コラム

 公開日: 2013-07-10  最終更新日: 2014-06-04

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ ─共に生きるありがたさ─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 明治43年に詠まれた石川啄木の一首は、今も、子供たちが学校で習っているのではないでしょうか。

「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ」

 東京朝日新聞社の校正係としてはたらいていた当時24才の石川啄木は、仲間たちがそれぞれ順調に力をつけてきているのに、自分だけはくすぶったままでいると感じていたのでしょう。
 しかし、社会では負け犬感覚に苛まれながらも、花を手に妻子の待つ家へ帰れば「何のことはないさ」と切り替えて気持が解放されたのでしょう。
 この歌を思い出すたびに、受験に失敗し、東京の片隅にある小さな公園で雨に濡れそぼちながらベンチに座り、自分と同じようにびしょびしょのままで歩いている野良犬を眺めていた頃の気持がよみがえります。
 あの時の惨めさは、「負け犬」という言葉へ強い忌避反応を起こさせるようになりました。
 最近では、「負け組」の持つ無慈悲さに耐え難い感覚を持っています。

 石川啄木は歌の力で負け犬根性を吹き飛ばしましたが、彼がそれができたのは妻子がいたからです。
 私は、電車のデッキに立ち、心で泣きながら帰郷しましたが、妻子を養いつつがむしゃらにはたらく中で、負け犬根性は消え去りました。
 その後、事業に失敗してすべてを手放したおりに何とか持ちこたえることができたのも、ここを通り抜けていた体験の影響が大きかったと考えています。
 しかし、今の日本の若者たちは貧困になり、使い捨てにされる恐怖を抱きながら結婚できぬままに青年期を過ぎつつあり、石川啄木や私のような形での解放はどんどん難しくなってきているように思えてなりません。

 ところで、こんな社会ではだめだから仕組みを大きく変えろ、とか、もっと自由に稼げるようにしろ、といった声は大きく聞こえますが、私たち一人一人がどういう社会で生きたいと願っているのか、社会へ求めるものは何なのか、といった地道な声はあまり聞こえません。
 そもそも、皆が〈安定した生活で安心な老後を〉と願ってきた結果、高齢化社会ができたのであり、皆が〈もっと、もっと、自由が欲しい〉と願ってきた結果、家族や地域社会が崩壊したのであり、皆が〈自分だけが大きく稼ぎたい〉と願ってきた結果、格差社会ができたのです。
 つまり、今の日本が抱えている難題は、希望の現実化がもたらしたものであり、この希望そのものをあらためて考えなおしてみない限り、解決法は見あたらないのではないでしょうか?

 当山は、「一人残らず皆が共に生きてゆく仲間である」という意識を持つ、あるいは取りもどすことが肝要であると考えています。
 決定的に失われつつあるのはこの心であり、この心が伴っていない限り、いかなるよき希望も必ず難題をもたらすのではないでしょうか?
 ここしばらく、争うように改革が叫ばれてきました。
 より大きく仕組みを変えよう、より早く誰しもが儲かるようにしよう、と明らかな成果を競ってきましたが、小さな成果は上がっても無理がもたらす破綻の影響が大きく、誰が見ても明らかに無慈悲な社会になりつつあります。
 おちついて考えてみましょう。
 私たちが元気で長生きしたい、自由に生きたい、収入を増やしたい、と願うのは当然です。
 しかし、結果を見て明らかなとおり、「一人残らず皆が共に生きてゆく仲間である」という日本人が本来持っていた感覚が失なわれれば、烈しい願いの先には恐ろしい格差社会が到来し、隔絶された二通りの人種しかいなくなりかねません。
 経済的にも精神的にも貧しい多くの人々と、経済的に豊かで精神的に貧しい一握りの人々です。
 前者の心の貧しさは余裕のなさによるものであり、後者の心の貧しさは高慢心によるものです。
 そして、双方があいまって無慈悲な社会をつくりだし、潤いの失われた社会はどんどんギスギスし、ちょっとしたことで烈しく方向を変え、常に攻撃する対象を探し、一人一人に燻るやるせなさの原因を仲間へ求め、国家社会へ求め、やがては外国へ求めることになるかも知れません。

 大切なのは、仕組みを変えることよりも、心を変えることではないでしょうか?
 人として当然の願いをほどほどに持ち、他人の願いにも心配りをするところにこそ叡智がはたらき、潤いのある社会ができるのではないでしょうか?
 この「ほどほどに」をもたらすのが、「一人残らず皆が共に生きてゆく仲間である」という意識です。

 石川啄木は、ふるさとに対して相反する思いを抱いていました。 

「石をもて 追はるがごとく ふるさとを 出でしかなしみ 消ゆる時なし」
「ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく」

 いずれにしても、彼には、ふるさとがありました。
 冒頭の歌に詠まれた家庭もまた、帰るふるさととしての役割を持っています。
 しかし、私たちはどうでしょう。
 ふるさと、すなわち、生まれ育ち心身の基礎をつくってくれた地域と自分の心との関係はどうでしょうか。
 また、生きものとして生きる空間における家族や友人との人間関係はどうでしょうか。

 およそ100年前につくられた冒頭の歌は、昔のことだからと捨てられ、忘れ去られてよいとは思えません。
 なぜなら、生まれ、育ち、生き、はたらき、育て、渡して死んで行く人の一生が持ついのちのリズムは、いつの時代も変わらず、私的に憩える人間関係や場所を持つ人々によってしか、潤いのある社会はできあがらないからです。
 冒頭の一首に無関心ではいかがなものでしょうか。
 かといって、あまりに涙が流れるようでも悲しいものがあります。
 よく考えてみたいものです。
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 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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