コラム

 公開日: 2013-07-13  最終更新日: 2014-06-04

遺棄死体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし ─いのちへの想像力─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 昭和15年、日中戦争の報道写真を目にして55才の土岐善磨(トキゼンマロ)が詠んだ一首です。

「遺棄死体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし」

 おびただしい死体が遺棄されたままになっている戦場。
 数百、あるいは数千のいのちが失われていますが、その一つ一つは皆、一人一人の生きた人間と共にあったのです。
 
 私たちは、砂漠の国で起こった爆弾テロの犠牲者が10人という報道に接しても、もはや、あまり強い印象を持てなくなりつつあるのではないでしょうか?
 それは、無意識に、希に報道される50人や100人という規模に比べれば小さいと感じているからです。
〈10人が死んだ〉ことは、〈100人が死んだ〉ことより大したことはない、という意識がはたらくのです。
 しかし、〈死んだ人が10人いる〉と受け止め、家族や友人など、あの人やこの人が一気に亡くなったことを想像してみれば、それがいかに凄まじい事態であるかに衝撃を受けることでしょう。
 その時、土岐善磨のように、まさにかけがえのないいのちが10、奪われてしまったことの真の意味が明らかになるのではないでしょうか。

 7月11日付の朝日新聞は、元米国務長官コリン・パウエル氏へのインタビューを核不要論として掲載しました。
 氏が不要とする理由は明確です。

「極めてむごい兵器だからだ。
 まともなリーダーならば、核兵器を使用するという最後の一線を越えたいとは決して思わない。
 使わないのであれば、基本的には無用だ。」

 この論旨の肝は「むごい」と「まともな」にあります。
 いかに惨(ムゴ)い結果をもたらす兵器であるかをよく認識しているのがまともなリーダーであり、それは、惨さをリアルに想像でき、そこから離れない人間でなければなりません。
 ここに核兵器の危険性が顕わになっています。
 核兵器という悪魔の武器が存在するのもさることながら、最も恐ろしいのは、前述の想像力を持ったまともなリーダー以外の人間が発車のボタンを押せる立場に立って何の不思議もないことです。
 政治家のいわゆる失言のほとんどは想像力の欠如がもたらしており、私たちは、そこをきちっととらえ、そうした人間がリーダーでいることを真剣に怖れねばなりません。

 ここのところ、中国では、故毛沢東に関する逸話がチラホラと報道されているようですが、その中にはこうしたものもあります。

「もし、第3次世界大戦が勃発したら、ソ連には傍観を勧め、毛沢東が中国人民を率いて米軍を中国の戦場に引きこむ。
 そして、負けて退く振りをして、ゆっくりと米軍を中国本土に引き込む。
 アメリカが主力軍を中国戦場に投入したら、ソ連に原子爆弾を落としてもらい、米軍を一網打尽にする。
 こうすると、中国では4億人が死ぬかもしれない。
 大同世界のために、中国の人口の3分の2を犠牲にしても値打ちがある。
 4億人が死んでも、何年もしないうちに、中国はまた6億人の人口を恢復できる。」

 彼のかつての発言を考えれば、内容には特段、驚かされず、事実であろうと思われます。
 狂気をはらんだ主張は、彼の人間性と尖ったイデオロギーがもたらしたのでしょう。
 それは、彼のような戦闘的タイプの人間が尖った主張を始めれば、彼のように〈生身の人間〉への想像力を欠いた思考や行動に突き進みかねないことを意味します。
 私たちがリーダーを選ぶ際には何を見極めねばならないか、彼は恰好の反面教師と言えましょう。

 さて、永田和宏著『近代秀歌』は、土岐善磨の「有名な戦争の歌」として、もう一首、昭和21年の作品を紹介しています。

「あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ」

 太平洋戦争に敗れた直後、ふとしたおりに、妻から「あなたは本当に勝つと思って(あるいは、勝とうと思って)戦争に加わったのですか?」と訊くともなく訊かれ、彼は胸を衝かれています。
 勝ち負けの世界へ入り込み、人間としての想像力を脇へ置いてしまっていた歌人は、いかに深く自分を省みたことか……。
 その深さは「さびしげに」の一言が余すところなく顕しています。
 自分だけが勝者になろうとする自由競争、あるいは弱肉強食礼賛の思想が私たちから奪い去ってしまいかねない〈人間が人間たる根源〉を、よく考えてみたいものです。
 
 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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