コラム

 公開日: 2013-06-28  最終更新日: 2014-06-04

第六回法楽塾 ─『ダライ・ラマ法王の仏教哲学講義』を読む(7)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






【ダライ・ラマ法王の仏教哲学講義】       

第一章 仏教における論理的思考の重要性

 第三節  仏陀の説法の歴史性

3 大乗(ダイジョウ)は仏説か

 お釈迦様が入滅されてから約500年もたって、ようやく、ほとんど口承の状態だったお釈迦様の教えがまとめられました。
 それが『法句経(ホックキョウ)』や『スッタニパータ』などの経典類です。
 しかし、その内容は、お釈迦様が相手に応じ、ことに応じ、時に応じて説かれた対機説法(タイキセッポウ)の伝聞だったために、体系的にまとめられていないのは当然、お釈迦様が覚りに至った道筋や、目ざされた理想世界も又、体系的に記されようがありませんでした。
 だから、その後、今に至るまで、お釈迦様が達した覚りの境地をいかにして目ざすか、理想世界はいかなるものであるかが無数の行者や聖者によって日夜、研究され、変化発展しながら伝えられてきました。
 その過程において、究極的理想像がさまざまにイメージされて新しい経典と仏像ができ、一人一人が目ざすべき〈よき心〉とは〈皆共に〉以外にありようがないことに気づかれ、菩薩(ボサツ)を船頭として覚りへ向かう大きな船にたくさんの人々が同乗する大乗仏教の流れができました。

 この流れに対して、入滅した〈お釈迦様そのもの〉が〈そのように説いた〉かどうかを議論する人々が現れ、『般若心経』や『大日経』などはお釈迦様が説かれた形跡がないから「仏説」ではないとする「大乗非仏説」という思想が今もあります。
 この議論は、そもそも仏陀とは何か?という問題を避けて通れず、歴史文献に頼る人々と、お釈迦様の境地を目ざすことを第一とする行者との距離にはかなりの隔たりがあるようです。
 ダライ・ラマ法王は説かれました。

「大乗が仏説であるかどうかについて、たくさんの議論が行われてきましたが、マイトレーャ(弥勒菩薩)は、その『大乗荘厳経論』において、大乗が現実の仏陀によって説かれたものであると論証しました。
 それは、なーガールジュナが『宝の輪』のなかで、またバーヴァヴィヴェーカ(清弁)が『論理の炎』で、あるいはシャーンティデーヴァ(寂天)が『菩薩行への道』で論証したことでもあります。
 とはいえ、大乗の経典が仏陀によって現実に述べられたということは、一般に知られている歴史文献において明らかになるようなことではありません。
 以上がわたしの理解です。」

 お釈迦様の教えを正しく学び実践する後代の行者や聖者が感得した覚りの世界はすべて、お釈迦様が体現された智慧と慈悲を離れるものではなく、仏陀つまり〈覚った者〉が説かれたと言えるのではないでしょうか。
 
 ダライ・ラマ法王はさらに続けられます。

「その上、密教は一般には公衆の面前では説かれませんでした。
 それは精神が一定のレヴェルにまで成熟した特定の人に対して、密かに開示されるものでした。
 あるいは特別なカルマと徳を持つことによって優れた境遇にある修行者のヴィジョンの中にマンダラの主尊が現れて、タントラの教えを授けるという場合もありました。
 したがって、これらの仏陀の教えは、現実の釈尊が生きている間に説くことのできるものであったし、またかれが亡くなってからでさえ、修行者のヴィジョンの中に現れて説くことが可能だったのです。
 このように仏陀の説法は通常の歴史記録の領域内の出来事ではなかったと言わなければなりません。」

 居合の稽古も同じです。
 隠形流(オンギョウリュウ)居合においては、初心の行者は真剣を手にすることが許されません。
 まず、剣をふるう際の心構えをきちんとつくり、木刀や模造刀を正しく握り、正しく動かせるようになって初めて、責任者から真剣の使用が許されます。
 最近、ちょっとした折りたたみ式のナイフを買って驚きました。
 指が刃に触れただけで切れそうな、あまりの切れ味なのです。
 リンゴの皮をむく時でさえ、一種の緊張感を持たないと危なくて大変です。
 より安く、より切れるようにと開発された素材のせいでしょうが、考えさせられました。

 密教の経典は「欲をなくせ」とは説きません。
 智慧と慈悲を兼ね備え、大欲(タイヨク)を持って生きるのが人間の理想であり、人間が手の届くところにおられる菩薩(ボサツ)は大欲の権化(ゴンゲ)です。
 しかし、思いやりと空(クウ)について学び、自分の煩悩(ボンノウ)や因縁をしっかり認識し、愚かさに気づき、恐れ、自他を救うために何としてもみ仏に近づこうという強い意欲を持たねば、大欲はなかなか理解できず、〈今ある欲の延長上〉で安易に大欲をイメージすれば、まちがいます。
 それは、未熟なままに真剣を手にするようなものであり、切れ過ぎるナイフを無造作に使うようなものです。
 また、飛行機が離陸するためには車輪で滑走路を走ります。
 悠然と大空を行くことがいかに爽快であれ、その操作法に熟練するだけでは飛び上がれません。
 きちんと点検された車輪を用いて地道に走る段階を経る必要があります。
 お大師様が他の宗教はもちろん、当時盛んだった奈良仏教を排斥せずに尊び、他の信仰と争わず、一切の宗教宗派のみならず天文学や薬学のようなものまで志のある人々へ学ばせようとしたのはそのためです。
 当山は、僧侶の養成においては、倫理学と歴史学はもちろん、少なくとも哲学と文学と心理学と物理学の基礎を学ぶ必要があると考えています。
 論理的思考法に慣れ、心理の機微と言葉の用法をつかみ、精神のはたらき具合とモノの世界のしくみを知ることは、大乗仏教を支える車の両輪である空(クウ)と唯識(ユイシキ)の思想をより深く体得し、人生相談に応じる上で大きな力になることでしょう。
 基礎を学ばず、中年になってから出家した浅学非才の行者が持つ、これからの時代を担う若い僧侶の方々へ対するささやかな願いです。

 回り道をしました。
 つまり、この身に即して仏に成ろうとし最短距離をめざす即身成仏(ソクシンジョウブツ)の密教は、お釈迦様の境地を目ざす大乗仏教であることは確かですが、お釈迦様ご自身が救いを求める人々すべてへ、あたかも真剣や切れ過ぎるナイフを手渡すように説かれたかどうかは、また、別次元の話になります。
 ダライ・ラマ法王は、このようなことごとを含めて「仏陀の説法は通常の歴史記録の領域内の出来事ではなかった」と説いておられるのでしょう。

 自分の愚かさを知り、他を見捨てられず、心から何とかしたいと願う私たちは、今の日本で信仰の対象になっている各種の仏教が、お釈迦様の口から直接説かれたかどうかと詮索するよりも、縁になった教えをよく学び、幅広く自分の頭で考え、咀嚼(ソシャク)し、納得できたなら血肉になるよう精進したいものです。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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