コラム

 公開日: 2013-07-25  最終更新日: 2014-06-04

よぶこどり ─本当の母親は?─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






〈世界文化社『浜田広介童話集』からお借りして加工しました〉

 浜田広介の童話に『よぶこどり』があります。

「みなさんは、知っていますか。
 また、みたことがありますか。
 よぶこどり(呼子鳥)という鳥を。」

 一匹で暮らしているリスが畑で拾った卵を抱いていると雛が孵りました。

「ひながぴいぴい鳴きたてると、りすは、すぐに子もり歌をうたいました。
 りすは、たいそう歌がじょうずでありました。
 いつまでも、うたっていました。」

「ひながねむると、りすは、やぶからぬけだして、いそいで森にいきました。
 そして、えさをさがしあてると、いそいでやぶにもどってくるのでありました。」

 リスは雛をカッコウと名づけ、カッコウはリスを実の母親と思っていました。
 リスのいないある日、カッコウは、話をしていたモグラから意外な話を聞きます。

「おまえさんは、ね、たまごだったよ。
 畑におちていたんだよ。」

「ながいながい夏の日が、森のかげにしずむじぶんに、りすは森からもどってきました。
 りすは、さがしてきたえさを、ひなにやろうとしましたが、ひなにげん気がありません。
『どうかしたの。』
 りすは、さっそく、しんぱいそうにききました。
『おなかが、いたいの。
 すこしなの。』
 と、ひなは、こたえていいました。
 すると、りすは両手でそっと、おなかをなでてくれました。
 ひなは、おなかをなでてもらうと、かえってかなしくなりました。
『やっぱり、これが、おかあさんにちがいない。』
 ひなは、そう、心にはっきり思いました。」

 しかし、疑問の雲は消えず、何度も自問自答をくり返していたカッコウは、自然に、自分とリスの身体の違いに気づきます。
 そして決定的な時が来ます。

「ある日のひるすぎに、ひなは、やぶから明るい空をながめていました。
 空は青く、どこまでもつづいていました。
 みていると、むこうから一わの鳥がとんできました。
 鳥は、つばさを波のようにうごかしながら、だんだんちかくなってきて、ちょうど、ひなのあたまの上を高くよこぎりました。」

 カッコウは、飛び去る鳥の姿が自分に似ているので、「じぶんにも思いがけないかんがえがうかんで」きます。


「あれが、ほんとうのおかあさんじゃないかしら。」

 そして、遠ざかる鳥のあとを追いかけます。
 森から戻ったリスは、カッコウがいないのに気づき、帰ってくるのを待ちます。



「日はとっぷりとくれました。
 それでも、りすは、やぶのそとにひとりしゃがんで待っていました。
 しょんぼりと小さなりすの黒いすがたがみえました。
 そうするうちに、山のきわが明るくなって、月が空にのぼってきました。
 けれども、ひなは、そのすにもどってきませんでした。
 とうとう、りすは夜どおしおきて待っていました。
 月の光はだんだんに空からうすれて、東の空がしずかにしらみかけました。
 夜が青くあけてきました。
 けれども、りすは、ものもたべずにしくしくとないていました。」

 そこへ一羽のカラスがやってきて、カッコウが「そらへのぼって」いったことを教えます。

「まあ、空へ。
 もうもどってはきませんか。」

 泣き泣き尋ねるリスへ、カラスは答えます。

「山のさくらがさいたなら、たぶん、もどってきましょうよ。」

 リスが毎晩カッコウの夢を見ているうちに、夏は終わり、秋から冬、そして春と季節が巡ります。

「さくらがさくと、りすは毎日やぶをでて、空をながめてまっていました。
 りすは、いつか、からすからきいたことばをわすれずに思いくらしているのでありました。
『山のさくらがさいたから、きっと、もどってくるだろう』
 そうかんがえて、朝はまだくらいうちから目をさますのでありました。
 みていると、東の空はしだいに赤くそまってきました。
 りすは、じぶんで気をはげまして、やぶの中と、そのまわりとをかたづけました。
 きょうこそは、きっとかえってくるであろうと、みねの空をながめていました。」

「山のさくらは、そうするうちにちりかけました。
 一日、雨がふりつづいて、花の色はさびれてきました。
 そうして、ひと晩、風がふいて、雪のような白いさくらは山にみえなくなりました。」

 リスは自分が鳥になればカッコウを見つけられるだろうと考え、「ああ、鳥になりたい。」と願い続けます。

「りすの二つの目の玉は、だんだんにくぼんできました。
 足も、しりおも、しだいにほそくなりました。
 とうとう、夏のある朝に、りすは、小さな一わの鳥になりました。
 りすは、すぐにやぶからとんでいきました。
 夏の山は、いちめんに青葉がしげり、太陽の光をうけて、きらきらとひかっていました。
 カッコウ、カッコウ、……
 まもなく、山から、そう鳴く声がきこえてきました。
 それは、だれかをよぶような、さびしい声でありました。
 カッコウ、カッコウ……
 声は、しずかな山いっぱいにひろがりました。
 ひろがっては、一つ一つ谷のそこにきえました。
 山のふもとの人たちは、そう鳴く声をききつけて、いつからともなく、その鳥を、よぶこどり(呼子鳥)と名づけるようになりました。」

 夏になると、どこからかやってきたカッコウが輪郭のはっきりとした声で鳴きます。
 確かに「山いっぱいに広がる」感じです。
 カッコウは托卵(タクラン)をします。 
 オオヨシキリヤホオジロやモズや尾長鶏の巣に産み付けられた卵は、巣の持ち主の卵より先に孵化し、邪魔な卵やヒナを巣から落とします。
 ちなみに、同種の巣へ他の鳥が卵を産むのは珍しくないそうです。

 意志せぬ成り行きで親になり、子になり、やがて出自に気づいた子が飛び立ち、それでも我が子を忘れられない母親……。
 我が子を殺されても縁となった子を育てる鳥の世界に想を馳せ、過酷な運命の中でまごころを尽くすリスとカッコウに託した作者の気持が伝わってくる作品です。

 曾野綾子氏は、7月24日付の産経新聞「透明な歳月の光」で書いています。

「言葉というものの持つ機能の奥深さは人生そのものだ。
 だから漫画だけではなく、文字による本を読むことによって、知らず知らずのうちに、人間の精神の複雑な反応を教えられ、自分の個性が当然のことながら他人と違うことの意味も教えられる。
 人間は、同じ文章を読んでも、決して同じ情景を想像しないという不思議な個性を持っているのである。」

 この、ひらがなが多い童話のダイジェスト版を読んでも、皆さんの受け止め方や感想は千差万別でしょう。
 自分の思いと異なった思いを持つ他者がいること、そして、それぞれの思いに誰も「重い」「軽い」などとレッテルを貼れないことを考えてみるのも、自己中心の勘違いから離れるよいきっかけになりましょう。
 リスさんありがとう、カッコウさんありがとう、亡き浜田広介さん、ありがとうございます。 

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0



 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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