コラム

 公開日: 2013-06-17  最終更新日: 2014-06-04

今、読み返す開高健著『ベトナム戦記』 ─イデオロギーを離れて観る戦争の姿─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。









 ベトナムで、昭和の半ばから長い戦争が行われた。
 死者は100万人とも150万人とも言われている。
 故開高健はその最前線へ行き『ベトナム戦記』を書いた。
 昭和40年、まだ、約半世紀しか経ってはいない。

 彼がカメラマン秋元啓一と共に従ったベトナム軍の第一大隊は、200人のうち、たった16人になってしまった。
 ベトコンの猛射からほうほうの体で逃げ回り、一息つく。

「私はしゃがんだまま小便を一回やり、バグを整理した。
 にぎりめし半個。
 『正露丸』。
 クロロマイセチン。
 防虫薬。
 ライター油。
 航空券。
 ドルなどをポケットというポケットにつめこみ、さいごに日ノ丸の旗をねじこんだ。
 ジャングルは深く、濃く、広大で、十メートルさきが見えなかった。
 太陽は白熱していた。
 私はここで渇死するかも知れないし、餓死するかも知れないと思った。
 けれど私の手のしたことは生を決意していた。
 体力を節約するためにいつバグを捨ててもよいようにしたのだ。
 東京の杉並区にいる妻子のことは考えるまいとした。
 考えると消耗すると考えたのだ。
 けれど、努力する必要もなかった。
 前夜の不眠で削がれた体力、精神力は、ほぼ限界に達していた。
 私はただ汗で色の変わった麻袋のようになって土によこたわり、静かに息をついていた。」

 予想通りに最後はバグを捨てて走り、真後にいた大尉が被弾するという状況の中、九死に一生を得た氏はようやく首都バンコクのホテルへたどりついた。
 前線のベトナム兵士をこう書く。

「荒野や沼地を歩いている彼らは銃をさかさまにかつぎつつ、鉄や米袋の重さにひしがれて、ただ命令のままにうごく昆虫にすぎなかった。
 彼らは仏壇にお灯明をささげ、暗い小屋のなかで家畜のように眠る。
 野ネズミやナマズを食べ、守がはためきはじめると銃を投げてしゃがみこむ。
 体に穴をあけられると、ひとことも呻かず、まじまじと眼をみはって、びっくりした子供のような顔つきで死んでゆく。
 あるいは〝蒸発〟してベトコン側に投降し、あるいは村を歩きまわって屋根裏にかくれる。
 ベトコン側にいった兵士は一ヶ月もたたないうちに剛勇無双のゲリラ戦士として再登場し、かつての仲間を信念によってうち殺す。」

 農民たちのほとんどは、平和な暮らしを望み、ベトコンになった人々の多くもまた共産主義者ではなかった。

「この国の農民はおそろしく貧しい。
 子供はたくさん生まれるが先人に達する前に非衛生的な状態のために死んでゆく。
 だから出生率はすごいものであるのに北海道を二つあわせせたくらいの面積にしかすぎぬこの小さな国が人口超過にならず、ジャングルはいつまでもジャングルとしてのこっていくのである。」

 彼の眼にはこう観えた。

「アメリカ市民の血税はどんどん流れこんだが、サイゴンから村へ豚や米や肥料がとどく途中でどんどん抜かれた。
 あるダナンの坊さんの表現によれば、この国にはネズミが多すぎるのである。
 そしてアメリカ市民の血税はサイゴン経由で本国の石油会社や武器会社に払いもどされていった。
 ベン・キャット砦の兵卒や将校の持っている、迫撃砲をも含めた火器類は大半が第二次大戦用に製造された年式の刻印を持っていた。
 ロケット弾や武装ヘリコプターやジェット機などは最新式である。
 漠然と私はアメリカの武器商人が古くなった武器の倉庫の戸をサイゴンに向けて全開しているのだという印象を受けた。
 人殺しが起こったらまず女、それから誰がトクをするかを考えろという東京の推理小説ブームに影響されすぎたのであろうか……。
 アメリカ兵は基地においてもジャングルにおいても、私が書いたよな意見を持って暮らしている。
 彼らが例外的なアメリカ人なのか一般的なアメリカ人なのか、私は知らない。
 けれど、もしベトナムを舞台にして、最前線のアメリカ人を主人公にして私が小説を書こうとすると、題は〝気の毒なアメリカ人〟ということになるだろう。」

 開高健氏が従軍した10年後、ベトナムは北ベトナムにのみ込まれる。
 イデオロギーや先入見を離れた作家の眼は、戦争の実態と戦争をさせるものの実態を私たちへ突きつける。

 戦争は、経済の分野でも、政治の分野でも、そして宗教の分野でも、いたるところで行われている。
 血を流しているのは誰か?
 果実を得ているのは誰か?
 6月15日付の朝日新聞は「米ヘッジファンド 暴落前に売る手配」と報じた。
 日経平均株価は5月23日に1143円もの暴落を演じ、下げ足を速め、乱高下をくり返している。
 暴落の一週間前、「米西海岸に拠点を置くヘッジファンドの首脳」が大規模売りの準備にとりかかっていたという。
 今の日本の政治は株価と円相場をにらみながら進み、経済界も神経を尖らせている。
 政策は、当然ながら庶民の暮らしを左右する。

 決して〈黒幕捜し〉や〈犯人捜し〉といった狭い視点ではなく、角張ったイデオロギーで理論武装するためでなく、事実を観る眼を養うため、自分の頭でものを考える自立の精神を失わないため、想像力を枯渇させないために『ベトナム戦記』が広く読み継がれることを願う。
 きっと、アジアで生きる人々の哀れさ、愛しさも感じられることだろう。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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