コラム

 公開日: 2013-07-19  最終更新日: 2014-06-04

蝉しぐれ子は担送車に追ひつけず ─幼子を置いて逝く母親の諦観─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 死は人間と人間を引き裂くが、その現場に先んじるかのように、心がスッと向こうへ行ってしまう達人もおられる。

 明治42年(1909年)生まれで36才の石橋秀野が昭和22年(1947年)に遺した絶筆である。

「蝉しぐれ子は担送車に追ひつけず」

 困窮の疎開生活が招いた結核の悪化により、京都の国立療養所へ入り、ストレッチャーで隔離病棟へ運ばれてゆく光景を詠んだ。
 子は、6才の安見子(ヤスミコ)である。

 もう会えないと察した娘は「お母さん」と叫びながら追いかけようとする。
 ストレッチャーを押す看護婦たちは、振り切るように急ぎ足となる。
 きっと、誰かが娘を押し止めようともしたことだろう。
 天井を見たままの母にはどうしようもない。
  
 この誰しもが胸の張り裂けそうになる空間を切り取り、文字として永遠の次元に昇華させる魂があった。
 それが死へ向かう当事者であるとは、まるで幽体離脱しているかのような感がある。

 暑い京都だがエアコンなどのない時代ゆえ、涼しい風が入るように廊下の窓は開けてあり、風と光と天地へ広がる蝉たちの声がたっぷりと入ってくる。
 その氾濫の中で、娘の声も足音も気持も、たちまちに遠ざかり、眼はつむったままで涙を流し、耳はただ、蝉しぐれだけを聴いている。
 そして、この句を詠んだ。
 仲間は追悼の言葉を述べた。

「生きながら俳諧の鬼女と化した」

 ところで、安見子は『万葉集』にある藤原鎌足の一首からもらったのだろう。

「われはもや 安見子得たり みな人の 得がてにすといふ 安見子得たり」

(私はもう、安見子を妻に迎えた。誰しもが欲しいけれど得がたいと思っていた、その安見子を妻としたのだ)
 安見は、天皇(スメロギ)や大君(オオキミ)にかかる枕詞(マクラコトバ)で、「安見知る」と用いられ、天皇が安らかな心で国を治め、その安らかな心によって国民もまた安らかに過ごすという意味がある。

「やすみしるわが天皇の御代(ミヨ)にこそさか井の村の色も澄みけれ」

 現在は、安見子という命名はほとんどないのではなかろうか。
 あるとしたら、「安見(アミ)」さんではないか。
 しかし、たとえば、碧子(ミドリコ)さんという方もおられるように、以前は、よく女の子に「子」をつけた。

 秀野が安見子と名づけた時の思い、そして、診療所での別れ……。
 抗いようのない非情な現場にはさまざまな感情が渦を巻いていたはずなのに、幾度読んでも、この句からは激情ではなく〈振り切ってしまった〉透明な境地が感じられる。
 きっと、そこが「鬼女」たるゆえんなのだろう。
 
 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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