなったが、罪はなくならない。
 決着をつけられない以上、被害者は被害者のままである。
 だから、出家してからの日々は文字どおりの〈罪滅ぼし〉である。
 おりおりに死という人生最大の苦を前にして、亡くなった方になり、送る方になり、胸が冷たいコンクリートに固められてしまうような体験を重ねるのは、因果応報であると強く信じている。
 たとえ全身全霊で引導を渡し終えても、〈罪が減った〉などという実感はまったくない。
 むしろ、アルベール・カミュ著『シジフォスの神話』における実存を実感している。
 巨岩を山頂へ押し上げねばならないという罰を受けたシジフォスは誠実にやるが、山頂に達した時、巨岩はたちまち転がり落ち、また押し上げねばならない。
 私の日々も又、同様のくり返しではあるが、徐々に魂が清められ救われつつあるとは感じている。
 そうして救われつつ生きることが社会的何ごとかであるならば、それは被害者にとっても何ごとかであるに違いないと考え、これも又、勝手ではあるが大きな救いである。

 私はみ仏に導かれて救われ、ここ寺院は聖地である。
 氏は神主の職に就いてはおられないが、神職であった氏の心の聖地がこの世のあちこちに現実の聖地を造っているのではないか。
 だから、『生きる目標が持てました』という人が出てくるのだろう。
 その人が希望を持てた時、どこかにおられる被害者の傷にも又、確かな回復が始まっているのではないか──。

 罪を犯さない人は誰一人いない。
 聖地に関わる時、誰しもが知らぬ間に救われるのではなかろうか。
 興福寺の阿修羅像を思わせる哀しみをたたえた氏に、神々を観た。
 
 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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